110話+ ホイールスピン・バーンナウト
―Ayame Side―
明日は遂に、バレンタインデー。
今回は、今回こそは、成功させる。
本人に味見をしてもらったから、味についての失敗は無いはず。
試行錯誤を重ねて、より良いモノは出来る。……味見のし過ぎなのか、少しお腹が少し柔らかくなっちゃったけど、運動と他、食事制限も欠かさずしたのでそれは最低限に留められたと信じたい。
それに、それ以外でも、この1年弱でしー君との仲を深められることが出来た。色々なイベントを一緒に体験して、2人きりのお出掛けも何度もして、呼び方もお互いにあだ名で呼び合うようにしたし、親しくなれた……はず。
例えしー君が私に対して恋愛感情が殆ど無かったとしても、流石に悪いようには思っていないと思う。恋人候補とかじゃなくても、気の置けない後輩、くらいには。
しー君に恋人や好きな人が居なければ、「取り敢えず付き合ってみる」の言葉は引き出せるはずっ……!!! 最大の問題としてしー君に恋人や好きな人がいるかどうかだけど、そんな話は聞いたことはまず無いし、彼を見ていてもそんな素振りは無い。
ピピピピピピピ……、ピ。
「っと、これで……よしっ」
手を止めて、キッチンタイマーのアラームも止めた。
混ぜていたチョコレートを型に流し込み、冷蔵庫にそれらをそっと入れた。
「これでチョコレートの準備はOKっと……」
今入れたモノを含めて3つのチョコレートが冷蔵庫に入っている。これは同じ生地で作った試食分を当日食べて最も美味しかったものを渡す予定だ。失敗は殆どしなくなったけど、それでも失敗しているかもしれないし。余った分はお父さんとお母さんにでも分けよう。それか友チョコにでもするか。
「『ココアパウダー忘れるな』っと」
明日の自分への手紙を残し、冷蔵庫を閉めた。
さて。
ふぅと息を1つ吐いて、自室へと向かう。
自室に入って、自分の机に真っ直線に進み、椅子に座った。
机の収納の1つから複数のレターセットを取り出してみる。
「うん、これかな」
その中で最もデザインが質素、シンプルなモノを選ぶ。
「本文自体はノートに書いてからこっちに清書した方が良いか……。それにしても――」
なんて書こうかな。
そもそも、何を書けばいいのかすら、まとまってはいない。
出したレターセット……手紙には、思いを伝える文章を書こうとした。
そしてふと考える。
「告白して渡す? 『これを見て下さい』って言ってチョコレートと一緒に渡す? んんん?」
書くことはおろか、どうするかさえ決まっていなかったことが分かった。
いけない。これはいけない。
文章が拙いかどうかならまだしも、自分がどうしたいのか分からないのでは、想いは伝わるはずも無いし、確実に失敗する。
「うーん……」
首を傾げて、まずは自分が明日どうしたいのかをノートに書き出してみる。
……。
「こんな感じ、かな……」
言いたいこと、したいことをノートに書いたモノを更にノートを切り取った紙に書いた。
書き出していく最中に不必要に感じたレターセットは再び収納に戻した。
ノートを切り取った紙に書いたのは、明日何をするかのカンペ、予定表のようなモノ。
私がしたいこと。それはしー君に直接私の口からこの想いを伝えることだった。
その為に、ラブレターは必要なかった。
ただ、何がしたいかを書き起こしたカンペは使えると思う。
何をしたいか、何を伝えるか。これを洗い出して一旦冷静に見つめ直せたのは良かった。
これで後は、ここに書いた思いをしー君に伝えるだけ。
「ふぅー……。よしっ」
告白する方法については全部準備が出来た。
気を引き締めて、健康に気を付けながら明日全体の用意に取り掛かるのだった。




