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自称魔王との出会い

「はぁ…レベル上げめんどくさいなぁ…」


カーテンを閉め切った部屋の中で人気アクションゲームをプレイする最中、モニターに向かって誰に向かってでもなく呟く。

俺、宮野真緒みやのまおはゲームが唯一の趣味な普通の高校生だ。唯一の趣味とは言ったがガチ勢ではない、根っからのエンジョイ勢である。そんな俺が黙々とレベル上げに勤しみステータス画面とにらめっこしているのには理由がある。


ーーーーー


【宮野ってさぁ、ゲームめっちゃ詳しいよな。】


【え?別に詳しくはないよ、広く浅くやってるだけだって。】


【またまたぁ、それで聞きたいんだけどさ、ブラッディソウルで上位魔法使えるようになるのってどんぐらいレベル上げすればいいの?】


【いや知らないよ、俺魔法じゃなくて近接武器主体だし…】


【あ、それ俺も知りたいわ。上位魔法って近接より火力出るらしいじゃん。どうなの?】


【あの、だからさ…】


【ついでにオススメのステータスの振り方教えて。】


【話聞いてくんない?てかググれよ…】


ーーーーー


皆さんの中にもご経験のある方がいらっしゃるのではないだろうか。ヲタクだからという理由だけでゲームの事なら何でも知ってる、みたいな扱いを受けたことが。

連休明けに結果を教えてくれと言われ、こうして慣れない作業を続けているのだ。睡眠時間を減らした甲斐も何とかいいキャラクターが出来上がった。この頼まれ事を断れない性格も何とかしなければ…


「でもさすがに疲れたなぁ、げ!?もう夕方じゃん…父さんと母さんは旅行だし、もういいやカップ麺でも買ってこよ。」


ジャージはそのまま外に出られるから楽だ。寝不足のせいでふらつきながらコンビニに向かう。元々夜更かしは苦手なのだ。深夜2時を過ぎたあたりから吐き気がしてくる。ガチ勢の人達からは「甘い」とよくお叱りを受けるが眠いんだからしょうがないじゃん。


「やばい、めっちゃきつい…しんどいなぁ、眠いなぁ、早く帰りたいなぁ…」


自分でもわかる、今の俺ゾンビみたいになってるんだろうな。家からコンビニはそう遠くないんだが、コンビニの前にある横断歩道が実にもどかしく感じる。渡りながら俺も随分と余裕がないなといつも思う。まぁ今はマジで余裕がないんだけど。


(なんだ?何かやたらと周りが騒がしいような…)


ふと足を止めて周りを見る。横断歩道の真ん中にいる俺を多くの人が見つめている。不自然に思ったのは横断歩道に俺以外の人がいない。そこからの光景は全てスローモーションに見えた。まず信号、赤い。言わずもがな渡るべからずの赤だ。そして俺の側面から迫る大型トラック。こういう時、人はどういうことを思うのだろう。やっちまったとか死にたくないとかだろうか。だがこの時の俺が思ったのは


「これは…完全に俺が悪いよなぁ…」


反省というか自責の念というか、まぁそんなところだ。何かほんとにすんません。


ーーーーー


「…い、…きろ。」


誰だ?


「おい、いつまで寝ておる!」


しょうがないじゃん、寝不足だし。


「早く起きろ!話があるのだ!」


俺はないよ。


「さっさと…起きんかぁ!」


「痛ってぇ!」


ーーーーー


頭に強い衝撃を受けて起き上がる。目を開けた瞬間に俺が見たのは赤色の壁…じゃない。腹筋だ、バッキバキに割れた腹筋。思わず言葉を失う。その腹筋の持ち主は俺の前に座っているようだがその状態で立っている俺の目の前に腹筋がある。ゆっくり後ずさりながら目の前の存在の全体像を確認したのだが…


「なんだこれ…生き物か?」


「あったりまえじゃろ!今お前に話しかけたじゃろうが!」


「声でか!いやでも…」


俺の目の前にいるのは…簡単に言えば巨人だ。3メートルとか4メートルくらいか?その肌は赤黒く全身鎧のような筋肉に覆われている。だがそれよりも、そんなことよりも…


「なぁあんた何なんだよ?なんで腕6本もあんの?なんで目が四つあるんだ?その頭の角って飾り?コスプレ?いやそれ以前にあんた…人間か?」


「一気に聞くな!ったく、えぇと…まず儂は人間ではないしこの身体は自前じゃ!飾りではないわ。他に聞きたいことは?」


「あー…名前は?」


「ラースじゃ。魔王を自称しておる。お前さんは真緒と言うんじゃろ?」


「え!?何で俺の名前…て魔王?!」


「なんじゃ、何かおかしいことを言ったか?魔族の王で魔王、分かるじゃろ。」


分かるじゃろって…もうおかしいことだらけだよ。魔族?ゲームの夢でも見てんのかな。でもおかしいのは目の前のラースだけではない。今俺達がいるこの場所、真っ白だ。俺達以外の周囲が全て白く染まっていてこの空間が広いのか狭いのか分からない、なんか落ち着かない…


「………」


「それでな、お前にやってもらいたいことが…」


「ちょっと待って勝手に話進めないで、ただでさえ魔王とかこの場所の事で混乱してんだから!お前俺に頼み事あんのかよ。ていうか俺…死んだんじゃ…」


「おう、お前は死んだ。そしてここは世界から離れた魂が集う場所じゃ。それで頼みなんじゃがな…」


「あっさり流すな!段階を踏め段階を!」


「ちっ…細かいのう…」


ーーーーー


ラースから聞いたことをまとめると、こういう事らしい。ラースは俺が生きてたのとは違う世界【ギレス大陸】という場所。そこで【天魔六武衆】という6人の幹部とその他数多の軍勢を率いてギレス大陸の太古からの支配者と嘯く【魔神族】なる者達に喧嘩を売ったらしい。喧嘩を売った理由は気にくわなかったから。まるでガキ大将のような理由だがラースと仲間達にとってはそれだけで十分だった。


「気にくわなかったからってお前…その魔神ってそんなに嫌な奴らなのか?」


「嫌な奴らで済むなら儂も喧嘩なぞ売っとらんわ!魔神族と言ってもな魔神はたった一人しかおらんのし、そいつはとっくの昔に死んだとされていた。今残っておる魔神族はそいつの子孫を自称する馬鹿とそれを信じてやまない元配下の大間抜け共よ。奴らはもう篝火ほどの光量もないその威光をひけらかして築いた領地で他の魔族から作物やら資源を絞り上げやがった。まるで家畜、いや家畜の方がまだマシだ。喰うものもろくに賄えず皆瘦せ衰えてバタバタ死んだ。その状態が何十年も続いていた。」


「はぁ…でもそんなことが出来るってことはその馬鹿や間抜け達も相当強いんじゃないのか?」


「奴らが強いのではない、恐れられていたのは魔神が遺した魔術書や武具だ。魔神族の持っていたものは強力無比な力を何の苦労もなく即座に行使できるものだったからな。」


なるほど、もしラースの話が本当なら魔神族はまさに虎の威を借る狐というところだろう。


「皆、我慢の限界だったのだ。儂はそれをぶちまけるきっかけを作ったに過ぎん。…誰も餓えることもない差別もない、今日死なないことだけを考える日々を終わらせる。それが儂の、儂についてきてくれた者達の目標だった」


「それでラース達は勝ったのか?いやすまん、ここにいる…?てことは。」


「あぁ、負けた。さっき魔神は死んでいたと言ったな。それが唯一の勘違いで最大の敗因になってしまった。生きて…いや、存在していた。魔神族の本拠地である大陸の中心地【イプト・フュート】を依代にした霊体としてな。」


「地縛霊か…」


「戦いの途中から勝つことから部下達を逃がす時間を稼ぐことに目的が変わっていた。情けない話だ。そして儂は敗北し魂と肉体を切り離されてしまった。奴め…ご丁寧にも復活を妨害する魔術まで施しおった。」


「質問ばっかで悪いけどさ、何でそんな回りくどいことをしたんだ?お前をより安全に殺そうとしたからか、それともラースの身体が目的とか?もしかして魔神ってそういう…」


「やめろ吐きそうだ。簡単よ、奴が憑依しても耐えられるだけの器が欲しかったのだろうよ。それがあれば奴はイプト・フュートから出られんという縛りから解放される。」


そういうことか。でもそれって相当やばいだろ!目の前にいるラースがとてつもなく強いことは戦いどころか喧嘩さえしたこともない俺でさえよく分かる。この四眼六臂の巨人を倒した魔神があまつさえその身体を依代に自由に行動できるようになったら…俺の考えを読み取ったのかラースは大きく嗤う。


「安心せい、儂とてやられっぱなしではない。魂が切り離される寸前儂の持つ固有魔術群と魔力の大半を一緒に持ってきた。今頃儂の肉体はカラッカラに干上がって何の役にも立たん。いくら魔神とて修復にかなりの時間が必要になるじゃろうて」


「固有魔術…群?固有ってことは普通の魔術とは違うのか?まぁ俺からすれば普通の魔術でも理解できないんだけど…」


「魔術自体は誰でも使えるようになる。だが固有魔術とはな、どの属性にも当てはまらないその者オリジナルの強力無比な魔術じゃ。魔物がその長い一生を費やしてやっと一つ会得出来るかどうかという代物よ。」


「へぇ、ラースはそれを6個も持ってんのか。なんかやっと魔王感出てきたな。」


「お前ここまで儂のことを何だと…」


ここまでの話を聞いてラースが嘘をついていないことや悪人ではないことは何となくわかった。でっかい多腕のおっさんかと思っていたが想像以上に壮絶な経験を経てここにいるらしい。それに比べて俺は…ん?いや待てよ…


「なぁ、何で俺達ここで当たり前のように話し合ってんの?」


「いや儂は最初に頼み事があると言ったろうが。話そうとしたのにお前が邪魔したのではないか。」


「あぁそうか…って違うよお前の話の切り出し方が強引すぎたんだよ!で頼みって?」


「うむ…単刀直入に言う。真緒よ、ギレスに転生し儂の身体を取り返してくれんか。」


まぁそう来るよな話の流れ的に。異世界への転生、しかも魔術が存在する世界。聞いてるだけでワクワクするじゃないか。…でもこの話は無理だ。理由は単純明快。


「すまんラース、断らせてもらうよ。俺、武術の心得とかないし、ギレス大陸の地理も分からんぞ。それにこれは想像だけどラースがいなくなったことでお前にやられた魔神サイドの奴らは絶対敵対してくるぞ。到底無理だって。」


「馬鹿かお前は。儂がそのままお前を転生させるわけがなかろうが。お前には儂の固有魔術群【ラース】を預ける。それでどうだ?」


「え?!そんなこと出来んの?!」


「なめるな、その程度造作もないわ。地理に関しても問題はない、考えがある。それとお前もその人間の姿では目立ちすぎるからな。骨格、身体の造形が限りなく近い魔族の身体を造ってやる。どうだ至れり尽くせりであろう。」


「そこまで出来るんならその身体にお前が…あぁ妨害されてるんだっけ?」


「そういう事よ。で、どうじゃ?というかやると言うまで離す気はないぞ。」


「脅しじゃねえか!はいはい分かったよ。やるよ!でもうまくいかなくても文句言うなよ!元々魔法も魔族も存在しない世界に住んでたんだからな!」


はぁ…まさかこんな状況でも断れない性格が出るとは…


「大丈夫じゃ!お前ならやれる!儂の直感がそう告げておる。こういう時はな深く考えないのが一番じゃ!」


「それ考えるのがめんどくさいだけだろ…」


ーーーーー


こうして俺の異世界【ギレス大陸】への転生が決まった。俺が行くと決めてからラースは大はしゃぎで準備を始め、固有魔術群【ラース】の移植や転生した時の俺の身体の生成などなど。あっという間に転生の儀式が始まった。


「さぁ転生開始だ!頼んだぞ真緒、失敗は許さんが出来る限り気負いせず責任感を持ってのびのびとな!」


「頭ごちゃごちゃになるわ!頑張れだけでいいんだよ頑張れだけで!」


心をめちゃめちゃに搔き乱されながら俺の周りに様々な魔法陣が展開し、身体が光に包まれてゆく。あぁ本当に転生するんだな俺。そうだ!最後に聞いておきたいことがあったんだ。


「ラース、お前は何で俺を選んだんだ?教えてくれ!」


「あ?そんなの決まっておろうが!名前じゃ!」


「は?名前?」


「儂は魔王。そしてお前は真緒。マオウとマオ、完璧じゃ!はーっはっはっは!」


「なんだその理由!そんなので選んだのかよバカなんじゃ…」


そこで俺の意識は途切れた。これが俺の異世界への第一歩。あぁ…不安だ。

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