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96話 場見り

 最近、俺は悩んでいた。


「センパイ、進捗はどうですか?」


「ああ、うん……。ちょっと結論がブレそうでね……。あんまり良くないかな……」


「私はまだ1作も制作責任になったことが無いので分かりませんが、悩ましいことだけは分かりますねー」


 確かに今、受け持っている作品の進捗に悩んでいるが、そうではない。


 悩みの種は、別にある。


「彩梅、別にそこまで他人が詰めても良いモノが出来る訳じゃないんだから、あんまり細染君を突かないように」


「……。はーい」


 メチャクチャ……放送委員会の空気が重くなっていたということだ。


 松前家の中で何かがあったのか、それとも別の理由があるのか、松前家の2人の間で、妙なピリついた空気が流れている。


 以前、実が家族と同じ委員会活動はやりにくいという話は聞いていたけど、明らかにそれ以外の何かが場の緊張感を高めているような気がした。少なくとも2人が委員会に去年の5月ごろから見てやりにくいということがおそらく原因の不思議な空気感も感じて来たけど、ここまで空気が悪いのはそれが要因じゃないはず。


 うーむ。2人の間だけでちょっとした喧嘩をしているだけなら良いけど……。


「またあの2人……」


「何があったのか……」


 連鎖的に委員会の空気も中々に居心地の良くないものになっていた。


 制作物の進捗も少し行き詰っているし、気分転換も兼ねて2人の間の緊張感について、原因を調べてみようか。ここまでピリつかれていては作れる作品も作れなくなってしまうかもしれないし。


 と、いう訳で。


「なあ実、ちょっといいか?」


「何? 制作の相談?」


「あー……そっちも後でしたいんだけど、そうじゃなくて」


「? じゃあ何?」


 疑問に首を傾げる仕草も可愛いなコイツ。


「最近……彩梅ちゃんと何かあった?」


「何かって……何が?」


「いや……、最近こう……ピリついてるというか……何と言うか」


「ピリついてる?」


「うん。周りの委員の子たちも気にしてるっていうか……気まずそうにしてるというか、ね。2人のことが気になって、制作とか作品に集中できてないときがある感じだから。何かあったのかなって思ってさ」


「ふーん……。私としては、こちらから意識して何かが悪いってのは無いかな。喧嘩とかはしてないし……。気のせいかもとも思うし、もしかしたら向こうが何か思うところがあるのかもしれないけどね。まー君にしても他の委員の人たちにしてもそう感じるのなら気のせいじゃない可能性は高いかもしれないけど……。前から家族と学校で一緒にいるのは気まずいってのは言ってたはずだけど」


「その気まずさは前からも感じてたけど、最近の緊張感みたいなのはそれとは違うと思うんだよね。個人的には」


「そっか……。ゴメン、本当に分からない。気分を害していたなら、改善するようにはする。何が原因か私にも分からないから、すぐに改善できるか分からないけど……。そう言えば彩梅には話聞いた?」


「いや、まだ。後で聞いてみるよ。ありがとう」


「こっちこそゴメンね」


 実が分からないともなると彩芽ちゃんかな? この反応で嘘をついているとも思えないし……。なんて思っていたけど。


「いえ、分からないですね」


 彼女も同じ反応。


 彼女ら2人が分からないというのなら、一体誰が分かるというのか。とはいえ、2人とも喧嘩やら問題を隠していそうな感じではない。


「センパイ、向こうの方には聞いたんですか?」


「聞いたけど、分からないって」


「そう……ですか。私が何かしてしまった可能性はあると思いますけど、それなら流石にもうセンパイに言ってると思うんですよね」


「それは、そうだね」


 彩芽ちゃんの言葉にこちらの言葉が出るのに少し詰まった。


 ほんの少しだけど今は実との距離感を感じていて、もしかしたら言ってくれないかもしれないなと思ったからだ。さっきは恐らく正直に言ってくれたけど、思っていても自発的には言ってくれないとも思ってしまった。


「私たちが周りに迷惑を掛けていたのなら改めて謝ります。すいませんでした。私も改善できるように努めます」


「大層なことじゃないけど……、そうだね。スムーズに仕事や作業ができる空間を維持することは大切だからね。できるだけよろしく」


 無難なことしか言えなかったけど、今の俺にはこれしか出来なかった。


 現実逃避が如く、制作に戻った。

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