75 勇者VS氷月将 最終戦
アルバが強く床を蹴り、私に向かって距離を詰めてきた。
今まで何度も戦ってきたんだ。
当然、私相手に距離を空けるのが自殺行為だって事くらい、アルバは文字通り身に染みて理解してる。
そして、私が近接戦闘があんまり得意じゃないって事もわかってるだろう。
だからこそ、シンプルに距離を詰めてくる。
それが戦術として有効だから。
だけど、今日の私には頑丈な盾役がいる。
「『光騎剣』!」
アルバが横薙ぎに光を纏う斬撃を放つ。
でも、その攻撃は私とアルバの間に割って入ったワルキューレが盾によって防いだ。
あまりの威力に盾とそれを握る左腕が壊されたけど、止めてくれただけでも充分だ。
「『氷結光』!」
「くっ!」
私は腕を斜め上に掲げ、ワルキューレを巻き込まないようにアルバの真上から氷結光の光線を叩き込む。
別に、この技はか◯はめ波みたいに手の平の先からしか放てない訳じゃない。
普段手の平の先から放ってるのは、か◯はめ波というわかりやすいイメージを得られて、なおかつ籠手に仕込んだ杖の機能を十全に使えるからやってるだけだ。
その気になれば敵の真上からでも、目からでも口からでも放てる。
でも、そんなそこそこ意表を突いた攻撃を、アルバは普通に避けた。
前に戦った時より遥かに動きがいい。
傷が完治したんだろう。
それに、今は負傷した味方を庇ってる訳でもない。
それを差し引いても成長してる感じがするけど。
でも、前より強いのは決してアルバだけじゃない。
破損したワルキューレが氷を形成し、一瞬にして砕かれた左腕と盾を復元した。
「再生するのか!?」
「これが本来の性能ですからね!」
いつも使ってた不完全版と違って、完全版ワルキューレは胸部に埋まってるコアを破壊するか、充填してる魔力が切れない限り再生し続け、戦い続けられる。
しかも、戦闘能力は六鬼将クラス以下では最強レベルを誇るマルジェラ並み。
ルナの護衛を任せるに足る、精魂込めて作った傑作達だ。
そんなのが、この場には四体。
前衛としては申し分ない。
「突撃!」
そんなワルキューレの内、一体を私の護衛として側に、残りの三体をアルバに向けて突撃させた。
ランスを構え、アルバを貫かんと突撃するワルキューレ達。
標準搭載した氷翼の加速力により、その直線での瞬間速度はレグルスにすら匹敵する。
今のアルバにとっても普通に強敵の筈だ。
「『純白閃光』!」
それに対し、アルバは剣を左手持ちに切り替え、光の義手である右腕をワルキューレ達に向けて、大技の魔術を放ってきた。
光属性上級魔術『純白閃光』。
ノクスが使ってた『漆黒閃光』と対をなす、極光の光線だ。
光がワルキューレ達を飲み込もうと直進する。
「『氷壁』!」
私はそれを、光線の前に分厚い氷の壁を作る事で対処。
しかし、こんな急ごしらえの氷壁で防げる程甘くはない。
それは私もわかってる。
だからこそ、この氷壁は止める事ではなく、軌道を逸らす事を目的に作った。
斜めに展開した氷壁が光線の軌道を歪める。
だけど、それでも光線はワルキューレ達への直撃コースから逸れ切っていなかった。
予想以上の威力。
仕方なく、先頭にいたワルキューレを一時的に手動操作に切り替え、盾を斜めに構えさせる事によって光線を受け流した。
それによってワルキューレの左側が消し飛び、衝撃でワルキューレ自身も吹き飛んで城の壁に叩きつけられたけど、光線は完全に直撃コースから逸れ、城の壁を破壊しながら私から見て左斜め上方の空に消えていった。
ワルキューレのコアも無事みたいだし、少しすれば戦線復帰できる筈。
そして、今の攻撃を切り抜けた二体のワルキューレがアルバに襲いかかる。
一体が速度のままにランスを突き出し、アルバはそれを受け流してワルキューレに剣を叩きつけた。
しかし、今回の一撃は魔術を纏わせる余裕まではなかったらしく、ワルキューレは普通に盾で防ぐ。
一体目とアルバが競り合ってる内に、二体目がアルバの上を取り、ランスを下に構えながら急降下。
それをアルバは横に飛んで避けたけど、少し体勢が崩れてる。
ここだ!
「『氷狙撃弾』!」
「うぉ!?」
一番避けづらい身体の中心を狙って高速の氷弾を撃ち込む。
アルバは大きくのけ反ってかわし、氷弾は肩を掠めるだけに終わったけど、より大きく体勢を崩したせいで、続くワルキューレの攻撃に対する対処が難しくなった。
一体のワルキューレがランスの先から『氷獄吹雪』を放つ。
「『神聖壁』!」
アルバは光の壁を出してそれを防ぐ。
前は全身氷漬けになってた攻撃を完璧に防いだのはさすがだけど、そっちに意識を割いたなら、こっちの攻撃が通りやすくなるだけだ。
私は四つの球体アイスゴーレムを定位置へと移動。
そして、大火力技をぶっ放した。
「『氷結光最大出力』!」
極太の冷凍ビームがアルバ目掛けて直進する。
その崩れた体勢では、さぞ避けづらいだろう。
そして、アルバにワールドトレントや獣王みたいな理不尽な耐久力はない。
膨大な魔力に見合う頑強さと、主人公補正的な謎のしぶとさは持ってるけど、それだけだ。
つまり、大技が一発でも直撃すれば私の勝ち。
前みたいに相殺されたとしても、それはそれで大量の魔力を消費させられるだろうから、私の優勢になる。
これで決まるとは微塵も思ってないけど、それでもこれは有効な一手の筈だ。
「くっ! 『衝撃波』!」
「え!?」
だけど、アルバの対処能力は私の予想を超えていた。
なんと、アルバは自分に無属性魔術の衝撃波を放ち、その威力を利用して無理矢理空中に逃れ、極太冷凍ビームを避けてみせた。
標的を外した冷凍ビームが、城の壁を破壊して外に消えていく。
今のは、序列一位の人と同じ技!
まさかアルバがあの技を使ってくるとは思わなかった。
何せ、今のは結構な高等技術だ。
自分の身体を傷付けず、なおかつ的確な体勢になれるように威力や発動場所を完全にコントロールした衝撃波を放ち、更にその衝撃から瞬時に立て直せる体術スキルがいる。
私がやると、体術スキルが足りなくて空中きりもみ回転するやつだ。
レグルスでも衝撃波のコントロールが難しいからやりたくないって言ってた。
それを、アルバは一発で成功させている。
あの無理な体勢から放って成功する技じゃないんだけどな……。
ましてや、魔術師歴数ヶ月のぺーぺーにできる事じゃない。
しかも、アルバは今まであんな技を使った事はなかった。
ゲームでも現実でもだ。
って事は、下手したら外で序列一位の人の動きを見て今覚えたって可能性もあるんじゃ……。
だとしたら、何その才能お化け。
主人公恐るべしとしか言えない。
だけど、慣れない空中に飛び出したのなら、そこは私の土俵だ!
さっき氷獄吹雪を撃たなかった方のワルキューレが飛び上がり、上昇の勢いのままにランスを突き出す。
アルバはさっきよりも洗練された衝撃波移動でそれを避けたけど、その先には二体目のワルキューレ。
ランスを横薙ぎに振るい、打撃をアルバに叩きつける。
アルバはそれも剣を盾に防いだけど、空中じゃ衝撃までは殺せずに吹っ飛ばされる。
そこに躍りかかるのは三体目。
さっき、アルバの純白閃光を食らって脱落し、たった今修復が終わったワルキューレ。
それが背後からアルバを強襲した。
「なっ!? ぐっ!?」
さすがに三体目の復帰が予想外に早くて意表を突かれたのか、アルバは避け損ねて脇腹にランスの一撃を受ける。
浅い。
直前で反応して身体を捻ったせいで致命傷にはなってない。
でも、かなりの隙が出来た!
他の攻撃用ワルキューレ二体がアルバに迫る。
合計三体のワルキューレによる包囲攻撃。
容易には抜け出せまい。
その隙に、私は『絶対零度』の発動準備に入る。
氷結光みたいに避ける事は難しいタイプの大技。
クリティカルヒットすれば必勝。
相殺されても大きな消耗を強いられる。
これが最善手。
最善手、だった筈だ。
なのに……
突如、アルバがまるで光のような速度にまで加速した。
その状態で剣を前に突き出したまま突進し、ワルキューレの一体を砕く。
そのまま私に向かって超高速で接近してきた。
護衛として私の側に待機させておいたワルキューレが盾を構えて迎撃したけど、アルバはそれを容易く貫通し、ワルキューレを爆散させる。
自動防御の球体アイスゴーレムは、氷の盾を展開する暇すらない。
訳がわからない。
わからないけど、これを食らったら死ぬという事だけはわかった。
私はワルキューレが壁になってくれる事で出来た僅かな猶予を使って、思いっきり上体を後ろに逸らして突撃を避けようとした。
だけど避けきれず、アルバの剣が私の兜に当たり、砕く。
でも、兜に攻撃が当たった時の衝撃で私の身体は後ろへと倒れ、なんとか直撃を避ける事に成功した。
そして、一方のアルバは床に墜落。
突進の勢いのままに地面を抉りながら進み、最終的に城の壁を盛大に砕きながらめり込んで止まった。
「…………」
なんだったんだ今の……。
今の一瞬だけで、ワルキューレが二体もやられた。
二体ともコアを砕かれたみたいで再生する気配がない。
私自身も盛大に頭を打ち付けたせいでクラクラする。
マズイ。
頭へのダメージは魔術の精度に直結する。
「『回復』」
早急に回復魔術で頭を治しておいた。
そんな事をしている間に、アルバがめり込んだ壁から、というか瓦礫の中から出てきた。
その姿を見て、私は驚愕する。
同時に、今の超スピードのカラクリがわかって唖然とした。
アルバの背中には、ゆらゆらと不定形に揺らめく一対の光の翼が生えていた。
こ、こいつ!?
序列一位の人の技術の次は、私の氷翼をコピーしやがった!
信じがたい。
そんな簡単に真似できるような芸当じゃないのに!
さすがに、まだ完全には制御できてないみたいで、光の翼はすぐに揺らめいて消えた上に、アルバ本人も自爆ダメージで私以上の傷を負ってる。
けど、あの程度なら回復魔術ですぐに治せるだろうし、戦闘継続にそこまでの影響はない。
それよりも、今の光の翼による超加速は警戒しておかないと。
幸い、来るとわかっていれば対処できない程じゃない。
ワルキューレ二体の犠牲は痛いけど……この手札をさらさせる為の必要経費だったと思うしかないか。
とにかく、今は追撃だ。
アルバが傷を治す前にガンガン攻める。
私は残り二体のワルキューレをアルバに向けて突撃させた。
私自身の守りとして、今度は事前に球体アイスゴーレムに氷の盾を纏わせておく。
そのせいで氷結光最大出力は撃ちづらくなったけど仕方ない。
防御優先だ。
ワルキューレの一体がランスを突き出す。
「『光騎剣』!」
そのランスを、アルバは光を纏った斬撃で消し飛ばした。
足を止めての迎撃か。
なら!
「『氷柱』!」
アルバの足下から尖った氷の柱を生やす。
でも、これは前に一度見せた手だ。
意表は突けず、アルバは氷柱が生える前に横へと半歩ずれるだけで回避した。
そのまま、ワルキューレに側面から剣を振るう。
でも、そのくらいは予想済みだ!
「『氷剣山』!」
移動したアルバの足下から更に氷の柱を生やす。
一本ではなく大量に。
アルバが避ければ、避けた先の床から氷柱が生える。
それを全て避ける為に、アルバはワルキューレからドンドン遠ざかって行った。
狙い通り。
これでワルキューレを巻き込まずに魔術が使える。
ワルキューレから充分に離れたところで、私のアルバの周囲一帯の床全てから氷柱を生やした。
まさに剣山のように。
広範囲の物理攻撃。
これは避けられない筈だ。
「くっ!」
案の定、アルバは飛び上がってから足下に向けて剣を振るい、足下の氷柱を砕く事で対処した。
簡単だからこそ発動の早い氷柱相手に、私より発動速度の劣るアルバの魔術で対抗するのは難しい。
なら、こうなるのは必然。
これもまた狙い通りだ。
「『氷棘』!」
「ぐぁ!?」
アルバが迎撃できたのは、アルバの足下から生えた氷柱一本だけ。
残りの、アルバの周囲をぐるりと囲むような氷柱を壊す余裕まではなかった。
だから私は、その無数の氷柱から横に伸びる棘を生やし、それによってアルバを串刺しにする。
致命傷になるような強い攻撃じゃないけど、確実に手傷は負わせられた。
いくら強力な魔術師とはいえ、傷を負えば当然痛いし、回復するまでは動きが鈍る。
その隙を起点に、こっちは攻撃を繋げる。
回復の暇も、反撃の隙も与えない!
「『氷葬』!」
無数の氷柱を勢いよく砕き、攻撃兼目眩ましにして、ワルキューレ二体に『氷獄吹雪』を発動させた。
更に!
「『氷結光』!」
私自身も冷凍ビームを放つ。
三方向からの同時攻撃。
しかも、息をつく間もない怒涛の連続攻撃だ。
普通に対応限界ギリギリの筈。
迎撃魔術の発動が間に合うかは怪しい。
さあ、どう対処する!
「『聖十字斬り』!」
「なっ!?」
アルバが十字型の二つの斬撃を放つ。
縦の斬撃が氷結光を、横の斬撃が氷獄吹雪を切り裂いて相殺した。
そ、そんなバカな!?
こんな簡単に対処されるなんて!?
アルバの魔術発動速度じゃ、迎撃なんてできてもギリギリのタイミングになる筈なのに!
嫌な予感がした。
それも特大の嫌な予感が。
「『氷槍』!」
動揺しながらも私は追撃を繰り出す。
一瞬で高速回転する巨大な氷の槍を作り出し、アルバに向けて射出した。
アルバはそれを衝撃波移動で避ける。
だけど、その先にワルキューレの一体が回り込み、ランスによる攻撃でアルバを狙った。
しかし、アルバはワルキューレのランスをするりと剣で受け流し、返す刀でワルキューレの首をはねた。
「!?」
何度も見せた攻撃とはいえ空中で、しかも衝撃波移動した直後の崩れた体勢で、あんな綺麗な反撃!?
でも、狙った場所が悪かった。
首をはねてもワルキューレは止まらない。
首なしワルキューレはその場で身体を高速回転させ、ランスの側面をアルバに叩きつけた。
「!」
さすがにそれは予想外だったみたいで、アルバは攻撃を食らって吹き飛んだ。
でも、しっかりとガードが間に合ってる。
だけど、吹き飛ばされた先には、当然のようにもう一体のワルキューレ。
加えて、私も魔術で妨害を入れる。
「『氷狙撃弾』!」
選んだ魔術は、超高速の氷弾。
小さいからワルキューレの邪魔をしづらく、しかも威力も速度も充分にアルバを殺傷し得る有能魔術。
しかも、今回はそれを五発連続で放った。
一発は身体の中心目掛けて、残りの四発は避ければ当たるであろう位置に向けて。
アルバは吹き飛ばされてる最中に、背中側から突撃してくるワルキューレと、側面から飛んでくる氷弾五発を同時に捌かないといけない。
難易度は高い。
仕留めるのは無理でも、手傷くらいは負わせられる状況の筈だ。
なのに、嫌な予感はドンドンと膨らんでいく。
そして、その予感は現実のものとなった。
アルバはまず衝撃波移動で上へと飛び、一発目の氷弾を避けた。
次に、その途中で身体を捻って上下を逆転。
頭を地面に、足を天井に向けた天地逆転の体勢を取る。
更に、身体を捻っている最中に、私が上への逃げ場を潰すように放った二発目の氷弾を剣で弾き。
最後に、その体勢で光を纏った剣を振り抜いて、ワルキューレの肩口から脇腹までを真っ二つに切り裂いた。
胸部に埋まっていたコアも破壊され、ワルキューレがただの残骸へと変わる。
「ッ!?」
なんだ……なんなんだ!? 今の洗練された動きは!?
吹き飛ばされた体勢から、衝撃波移動を使って完全に態勢を整え、私の攻撃全てを的確に処理した挙げ句、ワルキューレまで仕留めやがった!
こんな事、今までのアルバにできる訳がない。
まさかとは思ったけど間違いない。
こいつ……!
私との戦いの中で成長してる!
戦闘開始時点に比べて、剣術も、体捌きも、魔術制御も、魔術発動速度も、桁違いにパワーアップしてるのだ。
まるで、私がシナリオを変えたせいで経験できなかった戦いの分を、ゲームと違って得られなかった分の経験値を、今この場で急速に吸い上げるかのようにアルバは強くなっていく。
人を最も成長させるのは逆境だ。
戦士を最も成長させるのは強敵との戦いだ。
足掻き、もがき、必死に勝ち筋を探そうとして強くなる。
打たれて強くなる鋼のように、人は逆境に打たれてこそ最大の成長を遂げる。
その現象がアルバに起きてるって事か?
考えてみれば、今までのアルバとの戦いは、常に私の方が圧倒的に強い状態での対戦だった。
それこそ、経験を得られる「戦い」ではなく、得るもののない「蹂躙」になってしまうくらいに。
その状態で、なんとか一矢報いようとしていたのが今までのアルバだ。
私の左眼は、互角の戦いではなく、その報いられた一矢に貫かれたものでしかない。
でも、今回の戦いは違う。
戦闘開始時はまだ私の方が強かったけど、それでも今までより遥かに互角に近い戦い。
一矢報いるだけじゃなく、ちゃんとした勝負として成立する戦い。
莫大な経験値を得られる、自分より強い敵との戦いとして成立する戦い。
アルバは元々戦いの天才だ。
ゲームにおいても決して長くはない戦闘経験で、あの皇帝を倒してみせた才能の化け物だ。
この天才ならできるって事だろう。
得た経験値をその場で力に変えるという神業が。
戦いの中で急速に進化し続けるというふざけた真似が。
本当に冗談じゃないぞ!?
「『光翼』!」
そしてほら、また進化した!
さっきは制御に失敗してた光の翼を使ってきた。
しかも、まだ完全ではないとはいえ、さっきよりも形が安定してる。
その状態で、アルバが私目掛けて超速タックルをかましてきた。
嘆いてる暇もない。
なんとか対処しなくては!
ワルキューレは残り一体。
しかも、アルバとは少し離れた位置にいるから、この攻撃への盾には使えない。
だけど、今回はこっちだって初見じゃないんだ。
来るとわかっていれば対処できる。
「『氷結光』!」
私は向かって来るアルバに向けて冷凍ビームを叩き込んだ。
同じ技を使うからこそわかる。
魔術の翼による飛行は、速度は出ても小回りが効かない。
戦闘機みたいなものだ。
この距離で突進に使うなら、絶対に曲がれない。
案の定、アルバは氷結光の中に自分から飛び込んだ。
身体の表面が凍りつき、氷結光の威力に押されて突進の速度も落ちる。
それでも当たったら痛いじゃ済まないだけの威力は残ってるけど、その攻撃は自動防御の球体アイスゴーレム、氷の盾が防いでくれた。
氷の盾は、勢いを削られたアルバの突進をしっかりと受け止める。
「『光騎剣』!」
でも、その状態でアルバは更なる攻撃を繰り出してきた。
光の斬撃が氷の盾を切り裂き、本体である球体部分も破壊する。
どこまで強くなる気だ!?
「『浮遊氷剣』!」
私は剣型アイスゴーレムを使い、剣を振り抜いた態勢のアルバを斬ろうとした。
アルバは後ろに下がってそれを回避する。
そこへ最後のワルキューレが飛びかかり、私の魔術と連携して必死の交戦を試みる。
だけど、内心で理解してしまった。
これは時間稼ぎの延命にしかならないと。
敗北を先送りにしてるだけだと。
だって、アルバは一秒ごとに強くなっていくのだから。
現時点で劣勢に近い拮抗じゃ、破られるのは時間の問題だ。
そして、
「『破突光剣』!」
アルバの剣が、最後のワルキューレの胸を貫いた。
ワルキューレが頼れる戦力から無力な残骸へと変わる。
ああ、これは終わったかもしれない。
だけど、最後まで諦めない。
勝ち目はまだ残ってる。
諦める訳にはいかない。
私はアルバに両手を向け、魔術を放つ。
最後の抵抗を試みる。
それを見てアルバは悲しげな顔を浮かべ、すぐにそれを振り払って剣を振るった。
アルバの剣が私の魔術を切り裂く。
そして、距離を詰めてくる。
絶体絶命の窮地。
その時━━
「『闇鬼剣』!」
城の壁と床を真っ二つに切り裂きながら、アルバに向かって巨大な闇の斬撃が飛んできた。
まるで私を守るように放たれた攻撃。
それを避ける為に、アルバは一旦引いて私との距離を取る。
その隙に、一人の青年が私とアルバの間に割って入った。
「城から大魔術が放たれたのを見て、まさかと思って来てみれば……どうやら来て正解だったようだな」
黒い剣を油断なく構えながら、その人は重々しい口調でそう語る。
その背中からは、凄まじい帝王のオーラが迸っていた。
凄まじく頼り甲斐のある背中だった。
それこそ、ワルキューレとは比べ物にならないくらいに。
この人は、ゲームにおけるアルバの本来の宿敵。
主人公と血の繋がりを持ち、数々の因縁を持ち、最後にこの場所で雌雄を決する筈だった本来の配役。
この暗黒の国の正当後継者。
その名は━━
「ノクス様!」
ノクス・フォン・ブラックダイヤ。
ブラックダイヤ帝国第一皇子にして、私の過保護な上司でもある最強の味方が、絶体絶命の窮地に駆けつけてくれた。