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92話 繰り済ます契機

 年末は登校最終日、12月も25日。


 今年1年を振り返ると、去年の「実のTS化」のような大きな出来事は無かったけど、やはり色々なことが起こっていたなと思う。


 年始こそいつも通りだったが、バレンタインデーには家族以外のチョコレートを沢山もらえたし、新年度が始まって彩芽ちゃんがこの学校に進学。彩芽ちゃんが俺と同じ放送委員会に入って、それに続くように実も入った。同クラスの河豚名が去年、実がTS化した頃とお同じ時期にTS化。夏には松前の2人と一緒に全国大会に泊まりで遠征に行ったり。秋に入って修学旅行の中で、……自分自身の気持ちに気づく。しかしこの気持ちを鎮めてやり過ごすことを決めた。


 時折実とギクシャクしたり、今までの関係性からはあまり考えられなかった感じの変化が起きたけど、それと対となる様に最近となっては彩芽ちゃんと一緒に出掛けたりする機会も増えて、仲良くなってきた。もう少し時間が経てば、実とも前のように友人らしい距離感に戻れるだろうか。来年は受験勉強で忙しくなるし、なるべく仲を良くしておきたいな。スムーズに仲良くなる計画を立てるどころか、どうしたら元に戻るのか全く分からないけど。


「という訳で、放送委員会で年末の打ち上げがあるけど、実も来るよな?」


「どういう訳……?」


「実は終業式後に予定無かったと思って」


「ああそういう……」


 他のことは兎も角、実との距離感は多少強引にでも近づけておきたい。少なくとも前までの友人としての距離感にまでは。


「で、参加ってことで連絡してて良い……よな?」


「どう……しよっかな……」


 実は横顔を晒すもその目はチラチラとこちらを見ていた。


「何か問題?」


「いや……こういう場で妹と居るのって何かこう……気まずいというか……くすぐったい気分になるというか……」


 頬を摘まむような形にした親指で頬を掻きながら、実は苦笑して言った。


「ま、まぁ何と言うか、こういう場だし、参加しない? それに、文化祭の打ち上げのときは来てたけど、今回はまた何で?」


「なんとなくというか……」


「うーん……?」


 実が目を逸らす。


 前回の打ち上げが本当は気に食わなかった、ということでもないらしい。


「というか、なんで参加するかどうかとか聞くの? 別にその場にいる人たちだけでやればいいんじゃない?」


「いやぁ、ケーキ食べたいって委員がいて、それが採用されたのは良いんだけど、アレルギー対応のケーキとかを揃えるのがあるから、その組み合わせの兼ね合いで誰が参加するかとか把握しておかないといけないからね」


「……なるほどねぇ」


 俺の言葉に目を伏しがちにして、物憂げに考える素振りをする実。


「逆にさ」


「? はい」


「何で私に参加して欲しいの?」


「……は?」


 唐突な逆質問で狼狽えてしまう。実は一体何を考えているんだろうか。


「まー君は何で私に参加して欲しいの?」


「……そりゃ委員会で打ち上げするなら、出て来られる全員でパーッとやったら良いんじゃないかなとは思う……からかな」


 我ながら無難な回答だと思う。だけど実の変な質問の答えとしては、ちゃんと答えた方だとは思えた。


「それだと、私が……別にいなくても良いってコト?」


「いや、だから全員で――」


「私が少し乗り気じゃなかったら誘う気無いってコトだよね?」


「それは……体調不良だったり、家の予定があったりしたなら無理強いすることはないけど、今みたいに少し乗り気じゃないって感じなら、今まさに誘ってるよね?」


 本当に実が何を言いたいのか、全く以って検討がつかない。


 ただ、何かを俺に言わせたくて、そしてそれを正直に言いたくないという感情があるのはなんとなく分かった。それは何なんだろうな……本当に。


「じゃあ今、私を誘ってるのは……まー君が私に打ち上げに出て欲しいから、ってことで良いの……?」


 この問いは、かなり本質に近いモノかも知れない。そして、ここで返しを間違えるのは言わずもがな、少しでも答えに時間が掛かればタイムアップになるかも知れない


「出て欲しいと思ってるよ。委員の一人としても、個人的にも」


 どうだ……?

「そこまで言うならまぁ……出る……よ」


「……よかった」


 後々考えればしょうもないコトだったと思えるが、こんなことで貴重な友人を失わずに済んだのは良かった。もっと後から思い出すと笑いごとで済むかも知れないけど、今は謎の緊張感から解放され、安堵感を覚えるほか無かった。


「じゃ、連絡よろしく」


「……ああ」


 会話に一段落がつき、手に冷や汗を握っていることを、その冷たさから自覚した。


 やっぱり今のやり取りには、何か本能的に重要な選択を迫られているという感覚があったんだろうな、と感じた。

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