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107話 視界良好、異常あり

「はぁ……」


 最近のテストや模試の結果は悪くないというのに、溜め息しか出ない。


 身近に起こった、起こしたアレコレの所為だろう。


 脱ぎ掛けを見、胸を揉み、唇を奪うなど。


 その相手が最も親しい友人だったというのが最大の問題であると。


 年始のスタートダッシュに失敗したことは言うまでもないな。


 バレンタインデーに迫る如月の入り、こんなヤツにはチョコレートはきっと来ないな、義理も含めて。


 とはいえバレンタインデーまで2週間を切った。節分なんてモノは学校内でそこまでイベントとして何かがあるわけではないので、生徒各々、この月に入って気になるのはバレンタインデーについてだろう。


 行き交う男も女もどこかソワソワしている気がする。


 重大インシデントを度々起こした俺だけはただただ諦めだけを持っていつも通りに過ごしているのだが……。


「ドラマ撮影で忘れ物なんかするなよ……。しかもメモリカードとか……」


 委員会の女子たちに彼女らの忘れ物を取りに行くというパシリを受けていた。


「流石にそれくらいは自分たちで言って欲しいなぁ……ん?」


 女性の多いグループの中での男の立場の無さを愚痴りながらも目的地に到着する寸前に、何かが見えた。


「ああ……これは俺が居るとお邪魔虫の雰囲気……」


 誰かは分からなかったが、男子生徒と女子生徒の姿が見えた。


 こんな人気のない所で男女がすることと言えば限られてくるだろう。


 告白やら愛の語らいやらキスくらいならまだしも、ヤることおっぱじめやがったら流石に止めよう。


 告白は結果によっては気まずいし、キスは何がどうあっても気まずいが、そのことで目くじらを立てるのはやりすぎかとの自己の勝手な判断による。


 しかと影を踏んで身を隠し、目を凝らして耳を澄ます。


「あれは……」


 相も変わらず耳からの情報は無いに等しいほど捉えられないが、目からの情報は確かだった。


 そこにいた女子生徒とは、実だった。


 もう一人、男子生徒の方は分からなかった。ただ、腰が低い態度や、靴の汚れの少なさから、1年生であろうことが伺える。マンモス校と言うほどの生徒はいないので、同学年なら大体知った顔だし、良く知らない上級生だとしてもあそこまで腰が低い理由も無いだろう。


 一体何を……と耳をそばだてたそのとき、大声が聞こえてきた。


「僕と……付き合って下さい! 松前先輩!」


 その声が聞こえたとき、胸が締め付けられる感覚がして、目の前の光景を見ていられなくなった。


「なんで……俺……」


 思わず、完全に見えない位置まで隠れてしまった。


 心臓の音がうるさい。


「聞こえたりは……しないよなぁ……ん?」


 再び顔を出して2人の会話を聞こうとするが聞こえない。と、そこで教室の扉が開いているのに目に入った。そういえば、委員会の忘れ物があるのはこの教室だということを思いだした。


「よっと……ここから近寄れば……」


 気配を消して、気付かれずに教室に入ることは成功した。後は近づくだけ……。


「……?」


 そのとき、足音が聞こえたた。


 扉側の壁に密着して忍ぶ。……何やってんだろうな、俺。


「……」


 入り口を見ると、去り行く男子生徒の背中。


 見えたのが少しだけだったから、その背中から感情を読むことができなかった。


 談笑したり、歓喜の声が聞こえたりはしなかったため、恐らくはフラれたのだろうか。聞こえないから、何もかもが分からない。


「ふぅ……」


 溜め息一つ、忘れ物を取りながら。


「……そろそろ行ったか」


 もう1人分の足音が聞こえ始めたので、その音が過ぎる音を追うように教室を出た。


「はぁ……」


 感情の読めない実の背中を見ながら委員会室に戻る道は、立春、暖かさの気配を感じられるはずの空気が、嫌に寒く感じられた。

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