表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

69/114

51 勇者復活

「……やっぱり、こうなった」


 うん、わかってた。

 なんとなく、こうなるんじゃないかとは思ってた。

 今、私の目の前には、凶悪な敵に追い詰められて絶体絶命のヒロインを、実にタイミングよく颯爽と救い出した主人公がいる。

 そして、腕の中のお姫様は頬を染めていらっしゃいます。

 うん、王道だよね。

 お約束だよね。

 それでこそ勇者だよね。


 ふざけんな。

 爆ぜろリア充。

 砕けろ運命。


 なんなんだ。

 本当になんなんだ、この主人公。

 どれだけ殺そうとしても一向に死なない。

 ブライアンを殺して出鼻を挫き、ノクスの力を借りて致死の罠にかけ、弱ったところを六鬼将三人でトドメを刺しに来た。

 普通にオーバーキルな筈だ。

 なのに、まだ死なない。

 それどころか、死にかけのヒロインまで救ってみせる始末。

 おまけに、革命軍の残りの主要戦力全員がタイミングよく集結するとか。

 ふざけてる。

 ふざけてるよ。

 運命に愛されてるとしか思えない。

 主人公補正か?

 主人公補正なのか?


 しかも、


「お久しぶりですね、反乱軍の勇者さん。戦う覚悟は出来ましたか?」


 皮肉を込めてそう言ってやれば、アルバは残った左目に強い意志を込めて見詰め返してくる。

 前回の戦いで片眼を失ったというのに、眼光はむしろ強くなってる。

 前の甘ちゃんとは比べ物にならない。

 直感的にそう感じた。


「……覚悟か。どうだろうな。お前と違って、そんな高尚なものはまだ決まってない気がするよ」


 しかし、アルバの口から出てきたのは予想外に弱気な言葉。

 だが、言葉と裏腹に声は力強く、眼光の鋭さも変わらない。


「でもな、こんな状況になって一つだけわかった事がある」


 アルバは語り続ける。


「俺は、仲間が死ぬのが怖い。ルルがこんなに傷ついてるのを見て血の気が引いた」


 ルルを抱いたアルバの左腕に力がこもる。

 ルルの頬が真っ赤になった。

 突然のラブコメ……。


「だから俺は、━━仲間を守る為に戦う。それが今の俺にできる、精一杯の覚悟だ」

「……そうですか」


 ああ、そっか。

 アルバは、見知らぬ誰かの為じゃなく、まずは身近な仲間の為に戦う事を選んだのか。

 私と同じ。

 だけど、きっと私とは全然違うんだろう。


 私は、極論ルナさえ幸せなら他の全てを切り捨てられる。

 でも、アルバは勇者だ。

 大事な人の為に戦いつつ、それ以外のものもできる限り切り捨てずに抱え込む。

 戦う意志さえあれば、前に進む意志さえなくさなければ、そんな理想論みたいな事がきっとできる。

 だから彼は主人公なのだ。

 だから彼は運命に愛されているのだ。

 今のアルバなら、ゲームのラストと同じように、王になれるだけの器があるのだろう。


 だけど、


「では、━━その覚悟に殉じて死になさい」


 私は六本の氷剣を抜き、四つの球体アイスゴーレムを浮遊させ、臨戦態勢を取った。

 ……もし、ルナの呪いが解けたなら、私が帝国に従う理由がなくなったなら。

 もしかしたら、アルバの王道を応援する事もできたのかもしれない。

 でも、それは無理だ。

 呪いの解除方法は何をどうやっても見つからなかった。

 私の力ではこれ以上の手段を探る事はできない。

 それこそ、闇魔術のエキスパートにでも話を聞かない限りは。

 私の知る中で、それに該当する人物は皇帝とノクスだけ。

 皇帝は論外として、ノクスに頼る事もできない。

 彼はとても良い上司だけど、帝国第一皇子であり、次期皇帝。

 現皇帝を裏切ってまで、私に協力してはくれないだろう。


 私は皇帝と帝国を裏切れず、アルバはそんな帝国と戦う覚悟を決めた。

 だからこそ、私とアルバは戦うしかない。

 お互いの大切なものの為に、戦い、傷つけ合い、殺し合うしか道はない。


 私が臨戦態勢に入ると同時、止まっていた時が動き出した。


「ミスト! 私がこいつらを足止めする! その隙にアルバ達を連れて……」

「させると思うか!」

「あなた達はここで殲滅します。これは確定事項です」

「くっ!?」


 バックは冷静な判断でアルバを逃がそうとしたけど、レグルスとプルートに阻まれた。

 そのまま、キリカ達を巻き込んで、二対四の戦いになる。

 どっちも、しばらくはこっちに来ないだろう。

 負傷したルルを戦力外と考えれば、計らずもアルバと私の一騎討ちだ。


「『氷結光(フリージングブラスト)』!」


 先制攻撃に冷凍ビームを放つ。

 アルバはそれを避け、ルルをそっと地面に降ろし、その前で仁王立ちした。

 これでは、アルバが私の攻撃を避ければ、その全てがルルに当たる。

 それでも尚、ルルを守りながら戦う気か。

 舐めてる、とは思わない。

 これがアルバだ。

 これが勇者だ。


「『栄光の手ハンド・オブ・グローリー』」


 そしてアルバは、失った右腕の代わりに光の義手を作り出し、その腕に同じく光の剣を作り出して握り締める。

 その光の義手は、まるで炎のように、それが革命の灯火であるかのように、ユラユラと不規則に揺らめいていた。

 その灯火を、


「今日こそ吹き消す」


 そうして、私とアルバの二度目の死闘が幕を開けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 栄光の手…死罪となった犯罪者の手の死蝋…恐ろしや、勇者よ
[一言] おめでとう、わかめは、もやしに、進化した! アルバ君の光魔法セレナの氷魔法で曲げれないかな?
[良い点] うーん…主人公補正ェ [一言] リビングアーマー先輩は貸し出しに何DPかかりますか?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ