113話 飲み込み
―Minol Side―
「はぁ……」
自宅の到着と同時に吐き出された溜め息。
まー君は受け取って貰えたけど、やっぱり“ただの友達”止まりなんだろうな……。
「……」
さっきの光景を思い出す。
会話の内容こそ分からなかったけど、2人の距離はただの友人以上の近さだったように見えた。
玄関には妹の靴があった。ということは、聞こうと思えば聞ける、ということ。……ただ、聞く勇気なんて無いというだけ。
……でも。
多分、そうなんだろうなぁ……。
年を跨ぐ前から2人とも仲良くしていたのは見てたし、いつの間にか2人ともあだ名で呼び合うようになってたし……。
事実が知りたいような、知りたくもないような。
あの2人が付き合ってなかったらそれが一番マシかもしれない。付き合っているということが事実で、それを知ってしまったら辛いのだろうか、それとも事実を知らずに心揺さぶられることが無くなってほんの少しだけ心が軽くなるのか。
事実を知ろうとするのも動揺している状態から逃げたいという甘えかも知れないし、“不幸である自分に浸りたい”という自傷願望があるのかも知れない。
「どうすればいいんだろ……」
自室に着いて、そんな独り言が勝手に口から出た。
「……作ったクッキーの余りがあったっけ」
至った考えはやけ食いだった。
袋に入らず余ったクッキーの量はそこまで多くは無いけど、口寂しさを解消して今の自分の考えを逸らすには十分だ。
カバンを置いて、制服から私服に着替えてから台所へと向かった。
「はぁ……」
最近溜め息をよく吐いている気がするけど、今日は一段と溜め息が出ていた気がする。
委員会の中でもクッキーをいつ渡そうかと悩んでは他の委員の子たちに先に渡されて溜め息が出ていたし、帰路で2人を見つけたときに親しい感じがしていて溜め息が出てしまった。
台所に置いていた残りのクッキーを取って食卓の席に着く。
「いただきます」
お菓子を1人で食べるときは大抵省略する、食前の挨拶をした。
形の良くなかったモノや少し焦げたモノを優先させたので、形も味も不揃いなモノばかりだった。
サクサクモソモソと食べる。
ただでさえ元から少し苦めに作っているからか、焦げのある分は結構苦い。というか、渋み?みたいなモノを感じる。
今、改めて思うと何で私はクッキーを渡すときに至って普通に接することが出来てたんだろう。あの状況から見て、特に親しくなっていることは分かったけど、取り乱さなかったのか。いや、現実逃避していたからこそ普通に接することが出来ていたのかも知れない。そもそも、「普通に接していた」ことがただの主観で、本当は動揺しまくりだったかもしれないし。
……はぁ。
心の中でも溜め息を吐いてしまう。
次、会うときはどんな顔して会えばいいんだろう。
ガチャ。
「あ……」
廊下の方を見ると、扉を開いてドアノブに手を掛けながら静止している彩梅と目が合った。
漏れ出た声は一体どちらのものだったのか。
「帰ってきてたんだ……」
「ああ、うん……」
2年前までは双方ぶっきらぼうなやりとりをしていたと思うけど、今となっては気まずさで、それすらも出来てない状態。
妹が部屋に入って来たときだけ一瞬目が合ったけど、それ以降はとても目を見て話せる心情に無かった。
「それって……」
「苦いヤツだけど……」
妹が求めている答えかは分からないけど、なるべく早くこの会話を断ち切らせたかった。
「何枚か……、貰っても良い?」
「……お好きに」
返答も無く、2、3枚を取って部屋から出て行った。
「……」
去る足取りはどこか覚束なく、フラフラとしていた。
妹と視線を合わせるのに気まずさと恐怖を覚えて逸らしていたので、表情も分からなかった。
あの足取りは結局、妹にとって良いモノだったのか、そうでなかったのか。それを判断する頭の処理能力すら残っていないことを、クッキーをさらに1枚齧って理解した。




