51 勇者復活
「……やっぱり、こうなった」
うん、わかってた。
なんとなく、こうなるんじゃないかとは思ってた。
今、私の目の前には、凶悪な敵に追い詰められて絶体絶命のヒロインを、実にタイミングよく颯爽と救い出した主人公がいる。
そして、腕の中のお姫様は頬を染めていらっしゃいます。
うん、王道だよね。
お約束だよね。
それでこそ勇者だよね。
ふざけんな。
爆ぜろリア充。
砕けろ運命。
なんなんだ。
本当になんなんだ、この主人公。
どれだけ殺そうとしても一向に死なない。
ブライアンを殺して出鼻を挫き、ノクスの力を借りて致死の罠にかけ、弱ったところを六鬼将三人でトドメを刺しに来た。
普通にオーバーキルな筈だ。
なのに、まだ死なない。
それどころか、死にかけのヒロインまで救ってみせる始末。
おまけに、革命軍の残りの主要戦力全員がタイミングよく集結するとか。
ふざけてる。
ふざけてるよ。
運命に愛されてるとしか思えない。
主人公補正か?
主人公補正なのか?
しかも、
「お久しぶりですね、反乱軍の勇者さん。戦う覚悟は出来ましたか?」
皮肉を込めてそう言ってやれば、アルバは残った左目に強い意志を込めて見詰め返してくる。
前回の戦いで片眼を失ったというのに、眼光はむしろ強くなってる。
前の甘ちゃんとは比べ物にならない。
直感的にそう感じた。
「……覚悟か。どうだろうな。お前と違って、そんな高尚なものはまだ決まってない気がするよ」
しかし、アルバの口から出てきたのは予想外に弱気な言葉。
だが、言葉と裏腹に声は力強く、眼光の鋭さも変わらない。
「でもな、こんな状況になって一つだけわかった事がある」
アルバは語り続ける。
「俺は、仲間が死ぬのが怖い。ルルがこんなに傷ついてるのを見て血の気が引いた」
ルルを抱いたアルバの左腕に力がこもる。
ルルの頬が真っ赤になった。
突然のラブコメ……。
「だから俺は、━━仲間を守る為に戦う。それが今の俺にできる、精一杯の覚悟だ」
「……そうですか」
ああ、そっか。
アルバは、見知らぬ誰かの為じゃなく、まずは身近な仲間の為に戦う事を選んだのか。
私と同じ。
だけど、きっと私とは全然違うんだろう。
私は、極論ルナさえ幸せなら他の全てを切り捨てられる。
でも、アルバは勇者だ。
大事な人の為に戦いつつ、それ以外のものもできる限り切り捨てずに抱え込む。
戦う意志さえあれば、前に進む意志さえなくさなければ、そんな理想論みたいな事がきっとできる。
だから彼は主人公なのだ。
だから彼は運命に愛されているのだ。
今のアルバなら、ゲームのラストと同じように、王になれるだけの器があるのだろう。
だけど、
「では、━━その覚悟に殉じて死になさい」
私は六本の氷剣を抜き、四つの球体アイスゴーレムを浮遊させ、臨戦態勢を取った。
……もし、ルナの呪いが解けたなら、私が帝国に従う理由がなくなったなら。
もしかしたら、アルバの王道を応援する事もできたのかもしれない。
でも、それは無理だ。
呪いの解除方法は何をどうやっても見つからなかった。
私の力ではこれ以上の手段を探る事はできない。
それこそ、闇魔術のエキスパートにでも話を聞かない限りは。
私の知る中で、それに該当する人物は皇帝とノクスだけ。
皇帝は論外として、ノクスに頼る事もできない。
彼はとても良い上司だけど、帝国第一皇子であり、次期皇帝。
現皇帝を裏切ってまで、私に協力してはくれないだろう。
私は皇帝と帝国を裏切れず、アルバはそんな帝国と戦う覚悟を決めた。
だからこそ、私とアルバは戦うしかない。
お互いの大切なものの為に、戦い、傷つけ合い、殺し合うしか道はない。
私が臨戦態勢に入ると同時、止まっていた時が動き出した。
「ミスト! 私がこいつらを足止めする! その隙にアルバ達を連れて……」
「させると思うか!」
「あなた達はここで殲滅します。これは確定事項です」
「くっ!?」
バックは冷静な判断でアルバを逃がそうとしたけど、レグルスとプルートに阻まれた。
そのまま、キリカ達を巻き込んで、二対四の戦いになる。
どっちも、しばらくはこっちに来ないだろう。
負傷したルルを戦力外と考えれば、計らずもアルバと私の一騎討ちだ。
「『氷結光』!」
先制攻撃に冷凍ビームを放つ。
アルバはそれを避け、ルルをそっと地面に降ろし、その前で仁王立ちした。
これでは、アルバが私の攻撃を避ければ、その全てがルルに当たる。
それでも尚、ルルを守りながら戦う気か。
舐めてる、とは思わない。
これがアルバだ。
これが勇者だ。
「『栄光の手』」
そしてアルバは、失った右腕の代わりに光の義手を作り出し、その腕に同じく光の剣を作り出して握り締める。
その光の義手は、まるで炎のように、それが革命の灯火であるかのように、ユラユラと不規則に揺らめいていた。
その灯火を、
「今日こそ吹き消す」
そうして、私とアルバの二度目の死闘が幕を開けた。