117話 低温火傷
―Minol Side―
今週バレンタインデーが本当にあったのかと疑えるほどに落ち着いた週末、そしてその教室にて。
「久しぶりに今週の休みにどこか行かね?」
私が今、どんな気持ちで目の前の幼馴染に接しているのかも分からないようで、暢気にその幼馴染は私に笑顔を向けてきた。
この幼馴染に対する恋心を抑えるため、そして向こうからも私に対して積極的に接することを大なり小なり少なくさせるために、軽口……それも、ちょっとでも怯ませようと、その中でもキツめの語彙にして手荒に突き飛ばさないと。
「……うん、分かった」
決心はまったく揺らいでいないと自分では思っていたのに、口からは捻くれた軽口では無く真反対に単純で素直な是の言葉が出てきていた。
「……はぁ」
時は進んで放課後。
私が今いるのはショッピングモールの服屋だ。放送委員の企画諸々が順調に進んでいるため委員会に留まる理由は無く、委員会を早退しても何も言われないからこそ冬の陽が沈まない内に来られる、ということ。
溜め息を吐いたのは教室でのことが理由。
何故あんなにもあっさり遊びへの誘いを受け入れてしまったのか。
教室では分からなかったけど、時間が経って改めて考えてみるとそれは明らかだった。
私たちの間の関係を壊したくないからと一先ず考えたけど、それもあったろうけどもそれだけじゃなかった。一日中考えてその感情はゴチャついた色々なモノが混じり合っていることが分かった。
1つ目は期待。未だ私がまー君の隣に居続けることが出来て、最も近い位置を占有できるなんて勘違いし続けて、そうでない可能性を否定している、ということ。「まー君の彼女になりたい」という風に残っている感情が、「まー君の彼女になれる可能性」を意識的に混同している。
2つ目は嫉妬。最近まー君は妹とどこかに出掛けたり、バレンタインでチョコレートを渡したりして仲良くしてる。詳しくは分からないし、見たところ付き合ってはいないように見えるから、去年と同じように渡してそれで一歩踏み込んで仲良くなっているのかも知れない。
この他にも感情はあるんだろうけど、自分自身自覚できるのはこれくらいで、後はモヤモヤとしていてその渦巻きから取り出せる名前のある感情は分からなかった。
理性で動いている頭の部分では馬鹿馬鹿しいなんて思ってすらいるけど、自分の頭のテッペンからつま先までの全体の意見では否定しきれていない。
そんな考えに至って溜め息がつい出てしまっていた。
で。
「う~~~ん……」
服を見て唸っているのはなんとも在り来りな理由。私を誘ったヤツの好みかどうかを思案しているため。
「髪型の話をしたことはあるけど、服の話とかはあまりしたことない気がする……」
中学時代での女性の服装についての話なんてしたことない。
敢えて言うなら、去年の春の大型連休に出掛けたときに話したくらいか。そこでも「ファッションとかにはあんまり興味も知識も無い」、みたいなことを言ってた気がするし。……要はまー君の言葉に出来ない感性だけが道しるべになる、ということ。
「ふぅ~~~む……」
「いらっしゃいませ~。何かお探しですか~?」
「あぁ、はい、そうですね……」
こういう時は店員さんに頼ってみるのも手かな?
「どういったものをお探しですか~?」
「それは――」
男性の好きそうなモノ……と言いそうになったけど、流石に知り合いですらない人にこういうことを言うことに対する羞恥心くらいはあった。
「あーえと、その……似合う感じの、ヤツ?」
「うーん……? あー、はー、なるほど、分かりました。……例えば、こちらの服とかはどうでしょう?」
店員さんは何かを察したようにニヤニヤしながら服を取って見せてきた。
多少、癪に障る気もするけど、もしかしたらまー君が今、妹に……いや、他の女に取られる可能性が高い状態で、そんなコトを気にしている暇はない。
「これも良い感じですけど、他の服とかも見たいですね」
今、出来る判断の内、最善の選択肢を選ぶために多少の見栄を捨てて店員さんの意見を聞いてみることにしたのだった。




