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100話 ラッスケは社会的に死に得るのでラッキーとは限らない

100話なので記念にラッキースケベ展開(偶然)&文量多め(ただ文章が伸びただけ)です。

「ハァッ……ハァッ……季節外れにこんな雨……運が悪い……!」


 1月の雪解けの雨は酷く冷たい。時雨にしては長く続く、ゲリラ豪雨にしては量の少ないものだった。


 天気予報では雨が降る確率は低く、天気のマークも曇りだけを表していた。カバンの中に準備していた折り畳み傘はいつの間にか壊れていた。全く以って運の悪い。


 一番降る量の多い時間帯は避け、通学路の途中にあるコンビニで少し雨宿りさせてもらい、弱まってから再び帰路に戻った。雨の量が降り戻る前に帰ろうと、走って家に帰る。最初から早足で帰っていれば本降りになる前に変えることができたと後悔した。


 冬の雨は身体が冷える。荒くなる息で肺の中も冷えるけど、雨に体温を奪われるのよりはマシだと、そう判断した。


「ただいまーっと」


 雨に濡れた身体を急いで拭くために、靴を脱いだ後、それらを整えるのも忘れて脱衣所に向かって走る。


「よっと、せいっ」


 脱衣所の戸の横にカバンを置き、勢い良く戸を開ける。こういう焦った時こそバスマットを滑らせて転んで洗面台に顔や頭を打ってしまうから地面、というかバスマットをよく見て……ん? アレ? 電気付いてる? 電気はまだ付けってなかったような……というか人がいる?


「……え?」


 耳に届いた素っ頓狂な黄色い声。


 バスマットに向けていた視線をゆっくりと上げる。


 ハイライトを返す瑞々しい綺麗な素脚、健康的な腿、濡れたスカート、服の狭間から覗くへそ、バスタオルと上着、そして――


「なんで……ここに実が……?」


 隣家にいるはずの人物が、目の前に居た。


「えぇっと、その。寒いし……、恥ずかしいから戸、閉めて? ……説明は後でするから」


「あ、あぁ、ゴメン……」


 実は頬を染めて、服がはだけかけていて見えそうになっていた胸を隠すようにしながら言った。


 そして実に言われるがまま、脱衣所の戸を閉めようと、手を掛けたときだった。


「お邪魔しまーす。伝わってると思いますけどお風呂お借りしま……」


 玄関側の方にゆっくりと首を回してみると、そこにはこれまたいつもなら俺の家に居るはずのない人物、彩梅ちゃんが立っていた。


「え……?」


 彩梅ちゃんは俺と実を交互に確認し、数秒間硬直した。


「ふ」


「「ふ?」」


「2人ともっ、何してるのォーーーーーーッ!!!!!!???」


 ビブラートの良く効いた、大声が我が家に木霊した。


 そこから暫く、記憶が飛んだ。


「……っは!?」


 気づけば、自室に居た。正座で。同じく正座する実の隣、それを椅子に座りながら見下ろす彩梅ちゃんの目の前だった。


「で、どうしてああなってたの?」


「そっ、その前に、何で2人がこの家の風呂に入ろうとしてたのかってのを俺は知らないんだけど……」


「ああ、そうでしたね……。説明」


「はい……」


 彩梅ちゃんは隣の人物に向け、顎で説明を促し、そして彼女はそれを受け入れ、話し始めた。


 元の原因はと言えば、帰り道の時雨に起因する。


 帰路の氷雨に煽られた2人は冷えた身体を暖めるために彼女らの自宅で風呂を沸かそうとしたが、どうやら松前家の給湯器が故障していたらしい。俺より運の悪い人が2人もいたとは。


 そして俺の家、もとい親に連絡してこの家の風呂を借りることにしたという。


 先に実が脱衣所で着替えようとしていたのと、後から彩梅ちゃんが入って来たのについては雨が強くなる前に実が先に帰宅し始め、後から雨が止むのを学校で待って痺れを切らして帰って来たのが彩梅ちゃんだった、ということらしい。


 酷いときに雨宿りしていた俺が一番濡れていないのは何の偶然だったか。俺も雨に降られたけど、風呂が必要なほどではなかったし。


 2人の状況を考えると、俺は不幸中の幸いというヤツだったのかも知れない。


「はぁ……反省してます?」


「アッハイ……」


 俺が心中考えごとをしているのを見抜かれ、膝を踏まれた。踏まれたと言っても、サッカーボールをトラップするように軽く留めるような形で痛くはないけど。


「彩梅……流石にそれは……事故みたいなモノだし……」


「は?」


「何でも無いです……」


 実は彩梅ちゃんが俺に足を乗せたことを咎めようとしたが、兄妹時代の関係性、今の立場から何も言えなくなったようだ。


「第一、私はメッセージでお風呂借りることを伝えたから、完全に閉じてる脱衣所の扉を開けようとは思わないと思うんだけど」


「あ、私も送ってた……」


「それなら尚更……」


 彩梅ちゃんがジロリとこちらを睨んでくる。彩梅ちゃんのことは高校に上がってから印象が少し変わったけど、今俺の身体を射抜く瞳は彼女が中学時代のクールというか、ダウナーな感じの印象を思い出した。


 脚を組み直した彩芽ちゃんの姿はボスの風格というか何と言うか、何者も寄せ付けないような雰囲気を醸し出してた。


「帰っている途中に見ることが出来ませんでした。申し訳ございませんでした!」


 誠心誠意、罪該万死を表す構え。


「……ッ。流石にそこまでしろとは言ってませんから、顔を上げて下さい」


 流石に土下座をさせていることになったとあればバツが悪いのか、叩頭の構えは解かされ、体勢を元に戻した。


「私、前に言いましたよね? 『もう“2度と”勘違いするようなことは止めて下さいね』って。『今度はあんなことがないようにしてくださいね』って。1年と数か月前に」


「はい。憶えております」


 アレは実が風邪を引いて、学校のプリントを渡しがてら、看病をしたときのことだったような気がする。


「はぁ……」


 彼女の何度目かの溜め息だろうか。虚空を見て何かを考えているようだ。


「分かりました。今回のことも、一種の事故のようなモノだということを」


「じゃ、じゃあ!?」


「でも、今後とも気を付けて行動してくださいね。こんなことが無い様に、2人とも」


「「はい、肝に銘じます」」


 2人して頭を下げた。土下座はやりすぎということで、手を膝にして頭を下げ、その頭を地につけることはせずに。


「それでは帰ります。お風呂、ありがとうございました」


「……私も帰るね。お風呂借してもらって、ありがと」


 こうして、松前家の2人は帰っていった。


「あー……緊張した。というか死ぬかと思った」


 部屋で独り言ちる。


 うら若き乙女が2人と一緒に広くない部屋にいると、流石に緊張したな。


 2人とも風呂上りだったし、普段は見ない私服姿……それも恐らく部屋着に近いであろうラフな格好だった。


 2人はどちらも魅力的だし、どちらもそんなにラフな格好をしてくれるモノだから、心臓に悪い。彩芽ちゃんに詰められるのもドキドキしたけど。


 ……俺は実のことを想っていたと今まで思っていたが、本当は顔とスタイルが良くて無防備な格好で近寄られたらコロッと堕ちてしまう、面食い多情チョロダメクソ野郎なのでは?


 ほんの少しのラッキーハプニングに遭遇したと思ったら、とんでもなく連鎖してコッテリ絞られた挙句、自分の感情に疑いを持ってしまい、寝に入るまでその悩みを悶々と考えてしまうのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 通話で伝えたなら兎も角、メッセ送っただけで伝えた事になるの? 相手から了承の返事が無いのに、勝手に宣言してそれが正当化されるならやりたい放題出来るよね。 実際女性はそういう事が多いからリア…
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