37 氷月将VS革命軍 2
「あなた達は外の敵の警戒に行きなさい! ここに居ては私の魔術に巻き込まれるだけです!」
私はまず、足止めすら満足にできなかった役立たず達に命令を下した。
彼らが近くにいると範囲攻撃が使いづらい。
付き合いが浅いから連携も難しいし、それならまだ外の大軍にぶつけた方がマシというものだ。
例え、ワルキューレが押し込まれるまで出番がなかったとしても。
残すのはアイスゴーレム達だけでいい。
そして、彼らが撤退するのを確認する前に、私は戦闘行動を開始した。
「『氷翼』!」
グレンに斬られた片翼を即行で作り直し、空へと飛び上がる。
特級戦士の魔導兵器は基本的に近距離タイプだ。
魔導兵器なんて魔術のパチモンで高位の魔術師と対等に戦おうと思ったら、そうするしかない。
遠距離戦の才能に溢れてるバックとミストは例外だけど。
なんにせよ、そういう相手とは距離を取って戦うのが得策。
遥か上空に行っちゃうと砦の中に隠れられた時困るからそんなに高度は出せないけど、接近しづらい上空に陣取るだけでも相当効果的だろう。
「逃がすなぁ!」
まあ、勿論そんな事は向こうだってわかってるから、妨害してこない訳がないけどね。
だから同時にこっちも妨害の魔術も放つ。
「『氷獄吹雪』!」
高威力高範囲攻撃。
おまけに目眩ましにもなる有能魔術を使う。
消費魔力は高いけど、私の魔力量と発動技術ならあんまり気にならないレベル。
だから、この魔術はかなり使用率が高い。
「皆さん! 私の後ろに!」
でも、強敵相手だと決定打になる魔術ではない。
盾使いのシールが声を上げながら前に出て、全員を守れる位置に陣取り、装備した身の丈程もある巨大な盾を構えた。
「『魔大盾壁』!」
盾が光り、半透明な魔力の障壁を発生させた。
それが私の氷獄吹雪を防ぐ。
あれがシールの魔導兵器の性能。
私の攻撃ですら何発かは耐えるだろう鉄壁の大盾。
それに加え、最適な位置取りや盾を構える角度によって、最低限のサイズの障壁、つまり最低限の魔力で私の攻撃を防いだシール自身の技量。
やっぱり特級戦士は厄介だ。
でも、時間稼ぎにはなった。
その隙に私は上空へ飛ぶ。
「『魔弾』!」
「『拘束鎖』!」
しかし、今度は盾の後ろから中距離攻撃が飛んできた。
テンガロンの銃弾と、リアンの鎖だ。
銃弾は球体アイスゴーレムが自動で防いだけど、鎖はまるで蛇のように自在にしなって、氷の盾の間を抜けてくる。
私が言えた事じゃないけど、凄い操作技術だ。
「『氷結』!」
しかし、これくらいなら初級魔術で防げる。
鎖を凍らせて動きを止め、その間に高度を上げる。
砕きはしない。
多分、あれを砕くのはそれなりに大変だろうから。
それよりも、敵の攻撃範囲外に出るのが先決だ。
「逃がさねぇ! 合わせろキリカ!」
「わかった!」
「「『風炎大紅蓮刃』!」」
次はグレンとキリカによる合体技。
グレンの放った炎の斬撃が、キリカの放った風の斬撃と混ざり合い、風が炎を増幅して紅蓮の業火となった。
業火の斬撃が私に迫ってくる。
凄い火力だ。
レグルスの通常攻撃と同じくらいの火力があるかもしれない。
これなら飛び道具としては充分な威力。
「でも、効かない」
球体アイスゴーレムの氷の盾が、二人の渾身一撃をあっさりと防ぐ。
所詮は魔導兵器の性能に頼った攻撃。
私には通じない。
ちょっと盾が溶けて砕けたけど、格となる球体部分が無事で魔力さえ残ってればいくらでも再生できるから問題なし。
まあ、それですら目眩ましだったみたいだけど。
「どっせい!」
この中で一番の怪力であるオックスの掛け声が聞こえた。
次の瞬間には、私の目の前にデントがいる。
多分、オックスの斧の上に乗って、カタパルト方式でかっ飛んできたんだと思う。
アニメ化した時にそんなシーンがあった。
「『魔槍一文字』!」
デントの槍が渾身の一突きを繰り出す。
それをまたしても氷の盾が防いだ。
今までの攻撃で一番盾にヒビが入ったけど、逆に言えばその程度。
結局、私には届かない。
「もういっちょぉ!」
「『魔刃一閃』!」
おっと、今度はルルが飛んできた。
人間大砲二連続か。
思いきった事をする。
でも、ルルの攻撃も氷の盾が防いだ。
さっきと違って、今は四つの球体アイスゴーレム全てを私の周りに配置してる。
二連撃くらいじゃ盾を使い切らせる事すらできない。
空中で盾に阻まれたルルとデントを飛び越し、更に上へ。
そして、これで目標高度に達した。
さあ、反撃だ。
「『氷砲連弾』!」
車サイズの氷の砲弾を連射する魔術、氷砲連弾をまるで爆撃機の如く上空から撃ちまくる。
最初の狙いは空中に取り残されたルルとデント。
飛べない人はただの人。
格好の的である。
死ね!
「やらせねぇよ! 『魔連弾』!」
「捕まってください! 『鉤鎖』!」
だが、革命軍はこれを防いでみせた。
テンガロンの弾丸が氷の砲弾に当たって僅かに軌道を逸らし、その隙にリアンの鎖が二人を回収する。
命拾いしたか。
でも、二人を助けたからって砲弾の雨が止む訳じゃない。
私の優位は変わらない。
「くっ!」
「チッ!」
「厄介な!」
彼らは、爆撃を避け続けた。
時に迎撃し、時に紙一重でかわし、必死に避け続ける。
ライフル弾並みの速度で飛来する巨大な砲弾の雨を避け続けるなんて人間技じゃないな。
いくら彼らの魔導兵器に身体強化の効果があるからって、よくあれだけ踊れるもんだ。
けど、それも長くは続かない。
「うぐっ!?」
まず、たった数秒で既に死に体だったアルバに限界がきた。
それを守る為にルルとデントが無茶をし、そのフォローをする為に最も防御に優れたシールが動く。
「『魔大盾壁』!」
シールの盾が眩く光り、さっきよりも遥かに大きな障壁が出現した。
砲弾の雨を防ぐように、まるで傘みたいな形で。
「できるだけ私の近くに来てください! そうじゃないと守りきれません!」
シールが叫ぶ。
それによって、特級戦士達がシールの側に駆け寄り、傘の中に入った。
これで一時的に凌げはするだろう。
でも、やっぱり長くは持たない。
あれだけの攻撃を防ぎ続けるには、相当の魔力が必要な筈だ。
多分、1分もしない内にシールの魔導兵器は燃料切れになる。
対して、私の魔力はまだまだ余裕。
このまま撃ち続ければいい。
プラスで嫌がらせもしておこう。
「っ!?」
残しておいたアイスゴーレム達が横から魔術を放つ。
これもワルキューレと同じ使い捨て前提の不良品だけど、壊れるまでの戦闘力は私の城や屋敷にある通常のアイスゴーレムと同じだ。
さっきまでの戦闘で大分数が減ったみたいだけど、嫌がらせには充分な数が残ってる。
傘じゃ横からの攻撃は防げない。
必然的に他の奴が働くしかない。
ゆっくりと作戦練る時間は与えない。
このまま押し潰す。
そう考えた時、私は横から攻撃を受けた。
「え!?」
攻撃自体は氷の盾があっさり防いだけど、私は慌てて攻撃が飛んできた方向に振り返った。
今のは魔力の矢による攻撃。
外の軍勢の中にいる筈のミストの攻撃と見て間違いないだろう。
まさか、もうワルキューレがやられた!?
と思って戦場の方を見れば、ワルキューレが元気に暴れている光景が遠目に見えたよ。
……という事は、ミストも私が遠目に見えたからとりあえず攻撃しただけ、かな?
ああ、びっくりした。
というか、こんな遠くから寸分違わず私を狙い射つとか、さすが弓の名手。
なんにせよ、ミストに狙われるなら、もうちょっと高度下げといた方がいいか。
「おおおお!」
「!?」
そうして私の意識が一瞬逸れた瞬間、その隙を逃さず特級戦士達は行動を起こした。
シールの障壁が凄い速度でせり上がってくる。
これは、オックスがシールを射出したのか?
凄い無茶する。
なら、ここでシールを潰せば私の勝ちだ。
私は両手を前に突き出し、そこから必殺の魔術を放った。
「『氷結光』!」
広範囲に拡散する氷獄吹雪の冷気を一点に収束して射出する魔術。
要するに冷凍ビームだ。
でも、そんな単純な攻撃が驚く程に強い。
氷結光がシールの障壁を一瞬で突破する。
そのまま盾本体すらも凍らせ、砕いてみせた。
「ぐっ!?」
そして、シール自身も盾を持っていた左腕が凍って砕けた。
最後の力を振り絞って氷結光の軌道を逸らしてみせたのは凄いけど、これでシールは脱落だ。
しかも、この世界の回復魔術では失った四肢や臓器を復元する事はできない。
例えこの戦いを生き残ったとしても、シールは隻腕キャラとして生きていくしかなくなった。
でも、それすら向こうは覚悟の上だったらしい。
シールが砕けた左腕を抑えながら、叫ぶ。
「今です!」
「なっ!?」
障壁がなくなって見えた先。
そこには、空中に螺旋階段のような形で静止した鎖を足場にして、空に立つ戦士達の姿があった。
「やれぇ!」
「『魔連弾』!」
シールが撃墜された瞬間、彼らが一斉に私に飛びかかってくる。
まずはテンガロンが二丁拳銃で弾幕を張る。
しかも、弾丸同士をぶつけて跳弾を繰り出し、四方八方から弾を飛ばすという離れ業をやってのけた。
鬱陶しい!
氷の盾が全てを防いだけど、それによって盾を封じられてしまう。
その隙に残りの戦士達が突撃してくる。
おまけに、そうしてる間に鎖がどんどん私達の周囲を覆っていき、敵の足場が増えると同時に私の逃げ場がなくなる。
当然、天井は真っ先に閉じられた。
本当に鬱陶しい!
でも、まずは飛びかかってくる連中の対処が先だ。
数は、死に体のアルバと撃破したシール、あと足場役になってるリアンを除いた7人。
銃弾の雨がなくても、球体アイスゴーレムだけじゃとても防ぎきれない。
なら!
「『浮遊氷剣』!」
腰から六本の剣型アイスゴーレムを抜き、高速で飛翔させる。
元々こういう時の為のサブウェポンだ。
今こそ本来の使い方で存分に振るう!
「『風魔刀』!」
「『魔刃一閃』!」
まずはスピードのあるキリカとルルの二人が飛び出してきた。
二人に対して一本ずつ氷剣を差し向ける。
私は剣術が得意な訳じゃないから、氷剣で斬り合いをするつもりはない。
ただ殺す為に、威力と速度重視で振り回す。
「チッ!」
「くぅ!」
それによって、二人は氷剣の威力に押し負けて吹き飛んだ。
けど大したダメージは与えられてない。
鎖の足場に着地して、すぐにでもまた仕掛けてくるだろう。
それに、注意すべき敵はまだまだいる。
「オラァ! 『破壊斧』!」
「『魔槍一文字』!」
今度はオックスとデントによる背後からの攻撃。
見えている。
目では捉えられなくても、私の探索魔術が二人の正確な位置を把握している。
「『氷砲弾』!」
私は振り向かず、手も翳さずに放った二発の氷砲弾によって二人を迎撃した。
視界の外で発動した魔術は、魔術の根幹であるイメージが少ししづらくて安定性が落ちるけど、私の技術ならそれでも充分な威力になる。
「マジかよ!?」
「ぐっ! だが、この程度!」
二人は驚きながらも氷砲弾を突破し、攻撃を続行してきた。
でも、そんな体勢の崩れた状態での攻撃なら怖くない。
氷剣で振り払う。
ただし、しっかりとガードされたせいでダメージは薄かった。
そうして、今度はグレンが襲いかかってくる。
氷剣による迎撃を、グレンは全て防いでみせた。
「『灼刀炎舞』!」
炎を纏った刀による舞うような動き。
それによって氷剣を防ぎ、受け流し、そのままグレンは私本体に接近してきた。
更に、態勢を整えた他の連中も同時に仕掛けてくる。
私は袋叩き状態となった。
グレンの炎刀を鎧の籠手で受け流す。
キリカの風刀を氷剣で弾く。
オックスの斧は先に魔術を撃って迎撃する。
デントの槍を掴んでへし折る。
ルルのナイフは拳で砕いた。
まだだ。
この程度で私は負けない!
「これだけの数で攻めてるのに!」
「崩れない!」
「チィッ! 化け物がぁ!」
5人が同時に突撃してくる。
私は氷獄吹雪による牽制の後に、六本の氷剣全てで同時に薙ぎ払う事で、纏めて吹き飛ばした。
手応えあり。
かなりのダメージを与えた感覚。
いける!
「ステロォ!」
「破ァアアアアアア!」
しかし、その考えは甘かったらしい。
さっきまでの攻撃に加わっていなかった最後の一人、ずっと私の真上に陣取っていた格闘家のステロが、凄まじい勢いで降下してくる。
今の私は強力な魔術を使った直後。
氷剣も薙ぎ払いに使ってしまい、盾は相変わらずテンガロンに封じられている。
つまり、今はかなり守りが薄い。
でも、ステロが動いていないのを見れば、隙を狙ってくる事なんてわかりきってた。
抜かりはない!
「『氷結光』!」
高位の魔術が連発できないと誰が言った!
普通の魔術師には無理でも私にはできる!
単純な魔術の腕前だけなら帝国最強かもしれないとノクス達に言わしめたこの私を舐めるな!
そうして、氷結光が渾身の一撃を繰り出そうとしたステロを……
「うぉおおおお! 『魔刃一閃』!」
「っ!?」
捉える事なく、私の後ろから飛んできた斬撃により、僅かに軌道を逸らされた。
そして、ステロは軌道のズレによってほんの僅かに生まれた安全地帯に身体を滑り込ませ、空中で私の大魔術を避けてみせた。
今の斬撃、アルバか!
他の連中に追い詰められて瀕死のアルバにまで構ってる余裕がなかった。
主人公を忘れるなんて大失態だ!
そして、その報いを今まさに私は受けていた。
「『破砕拳』!」
「うっ!?」
私への接近を果たしたステロの拳が私の頭部を捉えた。
渾身の魔力が込められた籠手型魔導兵器による一撃。
それに殴り飛ばされ、私は凄い勢いで地面に叩きつけられた。
その衝撃で氷翼が砕け、しかも鎧の中で一番頑丈に作っておいた兜が一部破壊されて左目周辺部分が露出している。
内部にも衝撃通ってるし、結構シャレにならないダメージ受けた。
やっぱり強いわ特級戦士。
ほぼ全員を私一人で相手するのはキツイ。
「今だぁ!」
グレンが叫び、地に落ちた私目掛けて全員が殺到する。
このままじゃ本気でヤバかったと思う。
でも、今は位置がいい。
私は地面の上。
彼らは上空にある鎖の足場の上。
完全に別れてる。
実に狙いやすいポジション。
「ああ、ホントに……」
過保護な上司に感謝しないとね。
「『漆黒閃光』」
その時。
砦の上から放たれた漆黒の閃光が、深い深い闇の一撃が、革命戦士達を纏めて呑み込んだ。