88話 ファミリア
彩梅ちゃんと出掛けた日の次の日。
「うっす、おはよう」
「あ……うん……。おはよう」
うーん……?
「実、今日は調子悪い?」
朝、いつも通りに一緒に通学しようとするも、その相手の顔に何か陰のようなモノを感じてしまっていた。
「……ん? どうして?」
「いや……なんとなく、そう見えただけっていうか……。あと、反応もいつもより遅いし」
「……そう?」
「今も反応がいつもよりワンテンポ遅れてるような気がするよ」
「そっ……かぁ……」
「だから、何かあったのかなと思って」
外見を見ただけだとあまり分からなかったけど、反応は明らかに違っていた。
「いや……、まー君は関係無いから……」
「関係無いって……会話の反応がそこまで悪かったら、原因が俺じゃなくても気にはなるって」
「本当、良いから……じゃ」
「って、おいっ!」
実はパタパタと早足で学校の方へと、目の前から去っていってしまった。
「どういうことだ……?」
俺が昨日の内に実の機嫌を損なったことはあったのだろうか……?
少なくとも面と向かって何かをやってしまったことは無かったと思う。そこで機嫌を損ねていたら流石に分かるだろうし……。メッセージの類の確認も別に怠ってはいないし、昨日は1日中、実とそれらを交わしていない。
じゃあ何だ、俺に言いにくくて、機嫌が悪いように見えるようなことと言えば……。
「……はっ! もしかして生理とかか……? いやいや、前に生理云々がどうとか言ってたから、そこまで躊躇いは無いか……?」
いやでも、会話の流れで言い易い、言い難いみたいなことは無いだろうか……? そういうこともあって言い難いのかも知れないな……。言ってデリカシー無いとか思われたり、それで怒られたりしてもアレだし。
「学校で再開してもそっとしておいて、意識せずに気楽にできるように配慮だけしておくか? っとと、俺も急がないと学校に遅れる!」
時計を見ながら考えと気持ちを整理して、遅れないよう学校へと急いだ。
「おっす、増良! 残り30秒だ! 遅刻チキンレースの自己ベスト更新だな!」
「おーっす、船木。どうでもいいけどシメて良い?」
「俺、そこまで酷いこと言ったか……?」
「悪ィ、課題を出して整理するから無視するな」
「対応は丁寧だけど酷ぇなオイ」
カバンから課題になっているノートなどを取り出して、実の方に目をやる。
「……」
どうやら、朝の時とそこまで顔色が変わっていないようだった。
こりゃ、今日中はそっとしておくべきなのかもしれない。
―Minol Side―
本当に自分が嫌になる。
何が嫌って、諦めたと思って諦めきれていないことや、前に似たようなことがあったのにそこから対応や態度が改善していないことが嫌だ。
まー君は私のモノなどではなく、彼が誰と一緒であろうと彼の自由であるのに、私の中で縋りたいジメジメした感情、怒鳴りつけたい沸き立った感情、押し倒して逃げられないようにして、私だけのものにしたいというドス黒い感情が混じり合って、頭がおかしくなりそうだ。
そしてその混じり合った感情から生み出される行動とは、足がすくみ、手が震え、ただそこに立ち尽くすのみという恥ずかしさ。
意思や思考なんてあってないようなものだ。
真っ白な状態からグチャグチャに、グチャグチャな思考からまとまろうとする結論は結局頭の中を真っ白に染め上げるだけ。
混じり合う感情とグチャグチャな思考、それらから成り立つ意思なんてまともに指向せず、定まらない。
「……」
まー君の方をチラと見る。
「~~、~~。~~!」
彼は他、友人たちと楽しそうに会話している。
同性に向けるその幸福そうな顔すら恨めしく感じてしまうのは。
「はぁ……」
やっぱり、今までは近すぎたのかも知れない。距離を取って、もっと落ち着いて接することが出来るのであれば、まだ友人として普通の関係でいられるはず。
今まで親友として居た距離を得られなくて少し……いや、大分寂しいけど、本当はこれが適切で、正しくて、安定した関係……なんだと思う。




