120話 心根
「そろそろ、飯行くか」
「そだね。時間もお腹も丁度良いくらいだし」
ウィンドウショッピングを続けて幾時間。昼飯時も近づいてか、人が増えて更に賑わいだしてきた。12時を回らないくらいの時間帯だけどこれから混みそうなことを考慮したり、朝から来ていたことを考えたりすると実の言う通り、腹の空き具合も丁度良いくらいになっていた。
「お店悩んでても混んで来るし、ここで良い? どこでもあるお店で申し訳ないけど……」
「米太珈琲店か。良いんじゃない? ここのモールでしかない店って何かあったっけ?」
「ここでしかないお店って訳じゃないけど、フードコートに出店してるお店でいつものショッピングモールにはないお店はあるね。チェーン店だけどそもそも出店してる数が少ない、みたいな」
「そういうのもあるんだな」
そんな雑談しながら店に入った。
「以上でご注文はよろしいですか? ……それでは少々お待ちくださいませ」
言って、店員さんは立ち去っていった。
「それで、最近はどうよ?」
「どうって?」
「調子?」
我ながら話題の切り出し方がド下手だな。
「まあ、普通……くらい、かな?」
実も俺が何を言いたいのかも分からず、無難で無色の答えを出しただけだった。
「あー……もうそろそろ高校最後の学年だし、今までどうだったかなって、さ。TS化してもうすぐ2年になるし、そっちについても慣れた慣れない……みたいな」
「そうかぁ……」
今度はちゃんと質問を受け取れたのか、机に肘を、口に手を当て、目線を水平に移動させ、真剣に考えているのか顔は真顔に近い表情になっていた。
「思えば高校はTS化して、殆どの時間を女として暮らしてたなぁ、とは思うけど……。勉強の仕方とは……よく分からないかな。変わったような気もするし、そうでもない気もするし。中学の勉強と高校の勉強が違うのか、校風自体が違うのか、性別が変わって感性が変わったのか、分からない。どれでもないかも知れないし、全部かもしれない」
自分でもよく分からないってところかな。
「身体の方は?」
「慣れたっていうのはあるかな。暮らしてて……まあ、このままこの身体でも良いっていうか……。踏ん切りというか、覚悟がついたというか、そんな感じ? 前は考えてたけど、『男に戻れるなら』って考えることはもう殆ど……って感じ」
「へ、へぇ……」
年月は人を変えるものだな、という反応をしておいた。が、俺の心はその言葉に動揺した。
実のことについて強く意識している俺はもしかしたら実と……などと考えてしまった。我ながら下衆だな、と自嘲する。恐らく実はそんな意図など無く言っただけなのに。
「ま、女性の中では生理が軽い方っぽいのも踏ん切りがつくのに後押ししたとは思うけど」
「あぁ……うん……」
と、俺の熱された頭を冷やすような言葉を浴びせてくれたおかげで平常心に戻ることができた。……これもまた精神を揺さぶられているんだろうけども。
「もし……、もし、さ」
「お? おう……」
さっきはおちゃらけた態度で話題を締めたのに、神妙な雰囲気を醸し出して口を開いた。
「もし、私が――」
「お待たせいたしました。ご注文の商品でございます」
「あ、どうも」
実が本題に入る前に、店員さんが頼んだ料理を持ってきたらしい。
「それでは、ごゆっくりどうぞ」
2人分の料理を持ってきた店員は再び立ち去り、またテーブルには2人きりになった。
「それで……話って?」
「あー……また話すよ……。いっ、いただきます!」
話の続きを促してみるも、実はバツが悪そうにしてテーブルに並ぶ料理を頬張り始めたのだった。




