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111話 破恋多音

「まぁ、入ってないよな」


 高校で迎える2度目のバレンタインデー。


 下駄箱を見ても入っているのは俺の靴だけだった。


 分かりきっていたので、溜め息も出ない。去年と何も変わっていない。


 ……期待はしていたよ。正直に言うと。俺の周りでソワソワキョロキョロして下駄箱を見て溜め息を吐いている他男子生徒たちと同じようには。


 溜め息は心の中に仕舞って教室へと向かった。


「はい細染君、いつもありがと」


「うっす。あざまっす」


「後で感想聞かせてね。……後、ホワイトデー期待してるよ」


「うぃっす」


 放課後。ほぼ全員が女子生徒で構成される放送委員会では友チョコに類するもの、若しくは真に友人に渡すモノではなく試作用に作られたモノ、更に若しくは失敗作を渡される。


 今、渡されたのは先の3択の内、前2つのどちらかだろう。味のコトを聞いて来ているし失敗作ではないはず。


 どっちにしろ、去年の焼き直しみたいなものだった。違うのは元委員長がとんでもない大きさのチョコレートを持って来ていたかどうかくらいなものだった。


 そんなこんなで代わり映えの無い日々の一幕で終わる……っと、1つ、心に引っかかるモノが。


「……」


 目だけ動かして委員会室を見回してみる。


 目に映るは松前家の2人。


 去年は2人からチョコレートを貰ったため、それを期待する自分も居たけど、どうやらそう上手く叶うモノでもなかったらしい。悲しくはないけど寂しさはある。


「ちょっといいですか?」


 そんなことを考えて仕事に戻ろうとしていると、背後から声を掛けられた。


「ああ、彩ちゃん」


 いつの間にか死角に回られていて少し戸惑ったけど、先ほどまで想っていた人が表れて、少しだけ安心もした。


「今日は一緒に帰って貰っても良いですか?」


「良いけど……?」


 彩梅ちゃんもチョコレートをくれるのかと思ったけど、違うのだろうか? それとも後で渡してくれるとか、か……?


 前に彼女と一緒に帰っていたときと同じように少し委員会を早退して帰路に着いた。


「しー君、少し、寄り道していって良い……でしょうか?」


「分かった、良いよ。……けど、何故に敬語?」


「いえ……」


 どうでも良いけど、今日はあまり雑談をしなかった気がする。話題もいつもは彩梅ちゃんが振ってくれることが多いけど、今回は俺が話を振っていただけだったし。最後に敬語まで。


 緊張しているのか、不安でも感じているのか。何だろう。


「ここで少しお話したいんですけど……」


「どうぞ」


 何故か今日は彩梅ちゃんに丁寧語・敬語で了承を取られるような気がして少し息苦しかったので、その言葉を発せさせる前に了承を出してみた。


 改めてこの場を見ると、人気の少ない小路だった。


 再び彼女を見てみると、より一層真剣な、神妙な顔をしていた。


「これを……受け取って欲しくて……」


 彼女がカバンから取り出したのは、包装された箱のようなモノだった。


「それは……」


「センパイ」


 これが何かを聞く前に、俺の言葉を遮って、彩梅ちゃんが居住まいを正してこちらを見据えて話し出した。その呼び方をされたのは1か月ぶりだったっけか。


 彼女の綺麗な瞳に射抜かれて、俺の時間が止まる。


 沈黙は、一瞬だったのか、数分だったのか、それも分からないほど。


「好きです。付き合って下さい」


 彼女の唇が動いたと思えば、再び時間が止まる感覚。


 どうしようもない緊張感が、和らいできた冬の寒さをまた思い起こさせるほどに肌に鞭を打っていた。


「……っ」


 想定外の状況に、頭の中が一瞬混乱してしまっていたが、息を呑んで正気を取り戻した。


「えっと……」


「……」


 彼女の目は真剣だった。


 揶揄っているのかとも思ったが、そうでは無いらしい。


 これは……、真剣に答えなければ無ければならないことであると理解した。


 その為に、目の前の事実を、真剣に考えてみる。


 彩梅ちゃんは可愛い後輩で、スタイルも良くて、愛想も……ちょっと元気過ぎるところもあるけど良くて……。


 そして、思い浮かぶ顔。


 心の揺れ動きを制して、声が震えないように。


 目の前の彼女の想いに真摯に向き合って、なるべく慎重に、そして真剣に、答えた。


「ごめん」

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