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105話 雪のような口解け

「元々同性で気を遣わないだろうから、放送室での片付け……というか、探し物要員としてここに向かわされたってこと?」


「まあ……そう、だね」


「そか……じゃあ、ヨロシク」


「……うん」


「あーっと……、このリストに書かれたモノが無くなってたヤツで、ペンでマーク付けているのが見つけたヤツ。見つけたのはあそこにまとめてるから」


「分かった」


 2人の間の会話は、至って事務的なやり取りのみで済まされた。


「これは放送室分のより多いから、この数だけ委員会室の――」


「ねぇ」


「……ん? 何?」


 暫く委員会の業務に勤しんでいると、実から声を掛けてきた。


「朝のこと……というか、学校説明会からのことなんだけど……」


「はぁ……?」


 話し掛けてきた割には煮え切らない話の切り出し方。これだと例の事故の話か今探している物の話か分からない。前者ならコチラが意識してしまうので出来れば止めて欲しいけど……。


「何か最近、まー君、変じゃない?」


「変って?」


 思ったところでは無かったところからの話題だ。いや、それともさっき考えた話題に繋がるのだろうか?


「よそよそしい感じがするっていうか……。彩梅と私との接し方、明らかに差があるっていうか……さ」


「そうか? よそよそしいかは兎も角、接し方に関して言えば、同学年と後輩じゃ、多少なりとも変わってしまうのは仕方なくね? それに友人と友人の妹じゃ接し方も変わるだろ」


 よそよそしい……寧ろちゃんと友人としての距離感を今朝高めたはずなんだけど。それが不自然だったのかな?


「よそよそしいのは否定してない?」


「自覚は無い。だけど第三者から見てそうだとしたらその見方を否定することは出来ない」


「はぁ……そう?」


 そう、としか言いようがない。ま、フォローはしておこう。距離を取りたい訳じゃない。


「ま、溝を感じたなら気を付ける。別に離れようとは思ってないし」


「そ、そう」


 気を付けたところで解決するかどうかは分からないけれども。


 寧ろ距離を縮めようとして距離を感じてしまったらしいので、下手したら逆効果になるやもしれない。


「ところで、何がよそよそしさを感じたんだ?」


 それくらいは聞いておかないと、対応を間違うかもしれない知れないしな。


「うーん……ゴメン、分からない。なんとなくだった……」


「……そっか」


 人の心とは、むべなるかな。


 と、そこで会話は再び途切れた。


 結局、実が話題を振った時に俺が最初に考えた2つの話題のどちらでもなかったようだ。


 ……今朝のことは兎も角、学校説明会の時に感じたよそよそしさって何だろう?


 実がさっきの質問の答えを1つも挙げなかったというのは、それも自身で分からなかったということだろう。さもありなん。


 そこからは再び業務へと戻った。今度こそ、探し物を全て見つけるまで事務的なものだけだった。


「っと、これで全部かな」


「あの棚の奥は見なくて良いの?」


「あそこは……会計だけが見る場所だから。大丈夫」


「そか」


「にしても……足りないモノの8割以上がここにあったな」


「2人で持つには丁度くらい?」


「実の身体が今は女子になってるし、ギリギリじゃないか? 重さからして」


「これでも鍛えてるからね。見くびらないでよ」


「そりゃ済まん」


「……まあ、男の時よりも力が無いのは確かにそうではあるんだけど」


「なんだそりゃ」


 軽口を交えつつ、持ちやすいように備品を改めて整理してまとめていく。


「じゃ、持って行きますか」


「まー君の分、持ちにくそうだし、少し私の方にしない?」


「バランスの関係でこれが一番なんだよ。俺の分をバランス良く少なくしようとしたら実の方の負荷が高くなっちゃうと思うし」


「そういうなら……。気を付けてね」


「ああ」


 そして絶妙なバランスによって組まれた備品の数々を持ち上げようとした。


「あっ」


 しかし、持っていた小さい子道具類が受け皿になっていたまた別の備品から零れ落ちてしまう。そして――


「実危な……ッ」


「へ?」


 色々と備品を手放してしまったが、放した手で一応の受け身を取れたので、衝撃自体は手首に流れ、身体にはそれなりの圧力が加わっただけで済んだ。


「んっ……」


 痛ぇ……と口から出そうになったが、その言葉を何かが物理的に遮断した。口には柔らかい何かが触れていて、それが声にならなかった原因なのかもしれない。


「……!?」


 目を開けると、そこには顔。


 誰かと言われると、それは一人しかいないだろう。


 とてつもない至近距離で、目の瞳孔が開いていくのを互いに覗き込んでいる。


「ん……」


 今度は実が何かを言おうとしたのか、音の波が彼女の唇から俺の唇へと伝って来た。


「「……」」


 俺たちは今、互い、唇を合わせていた。

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