123話 春休み
「ふぁ~……」
春暁詩の「春眠暁を覚えず」って、半分は花粉症が原因な気がする。
欠伸を漏らしながらそんなことを考えてみる。
次年度へ向けた春休み、我が校では出された課題も少なく、修了式を終えるまでにその半分以上を済ませてしまっていた。
それで緊張感がすっかりなくなってしまったためか、起きる時間が遅くなってしまった。いつも起きている時間よりも1時間半以上遅く起きてしまっている。長期休暇中は大体、起きる時間が遅くなってしまうモノだが、春休みは2週間程度という短さゆえに生活リズムを崩したところですぐに戻さなければならないこと、そして今年は受験の年であることから春休み中も勉強がしたいと思ったことからあまり遅くに起きてしまうようなことを避けようとしていたところでこれだった。他にすることもある、改めて気を引き締めないと。
「さーて、お勉強お勉強~」
朝食をささっと済ませて自室へと戻り、残りの課題から取り組もうと問題範囲の参考書のページを開いた。
「はぁ、取り敢えず休憩しよ」
キリの良いところで時計を一度見てみると、始めてから1時間と少し経ったくらいだった。昼食には少し早いけど、昼食に合わせて勉強するとキリの悪いところになるかも知れないと思って、昼食を摂ることにした。
「なーに食べよっかなー」
冷蔵庫、冷凍庫、野菜室、食品庫を見て回り、考えを巡らせてみる。
≪ピーンポーン≫
昼飯を選ぶ前に、来訪者。こんな時間に誰だろう。何か配達物とかあったっけ? それとも親が何か大きい荷物でも持って帰って家に入れるのを手伝って欲しいとかだろうか?
「はーい、今行きまーす」
食品庫を閉めて身なりを多少整えるのに少し時間が掛かってしまったので、インターホンを確認することなく玄関にへと向かった。
ガチャリ
「あ、おはよう」
「お、おはよう……」
扉の先には同級生の隣人が朗らかな顔で立っていた。
因みに俺の挨拶がぎこちないのは、俺の恰好が中々生活感溢れる部屋着で今の実に見られてそれなりに羞恥を感じるからだ。
「どした?」
「メッセージ、見た?」
「あー、さっきまで課題に集中してて見てなかった」
その手のツールの通知も音を出すタイプのモノは選んで無いし。
「そっか。じゃ聞くけど、お昼はもう食べた?」
「今から食べようとしてたところ」
「もう作った?」
「いやまだ。作るために台所に移動してただけ」
「じゃあさ、良ければ今から一緒に、どこかに食べに行かない?」
「うーん……」
一応、昼食後も課題と受験勉強をしようとは思っていたんだけど……。
「OK。ちょっと待ってて」
「ん。分かった」
すぐに出る予定であるとはいえ、女の子を未だ肌寒さ残る空の下で待たせるのは忍びなかったので一度家に上げた。
「すぐに準備しないとな」
勉強を早めに切り詰めても精神のスタミナが切れるだけとも聞くし、ここはリフレッシュとして実に付き合うのが良いと判断した。……というのは言い訳で、本当はただ実が誘ってくれたので一緒に過ごしたかっただけなのだが。
「っと、裏表逆か? これ?」
気持ちが逸っていた所為か、服の着方も間違えてみたり。
「お待たせ、それじゃ行こうか」
「そんなに待ってないから、ね」
明朗としている実はその言葉のついでにウィンクをして見せた。
「あ、ああ……そう言ってくれると助かる」
実としてはちょっとしたおふざけのつもりだったようだけど、俺にとってはとても心臓に悪い不意打ちだった。挙動不審にならないように気を付けたけど、その感は拭えなかった。
「ほいじゃ改めて、行きましょっか」
「おう」
家の鍵をかけて実の隣に駆け寄り、手を繋ぐ。どこの食事処に向かおうかと考える前に、いつの間にか何の抵抗もなく実と手を繋いで歩いていることに気が付いて、自身の照れが動揺を与えたのだった。




