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98話 照仲之魂

「っと、あと1つ2つ聞くの忘れてました」


 話が終わったと思って席を立とうとすると、彩梅ちゃんに引き留められた。


「また何か相談?」


「ああいや、そこまで大層なモノでは無くて……」


 座り直して、体勢を元に戻す。


「このままちょっと適当な話をして、呼び方が自然になるようにしようかなと。勿論前から聞きたかったことでもあります」


 そう言った彩梅ちゃんの目は少し、真剣な目をしているような気がした。


「呼び方に慣れるための質問というか……雑談?」


「そんな感じでしょうかね。雑談……まあ、そうですね」


 少し不服そうにしながらも、彩梅ちゃんははにかんだ。


「と、まあ、そんな訳で、センパイ……あ。……コホン。『しー君』はどんな女の子が好みですか?」


「えーっと?」


 初手から彩梅ちゃんが呼び方をミスったと思っていたら、とんでもない話題が飛んできた。


「しー君の好きなタイプの女の子です。……もしかして男の人の方が好きだったりします?」


「いや、俺は女の子の方が好きではあるけど……。というか、呼び方慣れるのにするのがこの話題なの?」


「こういう話題の方がより定着しやすいかなと。あとあんまり周りに人がいると出来ない話でもありますし」


「そうかなぁ……?」


 そこまでしにくい話でもない気がするけど……。女子間の関係性とかよく分からないけど、人の好みのタイプを聞いた聞かないで複雑になるようなものなのだろうか。


「それで、しー君はどんな女の子が好きなんですか?」


「どんな、かぁ……」


 思い返してみる。今までに好きになった子……。うーん……。


「容姿だとか性格でこれといったモノは思いつかないなぁ……」


 振り返ってみても、俺が好きだった子の共通項は無い。


「髪型とかも好みは無いんですか?」


「髪型、ねぇ……。ああ、そうだ。前はツインテールとかポニーテールとか好きだったなぁ」


「今はどうなんですか?」


「ふぅーーーむ……」


 腕を組み、拳で顎を支えるようにして考え込む。


 頭を過ぎるのは、実の姿。ごく普通と言えば普通の、セミロングかロングか、髪型に疎い俺から見てそのように感じる髪型だった。


「特に無いかな。似合っていれば何でもいいというか」


「そう……ですか。因みに私にはどんな髪型が似合ってると思いますか?」


「彩ちゃんに似合っている髪型……」


 なんでも良い、はダメかなぁ……。ダメな可能性が高いような気がするなぁ……。


「基本的に何でも似合うとは思うけど、敢えて言うなら……ポニーテールが似合うのかな? それかサイドテールってヤツ?」


「ほうほう……なるほど……。やっぱりその他の容姿とか、性格とかはありませんか、好み」


「うーん……考えても出ないなぁ~……。無理やり出しても優しい子とか、出来たら綺麗で可愛い子とか、そんな無難な感じになっちゃうかな~……」


「確かに無難ですね~……うーむむ……ん?」


 彩梅ちゃんは腕を組んで、目を伏して考えに唸る。すると、目を開き、アイデアの声が漏れたようだった。


「しー君は、どの体の部位が好みですか?」


「……はいぃ?」


 なんだって?


「だから、部位ですよ部位。胸とかお尻とか。あと脚とか手とか、脇が好きなんて人もいますよね?」


「そ、それ聞いてどうすんの……?」


 さっき、そこまでしにくい話でもない気がするなんて思ったけど、ここまで来ると確かにしにくい類の話だと思う。話の趣旨がズレてこうなってるのか……?


「しー君はそういうのは無いんですか?」


「えへーっとぉ……?」


 考える素振りをしようとしたら、思わず照れてしまって喉から空気が漏れてしまった。


 一応、会話を繋げようと考えてみる。


「やっぱり、特にこれといったモノは無いかなぁ……」


「胸の大小もどうでも良かったりするんですか?」


 その話題はこちらから避けたのに、彩梅ちゃんの方から言っちゃうんだ……。


「あれば嬉しい。けど、デカけりゃデカいほど良いってものでも無いような気がするんだよね。無いよりは嬉しいとは思うけど」


 胸の大きい彩梅ちゃんの前でこんなことを言うのはなんだか憚られるな。話を振ったのは彩梅ちゃんの方からだけど。


「今思えば、しー君って私の胸に視線を感じることがほぼ無いですね。あったとしても気のせいに感じたりしますし」


「……うーん。そう?」


 なんとも答えにくいことを。


 自分としては親友の妹ということでなるべく見ないようにはしているけど、それは関係あるのだろうか。


 あと、実の方が大きく見えるというのがあって、それでどちらかというと実の方を見ているのかも知れない。


「もしかしたら小さい方が好みなのかとか、そもそも女の子に興味無いのかなとかと思っていましたけど、そんな感じでは無いですね」


「あはは……まあ、そうだね」


 自分自身の癖に気づかされたような気がして、苦笑することできなかった。


 時間も時間だし、そろそろ委員会の部屋に戻ろうとも思ったけど、ここで話を返さないのもどうかと思ったので、俺は言った。


「じゃあ、彩ちゃんのタイプの人ってどんなの」

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