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114話 アフターケア

「おはよう」


「……ん。……お、はよう」


 今日は俺が寝坊したので実とは教室で挨拶することになった。昨日のことがあったからなのか、反応が鈍いというか、良くないというか。もしかしたら単に眠いのかも知れないけど。


「実」


「な、何?」


「あー……いや、後で言う」


「そう?」


 貰ったクッキーの感想でも言おうと思ったが、流石に他の皆がいる教室で言うことでもないなと思って口を閉ざした。


 他の委員たちから貰った分もあるし、昼放送の時に一斉に言ったら良いな。


「まー君」


「ん? どした?」


「ええっと……やっぱ何でもない」


「そっか」


 実もクッキーの感想について聞きたいのだろうか? ま、それならお昼休みまでのお楽しみってことで。


 バレンタインデーの過ぎた学校は落ち着いた日常を取り戻して、時間の流れもいつも通りに過ぎ、昼休み。


「おはようございまーす」


 放送室に入る。中に人は全員の数は揃ってはおらず、数も少ない。


「あ、島津さん」


「ほい?」


 しかし昨日、チョコレートをくれた委員の女子生徒もいたので、その感想も先に言っておこう。


「昨日帰ってから頂いたけど、美味しかったよ。生地もフワフワで」


「それはよかった。ホワイトデー期待して待ってるぞー!」


「……期待に応えられるよう頑張ります」


 去年は徳用アソートパックを差し入れした訳だけど、ウケがよくなかった。男女比率を考えればこれで許して欲しいところだけど、それが許されないのが女性の多いグループというモノらしい。


「ちょっと……、詰めるか下がるかしてもらってもいい……?」


「あ、ゴメン」


 入り口付近で思わず屯してしまっていたため、後ろからの人の邪魔になってしまった。


「あ」


「……」


 振り向いて確認すると、同じクラスの生徒。つまり、実だった。


 声が漏れ出てしまったけど、それで固まってしまっていてはならないと即座に判断し、部屋の奥へと移動した。


「ども」


「うす」


 互いに軽く会釈してほぼ同時に椅子に座った。


「……」


「……」


 気まずい……。クッキーの感想の話をしようとしたところ、その前に実が昼ご飯を食べ始めてしまった。昼飯の最中に貰ったお菓子についての感想、なんとも切り出し難い話題のように思える。


「あのさ」


「?」


「朝言おうとしたことなんだけど……」


「んー」


 迷っていても仕方がないので、実がご飯を食べている最中ではあるけど話を始めた。


「昨日貰ったクッキーさ」


「ゴクン……うん? えーっと……、うん……」


 口に含んでいたものを呑み込んでから考えを走らせ、バレンタインデーに渡したクッキーの感想についての話題であることを解して食事中の和やかな雰囲気はどこへやら、しっとりとしながらもやや緊張したような面持ちとなった。


「美味しかったよ、メチャクチャ……。甘さと苦さと塩味のバランスが良くて……。口直しとしても良かったけど、単体でも十分に美味かった」


「それは……良かった。うん……」


 俺の感想を聞いた実は少しだけ顔を綻ばせていた。しかしまたその朗らかさを失って、真顔のような、考え事をするような顔で視線を落として机を眺めていたのだった。

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