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44 安全確保

「……ルナ、こっちにおいで」

「? わかりました」


 私は敵意と警戒をできるだけ表に出さないように必死で抑えながら、ルナにこっちへ来るように言った。

 ルナがトコトコと小走りで私の方へと走ってくる。

 何故かふてぶてしい白猫を抱えて離さないまま。

 だから、その猫何?


 いや、そんな事今はどうでもいい。

 問題は猫よりアルバ達だ。

 ルナが完全に私の所に来るまで、あと数歩。

 その間、彼らがルナに手を出す気配はない。

 まあ、革命軍の理念的に考えても、アルバの性格的に考えても、人質作戦なんてできないだろうとは思う。

 それでもひたすら心臓に悪い。

 いつ戦いが始まってもいいように神経を研ぎ澄ます。

 ルナを守る為に。


 だって、これが裏切り爺辺りなら、正義だの善意だのより大義を取ってルナを襲うだろうから。

 ルナは私の最大の弱点であり急所だ。

 ルナを人質にでもされれば私は言う事を聞かざるを得ない。

 私が帝国に従ってる理由がまさにそれなんだし。

 まあ、実際はそう簡単な話でもないんだけど。


 現在、ルナには皇帝によって闇の呪いがかけられ、奴に生殺与奪を握られている。

 だから私は皇帝に逆らえない。

 そんな状態でルナが別の誰かに拐われたらどうなる?

 その相手が革命軍とかで、私に皇帝と帝国への裏切りを命令してきたらどうなる?

 答え、板挟みで詰む。

 私を駒として使う事はできない。

 だけど、ルナに呪いがかけられてるなんて事を知ってるのは皇帝と私とメイドスリーだけだ。

 奴は呪いの事を一切公言してないから。

 もしかしたら側近とかには話してるのかもしれないけど、少なくとも私が知ってる限りではそれだけ。


 そして、知らない奴からすれば、ルナは私に対する最高の人質にしか見えない。

 もし呪いの事を知ってたとしても、それはそれで私という戦力を戦わずして排除できる。

 どっちにしろ、ルナには人質としての価値が発生してしまうのだ。


 だから、裏切り爺以外にもルナの誘拐を考えるような奴がいる可能性は高い、めっちゃ高い。

 そう、例えば、今アルバの横で彼を支えるように立ってるルルとかが凶行に走ってもなんらおかしくないのだ。

 彼女は善人だけど、アルバ程のお人好しじゃない。

 必要とあらば非道な事でもするかもしれない。

 まあ、今は悪巧みより困惑が先に来てる感じがするけど。

 ……ん?

 困惑?


 ……あれ?

 これ、もしかして私の正体に気づいてない?

 確かに、戦場に出る時の私は全身鎧で顔もスタイルも隠してる。

 一目で私をセレナだと見破る方法は少ない。

 熟練した探索魔術で魔力反応を識別するか、事前に私の顔を知ってるか、掴んでる情報の中から推理するか。

 あ、意外と多いわ……。

 でも、ルルのあの感じを見る限り、私がセレナだと確信はしてなさそう。

 隣のアルバがやたら警戒してるからまさかとは思ってる、ってところかな?

 逆に、アルバは確信してる感じだ。

 何か確信に至るような要素を持ってるんだろう。

 それを持ってるのがルルじゃなくてアルバだったのが不幸中の幸いか。


 そんな事を思考加速で考えてる間に、ルナが私の所まで撤退する事ができた。

 私はできるだけ自然な動きで、ルナをメイドスリーに任せる。


「おねえさま?」

「ルナ、今日のお出かけはここまでにしようか。三人とも、ルナを連れて先に帰ってて」

「え!?」


 ルナが悲しそうな顔をする。

 だが、ならぬものはならぬ!

 私はメイドスリーにアイコンタクトした。

 その意図を察してくれたようで、三人の中で一番戦闘力が劣るドゥが、ふてぶてしい白猫ごとルナを抱き上げる。

 一番弱いドゥがルナを抱え、他の二人が十全に戦えるようにする為のフォーメーション。

 前々から決めておいた事だ。

 三人はちゃんと現状を理解してくれてる。


 でも、そんな三人を見てルナが不安そうな顔になってしまった。

 不穏な空気を感じ取っちゃったか。

 これはなんとかしといた方がいい。


「それと、帰ったらお説教だからね。勝手にいなくなった理由をたっぷり聞かせてもらうから」

「ひゃ、ひゃい!」


 ルナの意識をお説教に向けさせて誤魔化す。

 よし、なんとかなったっぽい。


「じゃあ、よろしくね三人とも」

「「「かしこまりました」」」


 メイドスリーができるだけ自然な動きでルナを連れて行く。

 その間、私は一瞬たりともアルバ達から意識を逸らさなかった。

 猛獣と対峙した時、いきなり背を向けて逃げ出すのは一番やっちゃいけない。

 追い掛けてくる可能性が高いから。

 故に、目を合わせて隙を見せないままジリジリと後退するのが最善手。

 これは人間相手でも同じだと思ってる。

 敵対してる人間なんて猛獣と同じだ。

 隙を見せちゃいけないのだ。


 そうして睨み合いを続けてる内に、ルナ達の気配が私の探索魔術の外にまで行ったのを確認した。

 ふぅ、これで一安心。

 とりあえず、これだけ離れれば、戦闘の余波に晒される可能性も低いだろう。

 あくまでも低いだけであって0ではないのが要注意だけど。


「さて」


 それを確認してから、私は改めて目の前の二人に向き直った。

 改めて見ると、アルバは満身創痍だ。

 魔力反応も弱々しいし、ルルに支えられなきゃ歩けない程弱ってるように見える。

 多分、前回の戦いからロクな治療を受けられてないんだ。

 二人だけで歩いてるって事は、他の革命軍と合流もできてないんだろう。

 なら、ルルの方も私に壊された魔導兵器(マギア)の替えを持ってない可能性が高い。

 つまり、今の二人は戦闘能力が皆無に等しい。


 殺すなら今が絶好のチャンス。


 今の私は鎧もサブウェポンも持ってないけど、この身一つだけでも充分過ぎる。

 予想外の反撃を受けて街の住人が巻き添えになろうと、アルバを仕留められるなら必要な犠牲と割り切れる。

 ……でも。

 それでも私は。


「ここで会ったのも何かの縁です。少し話しませんか? 革命軍のお二人」


 警戒する二人に向けてそう告げた。

 目的は時間稼ぎ。

 ルナ達が完全に私の城の中に、安全地帯に入るまでの時間稼ぎ。

 それまでの間、こいつらを私の索敵範囲外で野放しにする訳にはいかない。


 だが、そんな事情を知らない二人は驚愕したように目を見開き、凄まじく警戒した目で私を見た。

 当然だね。

 私が向こうの立場だったら同じ反応してたと思う。

 怪しい事この上ないもの。

 

「ああ、安心してください。ここであなた達を始末するつもりはありませんから」


 無意味かもしれないけど、一応そう言っておく。

 でも、これは紛れもない私の本心だった。

 ここで、正確に言えばこの街の中で戦いを起こすつもりはない。

 向こうから向かって来ない限り。


 何故か。

 そんなの簡単だ。


 ルナを巻き込む可能性が0.1%でもあるのなら戦わない。

 危ない橋はできうる限り渡らない。

 いつだって、それが私の答えだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] ルルちゃんが白ならセレナは水色かな〜とかしょうもないこと考えてしまった
[良い点] なるほど、ルナさえ捕まってしまえばセレナはなんでも言うこと聞いてくれるのか ほーへーふうんー
[一言] 両手に花だね勇者君
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