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12話 男女の彼岸

 とある日の放課後……。


「じゃ、行きますか」


「どこに?」


「1階」


 帰る支度を一通りし終え、教室を出る。


 向かうのは1階の空き部屋。元は生徒会室だったが資料や備品が増えて手狭になったようで、現在の生徒会室は別に、そしてこの部屋は多目的に利用されている。時に面接練習に、時に何かのイベントの待合室に、またある時は臨時倉庫などに。


「そんな部屋あったんだな」


「入試の時に使ってなかった?」


「俺は使ってない」


 そういった話をしながら部屋の前にまで到着。


「で、なんでこんなところに呼んだの?」


「それは――」


 実の勉強について感じたのは、やはり精神的なもの。


 4月はおおよそ入学式やオリエンテーションなどの行事、身体測定や実力テストなど定期テストには直接関係の無いもの、別にやらなくても一定の点は取れるであろう復習の分野などがあり、定期テストに出た、新規に学んだ分野としては連休明けの5月ごろが主だった。


 今でこそ実の精神はある程度安定してきているが、女体化してから登校し始めたころはその顔から不安の色は抜けず、それが学業に影響を及ぼしていたことは否定できないだろう。


 実に悩みを聞いて第一にこちらに話さなかったということは、TS化に深く関わりのある人たちの方が俺よりも話しやすいと見ることが出来た。


 説明していると、俺が呼び出した人たちが現れた。


「来たな。ええっと、この人たちがこの学校でTS病の人たちのグループというかコミュニティ?って感じのものに入ってる……人たち?です。一番前のこの人はそのグループの代表みたいな人……らしいです」


 “人たち”を連続で使ってしまって、なんかこう、ムズムズしてしまう。


「代表というか、一番長く所属してるってだけ、だけどね。代表ってことになっている3年の熊野(くまの) 未来(みらい)です。後ろのについてはあとで紹介するよ」


「そして……コイツが言ってた松前です」


「松前、実です。どうも……」


「それじゃ、よろしくお願いします」


「分かった、任せてくれ」


 一応、暫く食堂とかで時間潰して、出てきたところで何か解決しそうか聞いてみようかな。


―Minol Side―


 急に連れられ教室を出たときは告白でもされるのかと思ってしまった。少しがっか――いや、正直ほっとした。ほっとした。本当にそう。そのはず。違いない。


 理性と本能は別。理性と本能は別。理性と本能は別……。


「松前君……で良かったっけ? 大丈夫?」


「あっはい! お構いなく!」


「あーハハハ……うん……」


 少し考え事に没頭してしまったようで、熊野先輩は呆れたように苦笑していた。


「取り敢えず入ろうか」


 先輩らに促され部屋に入る。


「まず始めになんだけど、僕たちのコト、どこまで聞いてる?」


「増良……細染から、話の流れでなんとなく理解した程度ですけど、悩みを聞いていただけると聞いてます」


「成程。まあいいや。まずは松前君に自己紹介していこっか」


 熊野先輩は手を他の人たちに差し向けて紹介を促した。


「2年の御地(おち) (かける)です。なんか事実上の代表代理か副代表みたいになってますけど2番目に長くこの会に居ただけです。よろしく」


「同じく2年で平会員の黒田(くろだ) 稲荷(いなり)でーす」


 紹介の後、熊野先輩が口を開いた。


「ここ……というか俺たちは『戻るための会』って、そのまんまの名前だけど、男に戻るためにどうすればいいか、男に戻るまでにどう持ち堪えるかを考える会だよ」


―Masuyoshi side―


 そろそろあれから1時間か。ソシャゲも一通りミッションを終わらせたし、食堂の軽食も食べ終えた。もういいかな。


 あの部屋の前を通り過ぎて、照明がついてたら正門前辺りで待って、消えてたら帰ろうか。


「ごちそうさまでした」


「はーい、ありがとさーん」


 トレイを台に返して食堂を出る。その足で例の部屋の前へ。


「まだ付いてるな」


 じゃ、正門前で待つか。


 そうして生徒玄関で靴を履き替えてる途中。


「あ、増良もまだ残ってたんだ」


 後ろから声を掛けられ振り返ると、そこには実が居た。


「おう、何かあったら責任はあるからな」


「はぁ、言っても俺が話せないことを話す相手を紹介したから俺もお前に言えないだろ?」


「それもそうだけど、暴力とか、直接的なことがあればある程度のことはすぐには対応できるし」


「本当、お前は……俺のこと好きだな」


「何年友人やってると思ってんだ。高校ともなればある程度親しくて関わりあるのはお前だけだろ。お前がいなくなったらそれなりに寂しいよ」


「フッ……“それなり”かよ」


 実は親指の関節で鼻っ頭を擦るようにしてはにかんだ。


「今の状態で、それなり以上の表現したら告白みたいになって、気持ち悪いだろ?」


「……それもそうだなっ。ほら、俺が後から来たのに、お前の方が履き替えんの遅いぞ。早く来いよ」


 今の言葉の何かが癪に障ったのか、実はどこか不自然に、不機嫌そうに外へ駆け出していたのだった。

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