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65 獣達の都

「見えてきました」

「いつも通り早ぇなぁ」

「相変わらず便利ですね、あなたの魔術は」


 鳥型アイスゴーレムを飛ばす事、約10時間ちょい。

 私達はようやく、ガルシア獣王国の首都が見える場所へと辿り着いた。

 遠目から見た首都を一言で言うなら、魔境だ。

 街自体は普通に大きくて、帝国より少し時代遅れな感じの普通の街並みに見える。

 ただし、よく見ると多くの建造物がヒビ割れてたり傾いてたりして老朽化しており、中には雑草に飲み込まれた廃墟とかもある始末。

 街の中心にある城はさすがに立派だけど、それもなんというか、良く言えば質実剛健、悪く言えば見た目に頓着してない。

 なんか設計は歪だし、塗料は剥げてるし。

 普通に要塞として使う分には強いんだろうけど、お城って感じの雅なイメージは全くしない。

 今日は天気が悪くて空に分厚い黒い雲がかかってるのも合わさり、なんとも魔境としか言えない雰囲気だ。

 帝国の魔王城ともまた違う嫌な感じがする。


 そんな事を思ってる内に、街の上空に到着だ。


「とりあえず、予定通りにいきます」

「頼みましたよ」


 プルートの言葉に軽く頷き、私は現在乗ってる超大型の鳥型アイスゴーレムの一部のハッチを開けた。

 鳥型アイスゴーレムを旋回させながら、作り置きしておいた大量の超小型アイスゴーレムを街の上空にばらまく。

 ラッキーな事に今は小雨が降ってるから、それに紛れてそんなに目立たないだろう。


 これの目的は、言うまでもなく敵情視察だ。

 探れる手段があるのに、罠があると確信してる場所の調査を怠るバカはいない。

 そうして、それから一時間くらい上空で旋回しながら調査した結果は……うん、予想通りかな。


「どうだ?」

「城の中から多数の魔力反応を確認しました。この人間と魔獣が混ざったみたいな気持ち悪い魔力は魔獣兵ですね。数は……現在把握できるだけでも200を越えています。もっとも、一体一体は大した魔力を纏っていませんが」


 それにしても、どこにこんな余裕があったのやら。

 もしかしたら、失敗作を処分せずに集めてたとか?

 命令を聞く頭がないという魔獣兵の失敗作でも無差別に暴れさせるくらいならできるかもしれないし、それなら自分達のフィールドでしか使えない戦力と言えなくもない。

 これが罠かな?


「今の段階で調査できるのはこのくらいです。この程度なら戦力が十倍に増えても対処可能と判断します。隠し球がなければの話ですが」

「そうですか。では、そろそろ乗り込むとしましょう」

「派手にやれい!」

「了解」


 という訳で、鳥型アイスゴーレムの高度を下げて突撃!

 それを見て魔獣だと思われたのか、城からいくつかの魔術が飛んでくる。

 そこそこ強いけど、せいぜい一級騎士レベルかな。

 六鬼将のレベルには到底及ばない。


 私は鳥型アイスゴーレムの口から氷獄吹雪(ブリザードストーム)を発射させ、全ての魔術を薙ぎ払った。

 ついでに、そのまま吹雪は城に直撃し、今の魔術を放った人達ごと城の一部を凍りつかせる。

 城の壁越しだし、魔術を相殺して威力落ちてたし、多分死んではいないと思う。

 氷結封印状態にはなったかもしれないけど、それは熱々のお風呂にでも入れれば復活するから問題ないでしょう。


 それを無視し、私は鳥型アイスゴーレムを着地させた。

 城の尖塔の上を鳥の爪で鷲掴みにして。

 下から「敵襲だぁ!」って声が聞こえてくるけど、気にしない。

 敗戦国に乗り込む時には、こっちが上の立場なんだぞってわからせる必要があるらしいので、これくらいのインパクトは必要なのだ(レグルス談)。


 そして、私は鳥型アイスゴーレムのハッチを開け、そこから城の中庭っぽい場所目掛けて飛び降りた。

 私の後からレグルスとプルートが、その更に後から連れて来た騎士達が続く。

 結構な高さがあるけど、身体強化を纏う魔術師には関係ない。


「何者だ貴様らぁ!」


 そして、まあ、当然の如く、飛び降りた先で向こうの兵士に囲まれ、誰何された。

 全員が武器をこっちに向けて警戒態勢だ。

 ただし、この人達からは魔力を感じない。

 魔獣兵でもないし、魔導兵器(マギア)も持ってない。

 つまり、魔術師の敵ではない。


 それでも、別に今の段階で蹴散らそうとして来た訳じゃないんだから、とりあえず対話だ。


「私達はブラックダイヤ帝国騎士団です。あなた達の降伏宣言を受理する使者としてやって来ました。そちらのトップと会わせなさい」

「何ぃ!」


 私がそう告げた瞬間、兵士達の顔が苦々しく歪んだ。

 ああ、一応降伏宣言の話は下にまで周知されてるんだね。

 獣王国は本当に屈辱を飲んだのか。

 これなら降伏宣言が罠じゃないって期待できるかも。

 0.1%くらいは。


「…………わかった。しばしここで待て。王太子殿下にお伝えする」


 王じゃなくて王太子。

 まあ、ここの王様は私達が討ち取っちゃったから、普通に考えればそうなるか。

 帝国で言うなら、皇帝が死んでノクスが対応するような話だ。

 何、その夢の未来図。

 そうなればいいのに。


「おいおい、なんだその態度は? お前らは敗戦国だろうが! 敬語使え、敬語!」


 しかし、私とは違うツッコミどころを見逃さない男がこっちにはいた。

 レグルスだ。

 まるで不良のように向こうの兵士を煽る。

 まあ、これも交渉テクニックの一つらしいけど。


「ぐっ! し、しばしここにて、お、お待ちください……! ……クソッ、調子に乗りやがって」


 おい最後。

 小声だったけど、ちゃんと聞こえてたぞ。

 レグルスが高圧的なのを差し引いても態度が悪い。

 やっぱり罠か。


「セレナ」

「わかってます」


 プルートに言われるまでもなく、私は超小型アイスゴーレムを城のあちこちへと動かし、リアルタイムでの情報を探る。

 ドタバタと慌ただしいな。

 とりあえず、さっきの口の悪い兵士さんは、城の上の階に向かって行ったっぽい。

 程なくして、それなりの魔力反応を持ってる奴の所に兵士さんは辿り着いた。

 あれが王太子かな?


 続いて、王太子が何か命令を下したのか、その部屋に居た人間が一斉に動き出す。

 その命令された人達が更に下の人に命令したみたいで、城内は動いてない人がほぼいないくらいの喧騒に包まれた。

 アイスゴーレムがなくてもわかるくらい、城内から騒がしい音がする。


 そして、特筆すべき動きが二つ。

 一つは、城の中にいた魔力反応の持ち主が一斉に王太子の居る部屋の近くへと移動し始めた。

 護衛という可能性もあるけど、多分違う。


 二つ目は、城の地下へと向かう人の数がやたらと多い。

 その人達が出入りする場所から超小型アイスゴーレムを地下に向かわせてみれば、かなりの数の気持ち悪い魔力反応が。

 それがドンドン地下から運び出されて、王太子の部屋の近くへと輸送されてる。

 地下牢的な場所から失敗作の魔獣兵を運び出して補充してるのかな?

 なんにせよ、さっき調査した時より遥かに魔獣兵の数が増えた。

 超小型アイスゴーレムの探知範囲は狭いから、地下とかに隠されるとわからなかったりするんだよなぁ。


「事前調査との差異を確認しました。どうやら向こうにはまだまだ魔獣兵の在庫があったようです。現在の数、約400。しかも、まだ増えています」

「……そうですか」

「ま、その程度じゃ俺らの敵じゃねぇだろ」

「楽観的な思考はやめなさいレグルス。セレナ、調査を続行してください」

「了解」


 超小型アイスゴーレム達を、魔獣兵が運び出されてる区画より更に深くへと潜らせる。

 もしかしたら、そこに更なる在庫か、もしくは奥の手的な何かがあるかもしれないから。

 でも、その先にあったのは、私の予想とは違うものだった。

 予想を超えるものだった。


「これは……!?」


 思わず小声で呟いてしまった。

 そこにあったのは、いくつもの気持ち悪い魔力反応。

 魔獣兵じゃない。

 あれも相当気持ち悪かったけど、今超小型アイスゴーレムが感知してるのはそれ以上だ。


 その魔力反応からは、━━生き物の気配がしない。


 この魔力反応を感知してるのは、無属性魔術の一つ『探索魔術』だ。

 これを熟練させる事によって、探索魔術は『魔力感知』という一つ上のステージへと至る。

 ただし、元となった探索魔術は()()()()()()()()()()()()

 故に、魔導兵器(マギア)なんかの無機物に込められた魔力は普通感知できない。

 私クラスが使う化け物精度の魔術でも、相当集中しないとわからない。


 でも、今感知してるこれは違う。

 生き物じゃないのに、特に集中してる訳じゃないのに、当たり前のように私の魔力感知に引っ掛かる。

 異物、異質、異形。

 感覚器官がバグったみたいで滅茶苦茶気持ち悪い。

 もしかしてこれが……『魔獣因子』?


「うぇ……」


 私は気持ち悪さを我慢しながら調査を続行した。

 これが本当に魔獣因子なら、向こうの切り札だ。

 調査しない訳にはいかない。

 そうして頑張った結果……私は絶句した。


 魔獣因子と思われる反応は無数にある。

 それこそ、百や二百じゃ利かない数が。

 その内の殆どは大した事ない。

 強いのでも一級騎士クラス、弱いのに至っては量産型魔導兵器(マギア)よりはマシって程度だ。


 でも、その中のほんの一握り。

 数にして十にも満たない反応。

 それだけは別格だった。


 何これ……一つ一つが六鬼将クラスか、あるいはそれ以上とかなんの冗談?

 伝説の魔獣の因子とか、そういうのだろうか?

 ていうか、こんな強すぎる魔力を注入なんてしたら、いくら生命力が強い魔術師でも確実に死ぬでしょ。

 拒絶反応以前の問題だよ。

 六鬼将クラスの生命力があってもギリギリなんじゃないかな?


 そんな人材が獣王国に残ってるとは考えづらい。

 今感知してる魔獣兵の中にそんな化け物はいないし、そもそもそんなのがいたなら、なんで獣王と一緒に戦場に出てこなかったんだって話になる。

 でも、万が一、万が一、そういう化け物が向こうに複数いたなら……


「レグルスさん、プルートさん。とんでもない物が見つかりました。魔獣因子らしき魔力反応、それも獣王クラスの物が複数です。万が一、向こうにこの因子の適合者が複数いた場合、撤退も視野に入れるべきかと」

「マジか!?」

「……なるほど。肝に命じておきましょう」


 レグルスは驚愕し、プルートは神妙な顔で騎士達に新しい命令を下しに行った。

 私も気を引き締める。

 まったく、詰みだと思ってたらとんでもない事になったもんだよ。

 あったじゃん隠し球。

 フラグって怖い。


「待たせ、んんッ! お、お待たせしました。王太子殿下がお会いになられます」


 そうやって戦慄してる内に、口の悪い兵士さんが戻って来た。

 城内にあった魔力反応も王太子付近に集結してるし、向こうの準備は整ったって事か。

 さて、鬼が出るか蛇が出るか。

 それとも何も出ないのか。

 わからないけど、気をつけて頑張るとしよう。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 超小型のアイスゴーレムの同時大量運用は、何気に初めてでは? 超大型の鳥アイスゴーレムは、心の中でこっそりと「オスプレイタン」って呼んでいますw この2つを同時に使う作戦行動も初めてですよね…
[一言] あれかな?数分しか戦えないみたいな
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