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死神悪役令嬢は、全部第二王子のせいにする  作者: 栗原ちひろ
第1章 最強暗殺者、悪役令嬢になる
2/17

2.最強魔法を打ってしまった!

 危ない!!


 そう叫ぶ暇もなかった。

 石像はスローモーションみたいにリサの上に倒れてくる。

 あんなものがぶち当たったら、人間なんかひとたまりもない!!

 リサがゆっくりと上を見る。

 見開かれる瞳。


「リサ!!」


 リサのところまで、あと十歩、三歩、一歩――間に合った!!

 叫ぶと同時に、私はリサを両手に抱いた。

 そのまま、勢いよく地面に転がる。

 私とリサは何度かバウンドし、門外に出た。

 大丈夫、これで逃げられた、はず。


「!?」


 私はリサを抱いたまま、顔を上げる。

 殺気が、消えない!!


「まさか、これ、魔法です……!?」


 リサが震えて叫ぶ。

 視線の先で、石像は――宙に、浮いている!!

 たてがみがヘビになった獅子像が、横倒しになったまま浮いている。

 浮いたまま、ゆっくり、ゆっくりとこちらへ頭を向ける。

 胸が悪くなるほどの殺気……!!


「なるほど……魔法か。ならば、下手に逃げ回るより魔法で対抗するのがいいだろう。君、魔法は使えるな?」


 私はとっさに囁いた。

 リサはうろたえつつもうなずく。


「は、はいです! 少しなら、ですが!」


「よし。ならば私と共に、あれを魔法で跳ね返すぞ」


 力強く言うと、リサはぎゅっと唇を噛みしめて石像を見た。

 さすがは主人公だ、肝が据わっている。

 平民ながらも魔法学園に来るくらいだ、才能もあるのだろう。

 むしろ問題は私だ。

 当然ながら、転生前の魔法経験はゼロ。

 悪役令嬢は成績がいいものだと信じて、リサの真似をするしかない!!


 と、そのとき。


『ギョオオオオオオオオオアアア!!』


「っ……!!」


 地の底から湧き上がるかのような声!

 私の腕の中で、リサが震え上がる。

 石像が、鳴いた……?

 気のせいじゃない。それどころか、表面がぬるぬるとした黒い鱗に覆われ始めている。

 ぶるり、と身震いしたかと思うと、石像――いや、漆黒の獅子が、目の前に降り立った!


「な、なんですか、この魔力!! こんな……こんな魔法知らない、あんまりにもまがまがしくて強大……わ、わたし、私の力なんかじゃ!!」


 リサが息も絶え絶えに叫ぶ。

 次の瞬間、獅子からにゅるるるるるるる、と無数の触手が伸びた!


「き、きゃあああああ!!」


 殺到する触手。

 悲鳴を上げるリサ。

 私はリサの襟をつかみ、自分の背後にぶん投げた。


「そこにいろ!!」


 叫ぶと同時に、私は自分の制服からピンを抜き取る。

 さすがは古風な衣装だ。思った通り、鋭利で長いピンで何カ所も留められている。

 一本、二本、三本!!

 襲い来る触手を避け、次々にピンで地面に縫い止めていく。

 四本目の頭をわしづかみ、スカートを翻し、五本、六本目をヒールブーツで踏みにじる。

 靴底に伝わる、骨の砕けるかすかな手応え。

 覚えがあるぞ。こいつら、ヘビだ。


 石像のたてがみに生えていたヘビが、自在に伸びて私たちを襲っている。


 十匹ほど始末すると、ヘビの攻撃は不意に止んだ。

 だが、まだ殺気は収まらない。


「本体が来るぞ、リサ!! 魔法で迎え撃つ! 構えろ!!」


「は、は、ははは、はい、です……!!」


 涙目でリサが叫び、ブレスレットを顔の前に出して目を閉じる。

 なるほど、あれがマジックアイテムか。


 納得した直後、漆黒の獅子が跳躍する!!

 私たちに向かって!!


『アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!』


 悲鳴のような声。ぱっくりと空いた口には、なんと三重に牙が生えている。

 私はヘビを放り投げ、自分のブレスレットに触れた。

 どうにかして、リサを助けたかった。

 彼女はこの世界の主人公だ。

 主人公なくして、悪役令嬢の活躍なし。

 私みたいな悪党に体を明け渡したシーラのためにも、守ってみせる……!!


 強く願うと、ブレスレットがじんわりと熱くなる。

 そして――。


『アッ』


 変な声がした。


「ん?」


「……え、ええ……?」


 私は目を細め、何度か瞬く。

 背後をちらっと見ると、リサは派手に引きつっていた。


 うーん、そうか、リサも意外か。

 うーん。う……うううううーーーーーーーん。


 これは………………なんだ???

 

「シーラさまぁ!! シーラさま、ご無事ですの!? わたくし、もはやシーラさまなしではひとときも生きていられませんの、責任を取って頂きませんと!!」


 やっとヒルダが追いついてくる。

 私はしばし目の前の『これ』を見つめてから、淡々と言う。


「無事だ。目下、問題はない。……石像が毛玉になったこと以外は」


「毛玉!? きゃっ、本当ですわ、獅子の赤ちゃん! かわいいですわねー、どなたかのペットかしら! さすがに魔法学園にペットを持ちこむのはどうかと思いますが、ええっと、あれ? さっき、門の石像がどうかなったんじゃなかったですの?」


 ヒルダは毛玉を拾いあげて首をひねる。

 彼女が抱いているのは、確かに獅子の子どもだ。

 つまり、石像が、私たちの魔法で獅子の子どもになった。


 え……ええ…………? 

 すごいな、魔法。ほとんど神の力では!?


 私は思わず感嘆の声をあげた。


「リサ! 君の魔法の才能はすさまじいな。石像を本物の獣にし、ついでに若返らせるとは。もはや生命の禁忌に触れるような技じゃないか。このシーラ・ヴィンテルヴェルトでもたやすくできることではないぞ。……おそらく、な」


「違います。これ、絶対リサじゃありません」


「ん?」


 見ると、リサはこの上なく深刻な顔だ。


「絶対絶対絶対、リサにこんな力はないです!! 唯一神『テ』の神使ででもないかぎり、古の虚無魔法を簡単に打ち砕いちゃうとか、そんな化け物級の力は持っていないはずです。持ってちゃ、いけないんです!!」


 ほう、これは異常事態か。

 リサのせいではないとすると、異常事態の原因は……。

 …………………………。

 

 ………………私か?


 私の魔法が、化け物級だったということか!?

 そんなことってあるか? いくら悪役令嬢とはいえ、これはチートってやつでは?

 自問自答しているうちに、リサがすごい目で見つめてきた。


「……あの。これをやったの、あなた、ですよね。あなた……一体、何、です?」


 誰、ですらない。モノ扱い。

 黙っていると、リサはおびえた顔になる。


「いや、むしろ、あなたさま……? というよりは、神……? 神さまなんです……?」


 モノすら超えた。神扱い。


「何を言う、私はただの悪役令嬢……」


 私は一応反論を試みる。

 が、リサはぶんぶんと首を横に振った。


「まさか!! こんな聖なる力を持った方が『悪』なはずないです!! どうしよう、えーと、えーと、お師匠さまに知らせないとです、ああああ、でももうこの学校に入学したんだから、えーと、えーと、えーと、すだ、学園長に知らせないとです!! とにかくとにかく知らせないと!!」


 ……まずい。

 まずいぞ、これはまずい。


 ゲームに疎くてもわかる。

 主人公が入学する段階でこんなイベントが起こる乙女ゲーはない!!

 悪役令嬢のくせに、こんなところで主人公より目立ってどうする!!

 私は必死に周囲を見渡し、目に入った人物を指さして叫んだ。


「落ち着くんだ、リサ。今の魔法は、彼の必殺技だ!!」


「えっ!?」


 愕然として振り返るリサ。

 視線の先にいたのは、めちゃくちゃ地味な男子生徒だ。

 リサと同時に校門を目指していた彼は、終始隅っこで縮こまって震えていた。

 ひとまず、全部こいつのせいにできないだろうか。

 リサは彼を見て叫ぶ。


「必殺技!? 魔法に必殺技なんてものがあるんです!?」


 驚くところ、そこか!?

 続いて、ヒルダも叫んだ。


「まあ……! そうだったんですのね、エトさま! さすがはリムランデルン王国の第二王子、きっと素晴らしいお力を隠しておられるのだろうと、わたくしたち、いつも噂していたんですのよ!!」


 第二王子!? 

 まさか、こんな地味な奴が第二王子……!?

 異常なほどオーラがないというか、存在感がないというか、ほぼ無だぞ、存在が。

 体格は悪いわけではないんだが、前髪が長すぎて目元も見えないし。

 私がまじまじ見ると、エトはしゃがみこんだまま頭に鞄を載せて顔を隠した。


「そんなこと、できるわけない……、僕、その、ほんとに、虫けらだから……」


 また虫けらか!!

 ヒルダに続いて、どうしてここにはこんな虫けら志望が多いんだ!!


「彼に魔法の気配はありません。やっぱり赤毛のお姉さまがやったとしか……」


 リサは難しい顔でエトと私を見比べている。

 私はとっさに両手を組み合わせると、転生前の演技力で、ぶわっと涙を放出した。


「エトさまのお力は、強すぎて我々には感じ取れないのだ!! ひょっとしたら、エトさま自身も今までお気づきにならなかったのかもしれない。だが、私は見たぞ。魔法をふるわれたその瞬間、エトさまが唯一神『テ』そのものと化して光り輝くのを!! エトさまは覚醒された……世界に光を与えるために、生まれ変わられたのだ……!!」


 大仰なセリフ。涙で光る瞳。弱々しい震え。

 ゴージャス美人の悪役令嬢がこれをやればド迫力だ。

 人間は案外押しに弱い!!

 特に、こういう地味な男は押すに限る!!


 果たして、数秒後。

 

「………………ふ」


 お、これは?


「う……うふふふふふふふふふふふふふふふ」


 ふむ。こうきたか。

 

 エトは華麗に鞄を放り出し、すっくと立ち上がった。


「ふ、はははははは!! なるほどーーー、そういうことか! ついに僕、真の力に目覚めちゃった、ってやつだ。いやぁ、思ってたんだよね~、僕はこのままじゃ終わらない、って。いつかこういう日も来るぞーって。毎晩妄想練習しといてよかったなぁ!!」


 ラッキー。

 こいつ、バカだ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] シーラ本当イケメンやなあ〜!笑 言動すべてがカッコ良すぎる! リサを庇って後ろに放り投げた場面とか! 闘う時リサのお尻叩いて促す場面とか! てか、戦闘シーンカッコ良すぎるんですが!! ピン…
[良い点] シーラ様圧倒的ヒーローですね?!名前を呼び!両手に抱き?!逃げたあとも抱いたまま顔を上げ…?これはヒーローでしかないです。世界が惚れました。 早速これまで培ってきた技術を駆使して戦うし!…
[一言] めちゃ楽しいです。 これから異世界のいろいろがわかってくると、もっと楽しいことが、おこりそう。 続き待ってます。
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