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91話 アカスタム

「センパイ、こっちです」


 昼食を食べ終えて店を出ると、彩芽ちゃんに腕を引かれて歩き出した。


「あぁ、ここか」


「あるなら行っておきたいじゃないですか」


 目に映るのはそびえ立ち、ゆっくりと廻る観覧車。


「やっぱり大観覧車を自称するだけ大きいですね~」


「世界一だったときもあるみたいだからね」


「そうなんですか!?」


「知らなかったの……?」


 なんて雑談をしながら観覧車に向かう。


「センパイ! シースルーゴンドラっていうのがあるみたいですよ!」


「へぇ~……」


 上から下までガラスで出来ているため、普通のゴンドラよりも眺めが良いらしい。高所恐怖症の人にとっては地獄みたいなモノだな。


 あと、他のゴンドラで上を見ることができないため、そこまで気にならないとは思うけど、スカートだと気にする人は多そうだな。


「乗りたいの?」


「ロマンを感じませんか!? シースルー!」


 小学生男子か。ゲーム機とか文房具で透けてるヤツが好きなの。


「それはそれとして……気にしないの? 彩芽ちゃんスカートだし……」


「他のゴンドラから見えないですし、そもそも基本座ってるから見えませんって!」


 彼女は気にしない性格らしかった。


「今日は人が少ないですし、少し待てば乗れると思いますよ?」


 乗りたがっているし、俺もそれを拒否する理由は無い。


「じゃ、ちょっと待ってから乗ろうか」


「ですね!」


 係員に話を付けて、そのゴンドラが来るまで1分もしない程度待った。


「それでは、お足元にお気をつけてお乗りください」


 促され、乗り入れる。


「ドキドキしますね!」


「本当だね」


 俺は彼女とは別の意味でドキドキしているはずだけどね。


 彩芽ちゃんはスカートを履いており、所謂ミニスカくらいの丈だ。


 電車では横に座っていたし、水族館は歩き、昼食時もテーブルがあったので気にはならなかったけど、何も無いところで向かい合って座ると、その丈の短さが気になってしまう。流石に見えないはずだけど、無駄にドキドキしてしまうものだ。


「色々見えますねぇ~」


「色々あるからね、この周り」


 ゆっくりと昇っていく景色は先ほど楽しんだ水族館の他、街の様々な景色が映っていた。


「山も良く見えますねぇ~。あ、反対方向は大橋も見えますねぇ~。空港も見えるんですね」


「夜はライトアップされて、近場で花火大会があればここから綺麗に見えるらしいね」


「学生なので夜は補導の可能性が出てきちゃうのが難点ですねぇ……」


 そこまで長時間ではないけど話題のストックはあまりなく、「絶景ですね」なんて言うくらいしか放つ言葉が無くなって来た。


「……」


 彩芽ちゃんは無言の間が気まずいのか脚をモジモジとさせて、顔も緊張感のあるものになっていた。


 ゴンドラに乗ってから7分前後経ち、もうそろそろ最高地点に到達するという少し前、ある話を思い出した。


「センパ――」


「そういえば、この観覧車に乗ったカップルって分かれるっていう噂というか、迷信があるよね」


「ンンンーッ……」


「ん? 何か言おうとした?」


「……いえ、何でも……ないです。……続けて下さい」


「そう?」


 彩芽ちゃんが何かを言おうとしたみたいだけど、口を閉ざしてしまった。


 話題を投げようとしたら、別の話題の方が流れに沿っていたりして、そちらの方の流れに乗った方が良いと判断したから投げようとした話題を捨てた……みたいな感じかな。そういうこともままあるし、気にせず話を続けたら良いか。


「その噂とか迷信って、分かれるようなカップルがこういう観覧車とか、そういう噂のあるところに来るってだけで、元からカップルが来やすい場所だから分かれる人のデータも集まるってだけだよね」


 何かトートロジーなことを口走ってしまった気がする。あと、こういう話って女の子に嫌われやすい話題というか、話し方である気がする。心なしか彩芽ちゃんが気まずい表情を超えて、少し体調が悪そうな、やや青ざめた顔色をしている。


「あー……あんまりこの話良くない……?」


「いえちょっと……高所恐怖症なの忘れてまして……さっき風で揺れて思い出して……」


「そんなことある?」


「意識し出すと気分が悪くなるというか……。だから飛行機とかは全然大丈夫なんですけど……」


 そういうこともあるのか……。


 その後、彩芽ちゃんはうんうん唸りながら残りの7分前後、風景を楽しむことなく青ざめながら降りるのを待っていたのだった。

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