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13話 量りし者はかく語りき

 時は実が「戻るための会」と初めて会ったときにまで遡る。


―Minol Side―


「取り敢えず松前君は、男に戻りたい……女性の身体に変わったままで居たくないってことでいいのかな」


「は、はい……」


「一応確認しただけだよ。そんなに緊張しなくても」


 周りは先輩だらけなので、緊張しない訳はない。


 先輩らはなんとなくの空気感で部屋の中の椅子を引いて座る。そして俺もそれに続いた。


「で、つまり原因は……“彼”か」


「は」


「君をここに連れて来た“彼”……細染君のことだよ」


「え?」


座った熊野先輩から投げられた質問に、言葉が詰まる。


「そ、そんな訳、お、俺はそのっ……周りの野郎たちに対してそう見てしまうってだけでっ……」


「あー、はいはい」


 熊野先輩は俺の否定を軽く流し、周りの先輩らも苦笑していた。


 そして一息吐いてから、熊野先輩は再び口を開いた。


「あんまり自分の感情に反発し過ぎない方が良い」


 その言葉を放った熊野先輩の顔は、決して茶化したようなものでも、ふざけているものでもなかった。


「……」


 俺はその言葉に黙ってしまったが、先輩は続けた。


「『戻るための会』にもそういうヤツはいたんだ。特定の人物に対して意識を向けてしまう、そういった感情を持っていた人間。その中でも、自分の感情になるべく向き合わず、背けていた人間が」


 熊野先輩もそうだったし、御地先輩も何かを思い出しているような表情をしていた。ただ黒田先輩は以前に聞いた話だっただけであるためなのか、先の2人よりもあんまり興味を示しているようではなかった。


「でもそういう人間が一番その……女になってもいいって感じになってしまったんだよ」


「……何故?」


「俺も詳しいことは知らない。けど、そういう人が多かったのは事実だ。何人かに話を聞けたから、少ないながらの事例ではあるけど、1人は意識してた友人が他の女子と付き合い始めて感情が決壊したって感じ。話を聞けたもう1人は……情……感情が爆発して襲いかけたって話だったかな」


「はぁ……」


 襲いかけた……。ものすごく内容を聞きたい言葉が聞こえたが、あまり聞かな方がいい話かも知れない。


「今の話をした上でもう一度聞くけど、全く細染君に感情が無いと?」


 そうしてもう一度、熊野先輩は真っ直ぐな瞳でこちらの目を射抜いて来た。


「……いえ、多少は……いや結構、意識してしまっているかも知れません」


「うーん……。まあ、そこまで言えたらいいか。兎も角、今は自分の感情を改めて認めて、そこからどう折り合いをつけながら乗り切るのかを一緒に考えていこう」


「そういう熊野先輩は、誰か他の男性に対して意識したりしたこととかあるんですか?」


「俺は……無いけど」


 いや、無いんかい。


「幸運なことに意識してしまうことはなくてね。女体化した俺の好みに合う男が学校然り、俺の周りにいなかったことは本当に幸運だったと言う他無いね」


 無かったのか……冷静に判断できる頭はありそうだけど、相談できるかどうかは微妙かな。


「そのおかげで俺はこれまで長くこの会に居座ってる訳だけど、そこの2人は別だよ。御地は学内の友人に……その……なんというか、強く意識してるというか」


「熊野先輩、別に言ってしまっていいですよ。俺が友人だったヤツの1人に一目惚れしちまったってこと」


 今まで話を聞いていた御地先輩が熊野先輩の言い淀んでいたところをバッサリと打ち明けた。


「それは……本当ですか……?」


「ああ、うん。なるべく考えないようにはしてるけど、“アレ”は一目惚れだったな。男だった時は一度も一目惚れなんてしたことなかったのに。……はぁ」


 それにしても驚いた。俺と全く同じ境遇だなんて。いや、俺の場合は家が隣の親友だったけど、御地先輩は学内の友人だから、少し違うのか? 若しくは親友であることを友人とボカしているだけで同じなのか、どうなのか。


「御地はそんな感じで、黒田君も――」


「俺は誰かに惚れてるって訳じゃないけど、意識して見てしまうときが多いって感じかな。本当に誰かを問わず、校内、街中、目が行くヤツがたまにいるって感じ」


 黒田先輩は熊野先輩の話を遮り、飄々と話した。


 それぞれの話を聞くに三者三様、それぞれの状況、それぞれの環境があるようだ。つまり、あらゆる視点からの助言がもらえるかも知れないということか。


「今年度はそれぞれの知見の報告はまだしてなかったし、今、改めてそれぞれの話をしようか。最初は松前君からでいいかな? 知見の方は別にいいけど、最初に体が変わってから、どういう生活の変化、心境の変化があったのかを言って欲しいかな。俺たちも体が変わった時の気持ちとか、不安とか、忘れてしまっているかもしれないからね」


 勿論俺も、先輩らと情報を共有してより対策の効果を高めるために、協力は出し惜しみしないと言う意思を固めたのであった。

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