38 援軍
「な、何が……!?」
唐突に放たれた闇の大魔術を見て、地上に残っていたアルバ達が驚愕に目を見開く。
隙だらけだったので氷弾で攻撃しておいた。
足場役に徹してたおかげで無傷なリアンには防がれたけど、死に体のアルバは防ぎきれずに傷を増やし、右腕と魔導兵器を失ったシールに至っては心臓をぶち抜かれて死亡した。
やっと一人。
「シールさん!?」
アルバが悲鳴を上げる。
でも、次の瞬間には悲鳴すら上げられなくなった。
闇に呑まれた戦士達の成れの果てが空から落下してきたからだ。
オックスとテンガロンは身体の半分以上が消し飛んで死亡。
ステロは片腕を失い、グレンは背中がゴッソリ抉れている。
グレンに庇われたキリカと、他の誰かに庇われたんだろうルルとデントは比較的軽症だったけど、それでも全身ズタズタ。
鎖の足場が盾になった筈なのにこの威力とか。
さすが、全魔力属性の中で最強の破壊力を誇る闇魔術。
たった一発で戦況がひっくり返った。
まあ、元々こうやって決定打を与える不意討ちの為に隠れてもらってたんだけどね。
そして、今度は砦の上から、この魔術を放った存在が飛び降りてきた。
黒い鎧の上から黒地に金の刺繍がされた高貴なマントを羽織った青年。
髪と目はアルバと同じ黒髪黒目。
顔立ちもどことなく似てる。
ただし、アルバとは似ても似つかない威圧感溢れるオーラ、帝王のオーラを全身に纏った青年だった。
このお方こそ、私の頼れる上司にして今回の作戦の真の切り札。
革命軍が今までにない規模で進軍してくると伝えたら、なんと護衛と共に御自らが出陣してくださった過保護な男。
ノクス・フォン・ブラックダイヤ皇子、その人である。
「……驚いたぞ反乱軍。まさか本当に魔術師でもない者達がセレナを追い詰めるとは思わなかった。
見くびっていた。侮っていた。
だが、認識を改めよう。
お前達は確かにセレナの言う通り、こんな姑息な手を使ってでも確実に殲滅しておかなければならない強敵だったようだ」
ノクスは倒れた戦士達を見ながら険しい顔でそう告げ、次に咎めるような目で私を見てきた。
まあ、ノクスはこの『私を囮にして、最高のタイミングで不意討ちしちまおうぜ作戦』に反対だったからね。
そんな事しなくても、普通に私とノクスの二人がかりで潰してしまえばいいって言ってた。
多分、ノクスは私の安全も考慮してそう言ってくれたんだろうけど、それだとアルバと特級戦士を丸々取り逃がしかねない。
実際、ゲームでのこのイベントは、ノクスがレグルスとプルートの二人を引き連れていたにも関わらず、討ち取れた特級戦士の数は僅か一人だったから。
ゲームだと、三人に奇襲を受けた時点で革命軍側は勝ち目なしと判断し、撤退を決意する。
そうして覚醒したアルバに道を切り開かれ、決死の覚悟で殿として残ったグレンに足止めされて、他の連中を丸々逃がしてしまうのだ。
それに比べて今はどうよ?
結果論とはいえ、弱りきった特級戦士達をまだ余裕のある私と、ノクスと、ノクスの護衛達と、ついでにアイスゴーレム達で囲めるという最高の布陣が出来上がった。
しかも、現時点で特級戦士を三人も討ち取っている上に、他の連中も満身創痍。
彼らが最初から逃げる決断を下してればこうはならなかった。
私一人相手なら勝てると思って戦闘に踏み切ってしまったからこそこうなったんだ。
私の作戦は大成功である。
だから、ノクスも無茶した私を咎めるような目で見つつも文句は言ってこない。
ノクスの心配は気持ちだけ受け取っておくよ。
めっちゃ感謝してるので許してください。
実際、ノクスには本当に感謝してる。
さすがの私でも、ノクスが援軍に来てくれなかったらこんな無茶な作戦立てなかった。
せいぜい、革命軍が進軍中に奇襲かけて壊滅させるぞ作戦が関の山だっただろう。
それだと軍勢は壊滅させられても、確実に特級戦士の殆どを取り逃がしてただろうし、ましてやアルバを追い詰めるなんて相当運が良くなくちゃ不可能。
それがノクスのおかげで一網打尽だ。
報酬に抱かせろと言われたら断れないくらいの恩を私はノクスに感じてる。
まあ、ここで最後の詰めを誤ったら台無しだけどね。
そうならないように、気を引き締めて殲滅するとしますか。
私はさっきのダメージを回復魔術で治し、もう一踏ん張りだと気合いを入れた。