94話 サクション-アトラクション
「遅れました、おはようございます」
「あっ、おはようございまーす」
放送委員会の扉を開け、部屋の皆に挨拶を放った。
1番初めに挨拶を返してきたのはやはりというか、彩芽ちゃんだった。
「センパイ、あの後何があったんですか?」
「進路云々の話だけだったよ」
この学校の始業式は午前だけで、それも最後の4限目時間に行われる……のだが。次3年生になる俺たち2年生の3学期の始業式は追加で数十分、“説教”みたいな話を進路指導室から聞かされる。メチャクチャ簡単に言うと、「2年生の3学期は3年生の0学期です」的なコト。言われなくても勉強している身としては、まぁ、無駄な時間と言えたな。
閑話休題。
「で、センパイ、今日は何するんですか?」
「それ前、年末に言った……。午後の時間があるから映像ドラマと映像ドキュメントの撮影があるって委員長言ってたよね?」
「あー……そうでしたっけー……? わ、忘れちゃってましたー……」
新年に入って明るく振舞っていたらしいのが俺の指摘1つで一気に顔が青ざめる彩芽ちゃん。
「別にそこまで怒っては無いけど、他の皆も居るんだし、今日の予定くらいは部屋に来たら確認しておこうよ」
「はい……」
「……だからそこまで落ち込まなくて良いよ?」
ショボーンという効果音でも付きそうなくらい落ち込む彩芽ちゃんに、慰めの言葉を掛けるも彼女は落ち込んだまま。流石に放置は彼女のことを考えても周りの空気を考えても出来ないし、どうしたものか。
「新年1発目で……ブツブツ」
明らか落ち込みモードに入っちゃってるし……。
「取り敢えず、撮影で取り戻したら良いから」
「……はい」
最初の勢いはどこへやらといった感じだけど、なんとか持ち直したようだった。
「それじゃ、俺含むドラマの演者はドラマに行くとして……それ以外の割り振りとかってもう決まってる?」
「決めてない人もいますね。私はセンパイの方に行こうかなと思ってます」
「オッケ。じゃあ後は……」
その場にいた全員を割り振り、残っているのは……。
「実はどうする?」
「私? 私は……」
それは俺とほぼ同時に委員会の部屋に入って来たのにも関わらず、ひっそりと佇んでいた実だった。
「うーん……ドキュメントの方で」
「そっか、分かった」
実的には学内で彩芽ちゃんと一緒に活動することは気まずいらしいし、仕方ない気もするけど、個人的には少し寂しさを感じてしまうな。
ま、さっき彩芽ちゃんを励ました俺が落ち込んでいても示しがつかないので、切り替えて撮影の準備を整えた。
―Ayame Side―
「それじゃ次のページの初めから行きまーす。3……2……」
カメラの録画ボタンを押す。
「それで憂、お前は……まだそのことについて責任を感じているんだな」
センパイが演技を始めた。
音と光、風、重力すら操っているかのような凄みが確かにそこに存在することを、カメラのモニターが証明している。
「だって……だって私のせいで……胡桃ちゃんが……」
胸が痛む。
ヒロイン役の女生徒は役を演じているだけなのに、カメラ越しにこんなにも苦しい。
きっとあの子は、もっと近くで、そして自分の目でセンパイの輝きを焼き付けることができる位置にいる。しかも、ドラマの撮影ということで、その姿を近くで生の姿を見られたとしても、心に焼き付けていない可能性まである。
思わず、カメラを構える手に力が込められる。
「……、はーいカット~!」
この作品の代表……もとい監督を務めている生徒が声を掛けた。あまりに熱中していた私をその言葉が冷静にさせた。
「1回映像確認するよ~」
「……はーい」
ここで落ち着いて、撮影に支障が出ないように気を付けないと。いくらセンパイとの距離を詰めるのを失敗したからと言って、動揺し過ぎたり頭に血が上ったりすることは無い。恋バナや呼び方を変える話なら、1日2日遅くなったところで問題は無い。
「なんか画角が細染君に寄りすぎじゃない? まぁこの画角もアリっちゃありだけど……」
「あっ……すみません……」
こ、こんなことでめげない……めげない……うぅ。




