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死神悪役令嬢は、全部第二王子のせいにする  作者: 栗原ちひろ
第1章 最強暗殺者、悪役令嬢になる
3/17

3.王子にバレてしまった!

「いかにも、僕がリムランデルン王国の第二王子にして最強の魔法士、エトだ!! ひれ伏せ、愚民ども!! どっかーーーーん!!」


 堂々と叫び、謎のカッコイイ・ポーズをつけるエト。

 どっかーんって、お前……。

 いや、まあいい、バカであればあるほどだましやすい。

 どっかーんと爆発が起こればいいんだろう?

 私はブレスレットを押さえ、エトの背後に炎をイメージしてやる。

 直後、ドンッ!! と爆発音。

 エトの後ろで、盛大な土煙があがった。


「ひえっ!! なんてド派手な魔法ですの!? とんだ地味男さんだとばっかり思ってましたのに!!」


 ヒルダは叫び、頭を抱えてしゃがみこむ。

 ヒルダもちゃんとだまされているようだ。

 リサは、と見ると、彼女は目をみはって立ち尽くしている。


「エトさまに、こんな力が……?」


 割合冷静な女だな。

 この爆発慣れ……普段は修羅の世界にでも生きているのか?

 それと、もうひとつ気になることがある。

 エトの背後で起きた爆発だ。


 私は炎をイメージしたのに、炎は上がらなかった。

 爆発音がして、上がったのは土煙。

 爆発したのは、一体なんだ?

 私の魔法は、一体なんなんだ?

 ゲーム慣れしていないのがキツいな、想像がつかない。


 首をひねる私をよそに、エトは満足げに近づいてくる。


「二人とも無事で何よりだ。君は……ああ、噂の転校生か。こっちの君は知ってるよ、兄上の婚約者のシーラだね。二人ともびっくりしただろ。原因究明はちゃんとさせるから安心して」


「ひえ、そんなそんな、殿下直々にお言葉を頂くなんてもったいない! こ、この度は、本当に、いえ、誠に、心から、誠心誠意、全身全霊、とにかくありがたく思っておりますです!」


 リサがばねじかけみたいに頭を下げる。

 いかにもな平民ムーブだ。ならば私は、いかにもなご令嬢ムーブでいくしかない。

 一流の殺し屋は一流の役者。こういうときの礼儀もお手の物だ。


「殿下こそ、御無事でなによりです。このご恩は我が魂に刻み、一生忘れません。エトさまとリムラルデン王国に永遠あれ」


 私は濡れたうえに埃まみれのスカートのすそをつまみ、優雅に一礼してみせた。

 これまた埃まみれの顔で、まっすぐにエトを見る。

 そして、感謝のほほえみ。


 エトはそんな私を見ると、ちょっと焦って目を伏せた。


「……そこまで言われると照れるな。僕こそ、婚約者をこんな埃まみれにして、兄上に謝らなきゃ。そうだ、リサ、ちょっと下がってて。シーラに兄上への言づてを頼むから」


「はい、もちろんです!」


 リサは大急ぎで跳び下がり、ヒルダがその耳をがっしと塞ぐ。

 いいぞ、ヒルダ。いい手駒ムーブだ。

 満足して目を細める私の耳に、エトが口を寄せた。


「――お前、シーラじゃないな?」


「!」


 ぎょっとしたが、表には出さない。

 まつげの一本も動かさず、不思議そうな顔を作る。

 ゆっくりとエトを見上げ、名を呼ぶ。


「エトさま?」


 きちんと無垢で不安げな声が出た。

 エトは、近くで見ると案外背が高い。

 かなり長身のシーラより少し高いか同じくらいだ。均整がとれた体だし、顔の形も完璧。

 肌は白く、前髪が長すぎる黒髪はつややか。

 前髪の奥が見てみたいな、と思った瞬間。


 目が、合った。

 前髪の奥――ギラリ、と光る真っ黒な目と。

 まるで黒曜石のナイフみたいな、どこまでも黒く、暗く、なめらかな……敵意。


 薄い唇がゆがみ、囁く。


「いい演技だ。全部僕のせいにしようとしただけはある。お前はシーラじゃない。だけど、使える。――人殺しの目だ」


 甘くて、どす黒い、殺気まみれの声だった。

 今、このとき、わかった。

 なんでこの男に、私の正体がバレたのか。


 この男も、人殺しだからだ。

 ただの人殺しじゃない。

 特別な、極上の、人殺し。


 ぶわっと全身に熱が回った。目がチカチカする。

 体が熱い。息が熱い。あんまりにも、熱くて、体が燃えてしまいそう。

 興奮している。人殺しなんか何人も、何百人も、何千人も見てきたのに。


 この人は……特別な予感がする。


「……じゃあ、今言ったことを忘れないでね。シーラ、今までの僕ら、兄上に遠慮して疎遠気味だったよね。だけど本当は家族みたいなものだから、これをきっかけにもう少し親しく付き合えるといいな」


 急に『表向きの声』に戻って、エトが言う。

 私を冷淡に押し離す。


「あ……」


 私は、思わずエトに手を伸ばした。

 何をしたかったのかは、わからない。

 引き留めたかったのかもしれない。


 エトはそんな私に笑いかけ、自分の胸をとん、と叩いて去って行く。

 今の、なんだったんだろう。心臓の位置?

 それか、制服の胸ポケット……。


 ……胸ポケット?


 はっとした。

 慌てて自分の胸ポケットを見下ろすと……あった!!

 さっきまではなかったはずの紙片が、ちょっぴり顔を出している。

 エトだ。

 彼が、会話しながら紙片を差しこんでいったのだ。

 私の心臓の位置に、私に気づかれないうちに!!


「あの男……私を、殺せる」


 私は、思わず口の中でつぶやいた。

 紙片の代わりにナイフを突っこまれれば、私は、死んでいた。

 なんてこと。なんて男。

 心臓が躍る。恐怖で。歓喜で。

 どうしよう。私、嬉しくてたまらない。


 こんなにもスマートな殺害予告、最高の最高の最高じゃないか!!


「シーラさま、どうされました? お顔が赤い……あんなことがあったのですもの、きっとどこかお悪いですわよね? このヒルダにつかまってください! 校医のところに参りましょう」


 リサを放り出したヒルダが駆け寄ってくる。

 私はぼーっと答えた。


「ああ、うん……多分医者じゃ治らない奴だが」


「不治の病ですの!? まさかシーラさま、そんなものをわたくしに隠されていたんですのっ!?」


 ヒルダはまだ叫んでいたけれど、私はエトの後ろ姿を見ていた。

 しあわせだった。

 今までにないくらいしあわせで、頭がからっぽだった。


 ……そのせいかもしれない。

 ふわり、と、急に、妙なことを思い出した。

 古代の宮殿のような場所で、女神っぽいものと話している自分の記憶。

 これは……ひょっとしなくても、転生直前の記憶だな?

 私は元の世界で死んだ後、女神さまらしきものと喋ったんだ。


 確か、女神はひどく青ざめていて、こう言った……。


 ――殺し屋ランキングナンバー1のあなたに、依頼があるの。

 ――とある世界に行って、ある男を殺してほしい。

 ――任務のために、あなたにはその世界での最強魔法を与えます。

 ――ターゲットは……。


「……なんてことだ」


 私はぽろりとつぶやく。


 思い出した。思い出してしまった。

 女神が依頼してきた殺しのターゲットは、黒髪に黒曜石の目をした男。

 リムデルラン王国第二王子……エト、だ

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― 新着の感想 ―
[良い点] 日曜の朝に放送されそうな演出に笑ってからの胸踊る展開が来ましたね?!おバカ王子も好きですがハリボテのおバカ王子も大好きです!! 合図にも、シーラちゃんが気づかずに仕込めたのもさいのこう…
[良い点] 面白すぎる~!! 読んでいるうちにそんな気はしながらも、やっぱ、地味王子がとんだ猫かぶり王子だった……!! 能ある鷹はなんとやらといったほうがいいのかもしれないけど!! どかーーーん! で…
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