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76 皇子の参戦

「お前は……!?」


 アルバがノクスの姿を見て目を見開いている。

 二人の間にゲームの時程の因縁はないけど、初対面でもない。

 アルバにとって、ノクスは右腕と右眼を失った戦いの首謀者の一人だ。

 多くの特級戦士達の仇でもあるし、それを差し引いても帝国の正当後継者なんて不倶戴天の敵だろう。

 皇帝を倒せたとしても、ノクスが残っていれば帝国はノクスを新しいリーダーとして抵抗を続けかねない。

 多分、革命軍にとってノクスは最優先撃破ターゲットの一人の筈だ。

 それがこんな所に現れた以上、アルバに戦わないという選択肢はない。そんな選択肢は取れない。


 そして、ノクスもまた引く気はないのだろう。

 その背中からは、相性最悪の敵を前にしても一切衰える事のない気迫が迸っていた。


「ノクス様……」

「セレナ、お前はこれからの帝国に必要な人材だ。お前が死に、これ以上六鬼将が減れば国が傾く。故に、ここで死ぬ事は許さん。わかったな」

「……はい!」


 その言葉の裏にあるノクスの優しさを感じ取って、私は大きな声で返事をした。

 ノクスは、とてつもなく強い貴族の義務(ノブレスオブリージュ)の精神を持ってる。

 自分に厳しく、常に国の事を第一に考え行動する人物。

 上に立つ者として完璧に近い本物の貴人だ。

 他のクソ貴族とは比べる事すらおこがましい、本物の皇子様なのだ。


 だからこそ、ノクスは常に立場に見合った言動を取る。

 私を過保護レベルで心配しようとも、ちゃんと仕事には送り出すし、公務の範囲を逸脱した甘やかしもしない。

 公私混同は決してしない。

 代わりに、公務の許す範疇でこうして助けてくれるのだ。


 やっぱり、ノクスは優しい。

 今の言葉を建前にして、たった一人で駆けつけてくれたんだから。

 多分、護衛は引き剥がして来たんだろう。

 護衛の足に合わせてたら、私のピンチに間に合わなかったかもしれないから。

 なんというイケメン。

 私の愛が姉様に捧げられてなければ惚れてたかもしれない。


「さて、道を違った我が血族よ。お前には色々と言いたい事もある。お前も私に言いたい事があるだろう。だが、この決戦の舞台で相見えた以上、もはや言葉など不要。……ただ、どちらが強いか、どちらが生き残るか、どちらがこれからの帝国を担うに相応しいか、雌雄を決するとしよう」


 そう言って、ノクスはアルバへと向かって駆けた。

 その速度は、今のアルバよりも尚速い。

 その勢いのまま、ノクスは黒剣で刺突を繰り出した。


 ように見えた。


「ッ!?」


 フェイントだ。

 あまりにも真に迫った見せかけ技。

 動きが上手かったのもそうだけど、フェイントのタイミングでむき出しの殺気を叩きつける事で、離れて見てた私でも一瞬本当にノクスが突きを繰り出したように見えた。

 それを真っ向から受けたアルバは、反射的に突きを防ぐ為に剣を動かし、結果、ものの見事にノクスの術中にはまる。

 ノクスは突きと見せかけて、その場で身体を左向きに回転させ、位置もタイミングもずらして闇を纏った横薙ぎの一撃を繰り出した。

 アルバはフェイントに騙されたせいで完璧な防御ができず、それを食らって横に吹き飛ぶ。

 咄嗟に最低限の防御は間に合ったみたいだけど、闇属性の破壊力はその程度で防ぎ切れるもんじゃない。


 アルバに明確なダメージが刻まれた。

 今回の戦いの中で最も大きいダメージが。


「うぉおおおおおお!!!」


 だけど、当然それだけで倒れてくれるアルバじゃない。

 すぐに態勢を立て直して、反撃に打って出た。

 私はそこに『氷狙撃弾(アイススナイプ)』によるちょっかいを出す。

 しかし、もうこの程度じゃ通じないのか、アルバは普通に剣で氷弾を叩き落としてみせた。


「『闇鬼剣(ダークソード)』!」

「うっ……!」


 でも、剣を氷弾の迎撃に使った隙を突いて、ノクスは自分からアルバに接近して剣を振るった。

 それを、アルバは光を纏った剣で防ぐ。

 闇を纏った剣と、光を纏った剣が、真っ向からぶつかり合った。

 だけど、アルバの方は氷弾を防いだ体勢から急いで剣を動かしたせいで、あんまり剣に力も乗ってないし、纏ってる光もそんなに強くない。

 相性で劣るとはいえ、そんなひょろひょろブレードに押し負けるノクスじゃなかった。

 ノクスの剣がアルバの剣をはね飛ばし、アルバの方が一方的に体勢を崩す。

 そこへ、ノクスは目にも留まらぬ連続斬りを放ち、一太刀振るう度にアルバの体勢を更に崩していく。

 一太刀振るう度に、アルバが確実に不利になっていく。

 まるで完璧な手順の詰将棋のように正確な、アルバに逆転を許さぬ至上の剣技。

 それを前に、完全にアルバは劣勢に追い込まれていた。


 ノクスと私の実力はほぼ互角だ。

 ただし、それは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()から、そういう認識になっただけ。

 氷翼(アイスウィング)で空を逃げ回る私をノクスは捉えられず、私も遠距離からの攻撃だけじゃノクスを倒せなかった。

 完全に私の得意分野を押し付けて、ようやく千日手。

 当然、さっきまでアルバとやってたような中距離の間合いで私がノクスに勝てた事は一度もない。

 近距離戦なんて言わずもがな。

 つまり何が言いたいかというと……


 この距離で戦うノクスは、私なんぞとは比べ物にならないくらい強いって事だ。


「こんのッ!」


 連続攻撃の波に逆らい、アルバが無理矢理反撃の剣を振るう。

 でも、そんな苦し紛れの攻撃がノクスに通じる筈もなし。

 完全に威力を受け流され、無理攻めの代償としてアルバの体勢はこれ以上ない程に崩れ切る。

 そこへ、ノクスは完璧なカウンターを放った。


「『黒薙ぎ(ブラックスラッシュ)』!」


 闇の斬撃を横一文字に振り抜く攻撃。

 あの斬撃は結構な間合いにまで伸びるから、左右にも後ろにも逃げられない技だ。

 唯一の逃げ道は上だけど、普通ならあの崩れ切った体勢で上に飛ぶ事はできない。

 そう、普通なら。


「『衝撃波』!」


 でも、アルバはあの状態からでも動ける技を持ってる。

 衝撃波移動によってアルバは自分の身体を上へとはね上げ、闇の斬撃を回避した。

 しかも、衝撃波を利用して崩れた体勢まで完全に立て直してる。

 驚くノクス。

 それに対し、アルバはノータイムでカウンターを放とうとした。

 ノクスなら防げると思うけど、多分形勢は互角にまで戻されるだろう。

 相手がノクス一人だったら。


「『氷結光(フリージングブラスト)』!」


 でも、ここには私もいる。

 遠距離戦に徹すればノクスとすら引き分けた、この私が。

 今ここに揃ってるのは、帝国で最も強くて相性の良いコンビだ。

 片方に隙が出来ても、もう片方が瞬時にそれをカバーできる。

 故に、私達に隙はない。


「ぐっ!? 『衝撃波』!」


 アルバはノクスへの攻撃を中断するしかなく、衝撃波移動で横に飛んで氷結光(フリージングブラスト)を避けた。

 だけど、意外と太くて速い冷静ビームの光線を完全には避けきれず、左足に被弾。

 膝から下が凍りついた。

 砕けてないって事は芯までは凍ってないんだろうけど、あれじゃ足首は動かないし、膝にも冷気が伝わって少しはダメージ入ってると思う。

 戦闘力は確実に削いだ。


「『漆黒閃光(ダークネスレイ)』!」

「ぐぁ!?」


 更に、闇の破壊光線によるノクスの追い討ち。

 私の氷結光(フリージングブラスト)にタイミングを合わせた一撃をアルバは避けられず、もろに食らった。

 瞬時に光のオーラを鎧みたいに纏ってたから致命傷にはなってないだろうけど、あんなどう見ても発動が間に合ってない不完全な魔術で防ぎ切れるもんじゃない。

 相性の差がなければ、確実に今ので終わってた筈だ。

 だからだろうか。

 

「やったか?」

「ノクス様!? 不吉な事言わないでください!」


 ノクスが、そんな死の呪文を口走ってしまったのは。


「ハァ……ハァ……」


 だからという訳じゃないだろうけど、アルバは息を切らし、ふらふらとしながらも、舞い戻って来た。

 当たり前だけど、まだその目は全くと言っていい程死んでいない。

 多分、本番はここからだ。


「油断しないでください! 容赦なく畳み掛けますよ!」

「ああ、わかっている」

「『氷獄吹雪(ブリザードストーム)』!」

「『闇地獄嵐ダークストーム』!」


 そうして、私とノクスは新しい魔術を発動する。

 選択したのは、避けづらい広範囲攻撃。

 今は威力よりも命中率。

 迎撃に力を使わせて、確実に体力を削ぐ。

 それに、いくら迎撃しやすい広範囲攻撃魔術とはいえ、超級の魔術師二人がかりの攻撃だ。

 弱いとは間違っても言えないだけの威力がある。


 迫り来るニ属性の破壊の嵐に対して、アルバは。


「『光翼(フォトンウィング)』……!」


 再び光の翼を出現させ、真っ向から突き破る事を選択してきた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] こちらの勝手な妄想ですが、アルバ(天才)対ノクス(秀才)&セレナ(努力の凡才)の闘いというイメージで読んでいます。タイプが違う故の、悪サイドペアのコンビネーションアタックの隙の無さがとても…
[一言] 難しいところですね…ここであっさり倒しちゃったらあれ?ノクスくんが強いだけじゃね?ってなってここで負けたら結局負けちゃったよ…ってなるから……作者様の腕の見せ所ですね!
[一言] まるでヒロインの窮地に駆けつける主人公のようだ 戦闘の余波でうっかり皇帝にHITしないかな
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