43 天使のお出かけ
お出かけが決まった直後、私達は即行で街中に行っても違和感のない服を身繕ってから街へ向けて出発した。
正直、ルナの服選びが楽しくて、それだけで一日潰せちゃいそうだったけど、そういう訳にもいかないので泣く泣く早めに済ませたよ。
そして今、私達は街の商店街のような場所の入り口に来ていた。
「ルナ、絶対に私と手を離しちゃダメだからね」
「はい!」
ルナに改めて念を押し、仲良く手を繋いで街を歩く。
もちろん、ルナの歩く速さに合わせてゆっくりと……と思ったんだけど、ルナのスピードは無意識の身体強化のせいか予想外に早かった。
加えて、初めての街に興奮してるか、私の手を引きながらあっちこっち走り回るので、結構付いて行くのが大変。
これ私だからいいけど、身体強化のないメイドスリーだったら疲労困憊になってたかもしれない。
そのメイドスリーは後方から微笑ましそうに私達を見てる。
手伝ってほしい。
「おねえさま! あれ! あれなんでしょう!」
「ああ、あれはね……」
ルナは目に付いたあらゆる物に興味を示し、質問してくる。
できる限りは答えたけど、私もそんなに街には詳しくないから答えられなくて口ごもる事もしばしば。
そういう時は代わりにメイドスリーが答えてくれた。
助かる。
そんな感じで街を練り歩き、色々と買い物し、今は屋台みたいな所でクレープもどきみたいなのを買って、近場で座って食べてる。
さすがに食べる時まで手を繋いでたら不便なので、今は一時的に離してる状態だ。
……それにしても、こうして自分で出歩いて改めて感じたけど。
「本当に活気があるなぁ」
子供が元気に駆け回り、おばちゃん達が井戸端会議に花を咲かせ、屋台のおっさん達の「安いよ安いよ!」という声が響く。
悪の帝国にあるまじき明るい雰囲気の街だった。
それこそ、はしゃぎ回るルナが全然浮かないくらいに。
「ふふ、それはセレナ様のおかげですよ」
「? どういう事?」
私が疑問に思っていると、メイドスリーの中で一番知的なトロワが色々説明してくれた。
それによると、どうもこの平和な光景は、私がクソ家族どもを粛清した事による副産物らしい。
あの時、私はクソ家族どもを粛清するついでに、この街の運営を引き継ぐ人達に釘を刺した。
民の為になる政治をやれと。
ついでに、六鬼将としての仕事が本格的に始まる前のまだ暇だった時期に、領内の色んな街に行って、そこの街長に領主として同様の命令を出しておいた。
まあ、街長達はアメジスト家と縁のある貴族で、バッチシ腐敗に染まってる連中だったから、お腹の中にクソ親父と同じアイスゴーレム爆弾を入れて脅したけど。
そうした理由は、姉様の優しさに少しでも報いたかったからっていうのと、ルナが成長した時に腐敗した領地を見せたくなかったからなんだけど、その効果が予想外に早く現れてたらしい。
正直、あの程度の軽い干渉でここまで大きな効果が出るとは思わなかった。
治安が回復するのにも、虐げられ続けた人達の意識が変わるのにも、それ相応の時間がかかると思ってた。
だから、この結果は意外だ。
まあ、嬉しい誤算だと思っておこう。
でも、これならもう少し早くルナをお出かけに連れて来てもよかったかもしれないなー。
……いや、ルナを狙う刺客がいる可能性もあるから、それは無理か。
ルナが私のアキレス腱だっていうのは、貴族の中でそこそこ有名な話だし。
でも、これからはたまになら連れて来てもいいかもね。
ルナ、本当に楽しそうだったし。
もちろん、私が付いて行ける時限定だけど。
そうして、束の間の平和で幸せな時間を満喫していた時。
「っ!?」
私の背筋に特大の悪寒が走った。
バッと、その悪寒のした方向へと顔を向ける。
これは……街の東門に忍び込ませてる超小型アイスゴーレムからの情報だ。
覚えのある魔力の持ち主が一人、同行者と思われる人物と共に門からこの街に侵入した。
最悪だ。
なんで、よりにもよってこのタイミングで。
「……セレナ様? どうされました?」
私の雰囲気が変わった事に気づいたのか、メイドスリーが険しい表情で私を見てくる。
そんな三人とルナに向かって、私は告げた。
「皆、悪いけどお出かけはここまでにするよ。敵がこの街に侵入してきた。すぐにルナを連れて……」
そこまで言って気づく。
間抜けにもたった今気づいた。
ルナの姿がどこにもない。
私達が超小型アイスゴーレムからの情報に気を取られてる隙に、忽然と姿を消していた。
「ルナ!?」
「え!? ルナ様!?」
「っ~~!? 一瞬目を離した隙に……!」
「探しましょう!」
「待って!」
トロワの迅速な判断に従い、メイドスリーが方々に散ろうとする。
私はそれを止めた。
「大丈夫。ルナに持たせたお守りは、あの子の居場所を私に知らせる機能があるから」
「あ、そっか!」
「さすがセレナ様です~!」
「それで! ルナ様はどこに!?」
私はお守りこと、ルナに持たせた腕輪型アイスゴーレムに魔力を送信し、逆に向こうからも魔力を送信させ、大体の位置を把握した。
近い!
いや、そりゃそうか。
だって目を離したのは数秒なんだから。
でも、何故か結構なスピードで走ってるみたいでドンドン遠ざかっていく。
ルナ何やってんの!?
これメイドスリーの足じゃ追い付けないよ!?
「ルナは何故か走ってる! 方向はこっち! 三人ともお守りの機能を使って付いて来て!」
「「「わかりました!」」」
私は身体強化を使って走り出す。
メイドスリーも腕輪型のお守りに触れ、その機能の一つである身体強化を使って付いて来る。
革命軍から回収した魔導兵器を参考に改良しといて良かった!
そうして走る事、数十秒。
私達は小さな白銀の後ろ姿を捉えた。
「ルナ!」
「あ! おねえさまー!」
ルナは呑気に私に手を振ってきた。
よし、とりあえず無事!
傷一つない!
何故か腕の中にふてぶてしい顔した白猫を抱えてるけど、それ以外に変な事は……変な、事、は……
ルナの前に、フードを深く被って顔を隠した不審者が二人いた。
「「なっ!?」」
私は思わず驚愕の声を上げてしまった。
不審者の一人が私と全く同じ反応をする。
その不審者、一人は私と似たような背丈をした少女。
そして、私を見て劇的な反応をしたもう一人は、とてつもなく覚えのある魔力反応をした少年。
嘘だろ!?
さっき門から侵入して来たのには気づいてたけど、なんでここにいるの!?
「? おしりあいですか?」
そんな私達の間に挟まれたルナがコテンと首を傾げた。
うん、知り合いだよ。
ただし、ルナには紹介できないタイプの知り合いだよ。
そこにいた不審者ルックの少年は、ついこの間ボッコボコにした革命軍の戦士にしてこの世界の主人公、アルバに他ならなかった。