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108話 嫉妬り動悸動悸

「しー君はどんなチョコレートが好みとかありますー?」


「……あー……特に無いかな」


 彩梅ちゃんが最近特に話しかけてくれるけど、話の内容は殆ど右から左に受け流しているのと同然の状態であった。


「敢えて言うならコレとかでも良いんですよ?」


「うーん……生チョコとか……トリュフ、とか?」


「なるほど……」


「……」


 真剣に俺の話を聞いてメモを取る彩梅ちゃんの健気さに、申し訳なくなってきた。


 スゥー……と、溜め息の為に息を吸ってみるものの、彼女の目の前で溜め息を吐くのは失礼かと思い、なるべく自然に鼻から微量ずつ適宜に息を抜いてみるなど。


「……しー君?」


「え、何?」


 溜め息をしようとしていたことがバレた? それとも彼女に意識を向けてないことを悟られた……?


「気のせいなら申し訳ないんですけど……、最近、元気無いです?」


「え……?」


 なんとなくそうかな、というくらいしかない自覚症状も、彩梅ちゃんから見れば気づかれてしまうくらいには表になっていたらしい。というか、言われて明確に自覚したほどだった。


「いや……、あんまり自覚は無いけど……、そう見える?」


「少しですけど……。疲れてると言うより、落ち込んでいるというか……」


 落ち込んでる……まあ、確かに。


「そうだね。受験のこととか進学先、進路のこととか、嫌でも考えさせられる時期だからね……ハハ」


 勿論、ここはありきたりな理由を付けて、はぐらかしておこう。


「そうなんですか~……、大変ですね。頼りにならないかもしれませんけど、もし吐き出したいと思った時は、私も付き合いますから、そのときは言ってくださいね!」


「あ……ありがとう……」


 胸に手を当て、胸を張ってある種堂々としている姿にやや気圧されながらも、その優しさに自分の隠したことに後ろめたさを感じてしまうな。


 ……あと、委員会活動している場で、手を握るのは止めよう。周りから色んな感情の込められた視線を感じる。流石にこちらから手を振り払うことは躊躇われたので、苦笑いをし続けることで何とか難を逃れた……。


―Minol Side―


「~~~、私も付き合いますから、そのときは言ってくださいね!」


「あ……ありがとう……」


 さっきからあの2人が何か会話していたのは分かっていたけど、その台詞が聞こえて、思わず振り向いてそちらを見てしまった。


 目に入ったその光景は、まー君の手を両手で包むようにして握っていた妹の姿。彩梅の顔が見える位置にいるけど、彼女はこちらに勝ち誇ったような表情を向けていた。


「あのー……ははは、もう良い?」


「それで、しー君の悩みって、具体的には何ですか?」


「それは……学校が終わった後で良い?」


 「付き合います」の部分より前がよく聞こえなかったため、何の話の流れからその発言に至ったのか、よく分からない。ただ、話の流れと2人の話し方の雰囲気から、少なくとも男女交際というか、異性交遊の類の話ではなさそう。取り敢えず、身体の向きを直して考えてみる。


 それで安心し掛けたけど、問題はそこじゃない。明らかに彩梅はまー君の心の拠り所としての場所になることを宣言した。


 私は“友人として”その位置に居ると、居られていると思っていたけど、そのことを口にした訳じゃないから、もしかしたらまー君の中での「相談できる人」の優先度が私より彩梅の方が高くなった可能性まである。


 私もその立ち位置に改めていると宣言したいけど……、改めてそれを面と向かって言える自信が無いというか……恥ずかしいというか……。


 彩梅みたいに自然にその話題に持っていける話し方が考えつかない。


 うーん……。その話題に持っていく要素の作れる、噛ましの話題、若しくはイベント……。


 あ、そうかバレンタインデーがもうすぐやって来る。どんなチョコレートが好きか聞いたりとか、それとも渡したりするときに聞けば。


 思ってすぐ、まー君にその話題を振ってみようと再び振り返ってみたときだった。


「委員長! 松前彩梅と細染増良は本日のお仕事が終わったので、少し早めですけど帰宅しまっす!」


「ちょっと、彩ちゃん、腕、引っ張らないでっ……! 失礼します……!」


 彩梅はまー君を連れ去る様に、2人してこの部屋から消えて行ったのだった。

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