46 お説教と白猫
アルバ達と別れた後、私は駆け足で私の城へと戻った。
危険人物が街中に侵入してる以上、一刻も早くルナの側に戻りたい。
いざとなればメイドスリーと護衛アイスゴーレム軍団、それと完成体ワルキューレ数十体がなんとか守ってくれるとは思うけど、それでも念には念をだ。
ルナの事なら注意しすぎって事はない。
今回アルバ達にエンカウントしたのだって、注意が不足した結果だし。
まさかルナが勝手にいなくなるとは思わなかった。
帰ったらその理由も聞き出してお説教だね。
そうして帰還した城内では、既にお説教を開始してるメイドスリーと、猫を抱えながら涙目で正座するルナの姿があった。
今回ばかりは、ガミガミお化けと称されるトロワだけじゃなく、普段はルナの味方に近いアンも、宥め役のドゥも一緒になって叱ってくれてるっぽい。
三人がかりで泣かされてるルナを見たら反射的に助けたくなったけど、ここは心を鬼にして私も叱らなければ。
私は意を決して部屋の中に足を踏み入れた。
「た、ただいまー……」
「おねえさま!」
すると、私に気づいたルナが救いを求めたのか、抱えていた猫を床に置いて、一直線に私目掛けてダッシュして抱き着いてきた。
そのまま嗚咽を漏らしながら私の胸で泣き始める。
うっ!
こんなのを見せられては叱ろうという決意が揺らぐ!
だが、耐えろ私。
子育てにおいて、甘やかしすぎてはいかんのだ。
ほら、見ろ。
メイドスリーも「わかってますよね?」的な目で私を見てるぞ。
あの三人だって心を鬼にして頑張ったんだ。
私だけ逃げる訳にはいかない。
「えーと、ルナ……とりあえず、なんで怒られてるのかはわかってるよね?」
「は、はい! か、かってにいなくなってごめんなさい! やくそくやぶってごめんなさい! ごめんなさい!」
めっちゃ嗚咽混じりの声で必死に謝るルナ。
どうやらメイドスリーに相当絞られたらしい。
というか、あれ?
これもう私がこれ以上叱る必要なくね?
だって充分過ぎるくらい反省してるし。
叱るという行為は反省させる為に行うものであり、既に反省してる人間に対してするべきなのは別の事なんじゃなかろうか。
よし。
叱るんじゃなくて、諭そう。
厳しくするだけが躾じゃない。
私はぐずるルナをそっと抱きしめ、背中をトントンと叩きながら、できるだけ優しい声で言った。
「ルナ、お外は楽しかった?」
「え? は、はい……」
「そっか。それは良かった。
でもね、行く前にも言ったけど、お外はあの部屋の奥と同じで、怖い人達も怖い怪獣もいっぱいいるんだよ。
そんな所でルナを一人にしたら、私達はすっごく心配になる。
悪い人に捕まってないかとか、怖い目に合ってないかとか考えて、すっごく心配になるの。
だから、私達の為にも、こういう危ない事はもうしちゃダメだよ。
わかった?」
「はい……」
「よし。いい子」
よしよしと頭を撫でる。
そうしながら、私はメイドスリーにアイコンタクトで「ごめん」と伝えた。
三人が心を鬼にしてくれたというのに、結局私は優しくしてしまった。
嫌な役割押し付けてホントごめん。
今度、何か埋め合わせするよ。
その思いが伝わったらしく、三人はやれやれといった感じで肩を竦めていた。
そんな三人の足下で、白い毛玉があくびする。
どことなくふてぶてしい雰囲気のする白猫だ。
某恩返し映画に出てくるデブ猫を思い出すなぁ。
結局なんなんだろう、この猫は。
私が不思議な気持ちで見詰めていると、白猫は何を思ったのか私の方に歩いてきて、私の身体をよじ登り、肩の上に座った。
そのまま、肉球でペタペタとルナの頭に触れる。
ひょっとして撫でてるつもりなんだろうか?
「しろまるぅ……!」
「しろまる?」
ルナが白猫の事をそんな名前で呼んだ。
いつの間に名前を付けたのやら。
というか、この安直過ぎるネーミングセンスは姉様を思い出すなー。
和む。
「セレナ様~」
「ん?」
和みつつもそんな猫の事が気になっていると、気遣いのできる女ドゥがスッと近づいてきて、私の耳元でコショコショとこの猫の事を教えてくれた。
「どうやら~、ルナ様はこの猫が気になって私達から離れちゃったみたいなんですよ~。本とかでしか知らなかった猫を初めて直に見て興奮しちゃったらしくて~」
「あー……」
好奇心が刺激されちゃったのか。
私も前世でのら猫とか見たら「おいでおいで~!」と言わずにはいられない猫派だったし気持ちはわかる。
で、ルナは私達から離れてまでこの猫を追いかけて捕まえたと。
「この猫どうしましょうか~?」
「そうだねー……」
まあ、それはルナ次第かな。
「ルナ、この猫ちゃんどうしたい?」
「しろまるはおともだちです!」
「そっかー」
ルナの初めての友達が猫か。
いや、いいんだけどね。
「それじゃあ、この子も一緒に暮らそうか」
「え!? いいんですか!?」
「うん。いいよ」
名前付けるくらい気に入ってるみたいだし、今更引き離すよりペットにしちゃった方がいいでしょ。
見たところ、魔獣でも誰かの使い魔でもないただの猫みたいだし、ルナの近くに置いといても問題ない筈だ。
それに、ペットは子供の情操教育に良いって話をどこかで聞いた事あるような気がする。
「その代わり、この子のお世話はルナがちゃんとする事」
「はい!」
「よろしい。じゃあ、よろしくね。えっと……しろまる」
「にゃ」
白猫改め、しろまるは「仕方ねぇな。飼われてやるか」みたいな副音声が聞こえてきそうな声で鳴いた。
なんともふてぶてしい。
けど、それもまた気まぐれな猫っぽくていい。
今度、暇な時に私もモフモフさせてもらおう。
こうして、我が家に新しい家族が加入したのだった。