迷い犬
雨の降るある朝、学校に、犬がやってきた。
なんだかとぼけた、秋田犬タイプの白くて大きな、犬。
あっという間に、子供たちが犬を取り囲む。
犬は、取り囲まれたまま、尻尾を振る。
愛想の、良い、犬だった。
ワンとも吼えず、ただ、おとなしく、尻尾を振る。
大きい犬だったので、誰も触ろうとは、しなかったのだが。
「うわ!こいつ、くさい!!」
誰かが言ったその一言で、子供たちは散って行った。
雨に濡れた犬は、獣臭がものすごかった。
あれほど賑やかだった犬のまわりが、静まり返った。
犬はただ、尻尾を振って、座っている。
私は一人、犬に近づき、声をかける。
「どこから来たの。」
犬は応えない。
「何か食べる。」
犬は応えない。
「どこに行きたいの。」
犬は応えない。
仕方がない。
市役所に電話をした。
職員が来るまで、犬を見張って、共に待った。
犬は、無事、連行された。
次の日学校は、噂で持ちきりだった。
犬が来たんだよ。
すごくくさい犬だったよ。
大きい犬だったよ。
白い犬だったよ。
犬と話してた人がいたよ。
ん?
犬なのに話し合ってたんだって。
犬と話してたんだって。
犬の言葉が分かるらしい。
犬が言うことを聞いていた。
犬を犬の世界に帰したらしい。
犬は尻尾をささげてた。
犬が敬礼してた。
犬が星へと帰っていった。
おかしな犬伝説が始まってしまった。
自分が学校七不思議の一員になろうとは。
今も語り継がれる、犬ババアの、正体は、私。