49 久しぶりの集結
街中でアルバ達とエンカウントしてから約一ヶ月が過ぎた。
そこまで待って、ようやくアルバ達は革命軍の拠点まで辿り着いたらしい。
発信器からの信号が完全に一ヶ所に留まって動かなくなった。
念の為に、私自身が鳥型アイスゴーレムに乗って現地までこっそりと調査に行ったところ、前に見た革命軍の拠点と似た場所を発見したので間違いない。
その拠点があった地点は若干予想外というか、逆に予想通りというか、そんな複雑な場所だったけど。
そして、この一ヶ月で襲撃の準備は完全に整っている。
実に充実した一ヶ月だった。
追跡と襲撃準備という建前のおかげで、出勤は三日に一度という素晴らしい勤務形態。
そして、出勤してない時間はずっと家族と居られるという幸せ。
いっそ、アルバ達が遭難して、この時間が永遠に続かないかなーと何度思った事か。
でも、そんな至福の一時も終わりだ。
そして、家族との時間を大事にする余り、若干仕事に支障をきたしたものの、概ね問題なく諸々の準備も終わっている。
最終的に完成した不完全版ワルキューレの数は10体。
これだけいれば充分でしょう。
たとえ裏切り爺が出てきたとしても戦える戦力だ。
まあ、裏切り爺と回復したアルバと革命軍が連携とかしたら蹴散らされそうだけど。
それでも大丈夫だ、問題ない。
何故なら、革命軍にカチコミをかけるのは私だけではないのだから。
「おう、来たかセレナ!」
「久しぶりですね。健勝なようで何よりです」
秘密裏に出発する襲撃部隊の集合場所に着いた時、見覚えのある二人が私に声をかけてきた。
真紅の鎧を身に付けた鎧姿体育会系の不良っぽい奴と、これぞ魔術師みたいな装備を着込んだインテリっぽい眼鏡。
六鬼将序列五位『極炎将』レグルス・ルビーライト
六鬼将序列六位『魔水将』プルート・サファイア
今となっては私の方が序列も戦闘力も上だけど、それでも頼れる先輩である事に変わりはない二人だ。
この二人の実力は大いに信頼している。
多分、不完全版ワルキューレ程度なら単独で余裕勝ちできるだろう。
今回の作戦において、まさに頼れる助っ人であった。
「お久しぶりです、レグルスさん、プルートさん。今回はご協力ありがとうございます」
「気にすんな! 仕事だからな!」
「レグルスの言う通りですね。それに今回の任務の重要性を考えれば僕達が集められたのは必然。礼には及びません」
うん。
いつも通り、身内には優しい二人だ。
変わってなくて安心した。
「さて、セレナが来た事で今回の参加メンバーは揃いましたね。早速、作戦の最終確認を行いましょう」
プルートが周囲を見回しながらそう言った。
ここに集まったのは、私、レグルス、プルートの他に、それぞれの直属部隊が数名だ。
合計で20人もいない。
今回は襲撃場所が場所なので、こうして少数精鋭で挑む事になった。
大人数を引き連れて攻め込める場所じゃないからね。
戦略的にも政治的にも。
「では、私から説明します。今回の襲撃対象はエメラルド領の領都付近にて発見された反乱軍の拠点。
反乱軍の主要戦力と思われる人物がそこへ逃げ込んだのが確認されています。
そして、これが最重要事項ですが。あの領地を治めるエメラルド家は旧第二皇子派の筆頭。
現状、反乱軍を裏で操っている黒幕疑惑が最も深い相手です。
よって、今回の襲撃中、エメラルド家の手の者と交戦する可能性がそれなり以上にあります。
場合によってはエメラルド家の当主、六鬼将序列二位『賢人将』プロキオン様が出てくる可能性すらあるでしょう。
各自、心してかかってください」
『ハッ!』
「おう!」
「ええ、わかっていますよ」
私の説明に、皆が油断なんて欠片もしてない感じの返事を返した。
そりゃそうだ。
油断なんてできる訳ない。
いつもは所詮平民の集まりと革命軍を見下してる連中ですら、今回ばかりは気を張り詰めてる。
何せ、今回攻める革命軍の拠点は、裏切り爺の領地にあるのだから。
しかも、領地の中核である領都の近辺。
つまり、裏切り爺の住んでる屋敷のすぐ近くにあるという事。
これはもう限りなく黒でしょう。
絶対に見つかっちゃいけないタイプの場所だ。
見つけちゃったけど。
でも、見つけたからと言って簡単に攻められる場所じゃない。
いくらこっちに第一皇子ノクスの権力があるとはいえ、相手はエメラルド公爵家。
皇族に次ぐ強大な権力の持ち主。
ノクスの権限で無理矢理捜査はできないし。
バカ正直に「お宅の近くで反乱軍の拠点見つけたので潰させてください」って会議とかで言っても「んなもん自分達でできるわボケェ!」って感じで煙に巻かれるのが落ちだろう。
だからこその、少数精鋭による極秘の奇襲作戦。
言うなれば、私達は令状なしでガサ入れしようとしてる刑事みたいなもんだ。
後で問題にされたらかなりマズイ。
ただし、証拠が出てくればこっちのもんよ。
とんだダーティプレイである。
まあ、戦争は汚くてなんぼだ。
勝った奴が正義!
これが常識。
でも、当然一筋縄で行く訳がない。
この作戦を敢行した場合、予測できる敵方の反応は二つ。
一つは、革命軍をトカゲの尻尾のように切り捨ててエメラルド家の関与を否定する事。
かなり苦しい言い訳になりそうだけど、決定的な証拠さえ残さなければ、権力に任せて揉み消す事は不可能じゃない。
まあ、立場はそれ相応に下がるだろうけどね。
この場合、革命軍を壊滅させた上にエメラルド家の力も削げるので、そこそこの成功と言えると思う。
弱りながらも裏切り爺が帝国内部に残っちゃうから、あくまでもそこそこ止まりだけど。
そしてもう一つの反応が、革命軍を庇っての徹底抗戦。
可能性としては低い、筈。
だって、これをやってしまえばもう言い逃れできない。
エメラルド家は反逆者となり、帝国の全戦力を持って狩られる事になるだろう。
なので、敵がそういう行動に出た場合、作戦としては大成功という事になる。
ただし、この場合、任務の危険性が跳ね上がる。
何せ、革命軍+エメラルド家の抱える魔術師達を敵に回す事になるのだから。
辺境騎士団こと、エメラルド公爵騎士団全てと敵対する可能性すらある。
それだけなら六鬼将三人でなんとか迎撃できるだろうけど、そこに裏切り爺が加わったらまず勝てない。
少なくとも、こんな少人数じゃ無理だ。
その場合は、撤退して正式に軍を編成する事になる。
撤退時に戦死者が出かねない危険な任務だ。
まあ、それはあくまでも最悪の可能性の話だけどね。
実際はトカゲの尻尾切りの方が可能性として遥かに高いし、万が一徹底抗戦を選んだとしても、こっちは奇襲するんだ。
向こうの迎撃態勢が完璧な訳がない。
騎士団全てを動かす時間もなければ、裏切り爺が帰って来る暇があるかも怪しい。
でも、最悪に至る可能性は0じゃない。
だから皆、緊張してる。
その後、現在判明してる限りの内部構造の地図を見ながら作戦の確認を行い、遂に出発の時間と相成った。
「では、これより作戦を開始します。『氷人形創造』」
私は中身が空洞で搭乗スペースになってる、プライベートジェットくらいのサイズの鳥型アイスゴーレムを作り、それに全員乗せて目的地まで直行する。
この世界には巨大な鳥の魔獣とかいるので、これが案外目立たないのだ。
しかも結構な速度が出るので、目的地まで二、三時間で着くだろう。
「おお! 高ぇ高ぇ! いやー、マジで便利だな、お前の魔術」
「一部隊に一人欲しいくらいですね」
そうだね。
本当に、氷魔術が便利過ぎて怖いよ。
ていうか、レグルスもプルートも若干目が輝いてる気がする。
高い所が好きなのかな?
よく見れば、他のメンバーも何人かは興味深そうに氷の窓の外を見てるし、何人かは気持ち悪そうに口元に手を当ててる。
吐かないでよ?
そうして、慣れない空の上で若干テンションの変わった何名かを気にかけつつ、作戦は始まった。