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118話 テスト前、休み前

「15分前に着いたのに……早いな」


「わ、私も今来たところだったし……」


 週末になって朝、待ち合わせ場所に集合時間前に向かうも実の方が先に到着していて驚いた。


「その服……」


「え?」


「今まで見たことなかったけど、そんなのあったんだな」


「最近、買ったヤツで……」


「似合ってんな」


「……ありがとう。そっちも良い感じだよ」


「俺のはいつものとそんなに変わらないと思うけどな」


「それでも良いよ」


「……そりゃどうも」


 “買わされた”とか“勝手に増やされた”とか言ってなかったから自分で買ったのだと思って似合ってると褒めて見たら悪くは無い反応。これがもし見当違いな言い方だったなら違うと言ってきたり過度に謙遜されていたりしたことだろう。


「じゃ、行こうか」


「……うん」


 そして出発。それにしても冷えるな。日照時間は増えても気温だけは下がるばかり。何なら1年で1番冷える日かも知れない。昨日は雨だか雪だかが降ったという話だったし。


「実」


「な、何?」


「手でも……繋ぐか? その……路面が凍ってたりしたら危ないし」


「え……う、うん。そうする……」


 いつかぶりに握られる小さな手。去年は良く握っていた気もするけど、今年度はあまり握っていなかった……というか、今年度では握ったのは初めてのはずだ。


「やっぱり結構待ってたんじゃないの?」


「私はそこまで待ってた感覚は無かったけど……」


「手が冷たいからさ」


「あっ……」


「何分待ってたかは聞かないけど、あんま無理すんなよ」


「……うん」


 繋いだ実の細い指から少しばかり力が込められた気がした。


「気になったんだけどさ」


 歩き始めて数分。目的地まではあと半分ほどある。何気ない日常の事や委員会でのことを話していたら、実が話を切り込んできた。


「テスト前の今に遊びに誘ったのって何で?」


 そのことか。


「最近あんまり2人で遊びに出掛けられて無かったなって思ってさ。春休みに入ったらそれはそれで忙しくなるし、年度が変わったらクラス替えもあるし、そこで別のクラスになったら誘いにくくなりそうだし?」


「それは確かに……」


「それにちょっと……実と距離感っていうか、行き違いっていうか、ギクシャクした感があったからさ……」


「うーん……」


 俺の言葉に実は首を傾げていた。


「アレ? 俺の思い違い?」


「そうじゃないけど……まあいいや」


 難しい顔をしていた実は最後には苦笑で話を締めた。そこで俺は話の中であることが思い浮かんだ。


「っと、それと、テスト前で嫌だった? もし無理に付き合わせてしまっているなら――」


「嫌なら来てないし、そもそも断ってる」


「……それもそっか。ゴメン、変なコト言って」


「ん、そっちこそ、気にしないで良いから」


 許されたのか、それともダメなまま続いていくのか、怖いところだ。


「誘ってくれて、嬉しかったし。最近考えることが多くて」


「考えることかぁ……、もう3年だしなぁ……。進路とかどうすんの?」


「一応、進学するつもりだけど……。まー君は?」


「俺も進学するつもり。中3……というか中2の今頃のときってどうしてたっけ、今の時期」


「うーん……あんまり覚えてないかなぁ」


 残りはそんな他愛無いことを話しつつ、目的地までの残りの道を共に歩くのだった。

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