36 氷月将VS革命軍
絶え間ない魔術の絨毯爆撃と、最後には鎧の身体強化を使った肉弾戦までして、やっとこさアルバを倒した。
さすが主人公と言うべきか。
普通に強かった。
まだ自分の魔力属性すら使えない未熟者のくせして、一級騎士と同じくらいには強かったよ。
でも、逆に言えばその程度。
私の敵じゃない。
まあ、いつ覚醒するかわかったもんじゃないから、ビクビクしながら戦ってたけど。
というか、ここまで追い詰めた状態からでもアルバが覚醒する可能性はある。
だって、ゲームにおいてアルバが覚醒し、自分の魔力属性を使う切欠になったのが、このイベントだもん。
ノクス達に追い詰められ、絶体絶命の窮地を打開する為に覚醒というベタな事をやらかしたのだ。
今はゲームと革命開始の時期も違うし、その分アルバの戦闘経験も少なくて弱いから大丈夫かもしれない。
でも、油断はできない。
できる訳がない。
だから、ここは私の最強技で覚醒しても意味ないくらいにオーバーキルして確殺する。
確実に殺して、
「ここで終わりにする」
私は両手をアルバに向けて突き出し、そこに埋め込まれた二つの杖に魔力を込めた。
普段はあんまり重要視してない杖の力まで借りて、最速で発動準備を整える。
そして放つ。
私の必殺技を。
死ね主人公!
砕けろ運命!
「『絶対……」
「やらせるかぁあああ!」
「っ!?」
発動さえすれば回避不能、防御不能の一撃必殺技、絶対零度が発動する寸前。
上空から私目掛けて、一人の少女がナイフを片手に斬りかかってきた。
ヒロインのルルだ。
絶体絶命の主人公を助けにくるなんてヒロインの鑑。
でも、無駄ぁ!
あまりのタイミングの良さに驚いたけど、無駄なものは無駄なのだぁ!
「なっ!?」
ルルの攻撃を、保険として私の側に滞空させておいた球体アイスゴーレムが氷の盾を出して受け止める。
絶対零度の発動には最低でも一秒、現実的に考えるとそれ以上の準備時間がかかり、その間私は動く事も他の魔術を使う事もできないけど、自律式の球体アイスゴーレムが勝手に守ってくれるのだ!
そして、この盾はアイスゴーレムの内部からかなりの魔力を使って作られてるから、並みの攻撃ではビクともしない。
私が咄嗟に作る氷よりずっと硬い。
まあ、意識がルルに一瞬持っていかれたせいで制御が微妙に狂ってチャージ時間が微妙に伸びたけど、問題にならないレベルの誤差だ。
諦めてアルバが氷殺されるのを見てろ!
「『風魔刀』!」
「ん!?」
そう思った直後、今度は気の強そうな女性がルルの後ろから現れ、風を纏った刀を私に向けて振るった。
特級戦士のキリカだ。
アルバ以外は他の騎士と使い捨てのアイスゴーレムが足止めしてた筈なのに、続々とこっちに来てる。
役に立たない!
せめて、あと一秒でいいから稼げよ!
でも、私が保険として用意してた球体アイスゴーレムは二体だ。
その二体目の盾がキリカの刀を防ぐ。
本当はアルバと戦ってる最中に来られて同時攻撃される事を警戒して二体側に置いといたんだけど、その判断は正解だった!
もう絶対零度の魔術は完成する!
あと一手足りなかったな革命軍!
このまま全方位に放って、三人纏めて氷殺してくれるわぁ!
「『紅蓮刃』!」
「なっ!?」
三人目!?
ルルやキリカより僅かに遅く、しかしほぼ同じタイミングで、今度は灼熱の刀を振りかざしたグレンが斬りかかってきた。
絶対零度発動までのたった一秒の間に三人も来るとかどうなってんだ!?
足止め部隊仕事しろ!
そして、グレンを止められる三枚目の盾はない。
普段なら四枚あるんだけど、内二つはアルバ迎撃の為の砲台として使っちゃったから少し遠くにある。
つまり、グレンの攻撃は防いでくれない!
「くっ!」
私は仕方なく絶対零度を中断し、グレンの攻撃を避けた。
出しっぱなしにしてた氷翼の片翼が炎刀に斬り裂かれる。
多分、避けなくても鎧か剣で防げたと思うけど、そんな事したらどっちみち魔術は中断されてしまう。
絶対零度は、というか最上級魔術は繊細なんだ。
だったら、まだ素直に避けた方がいい。
そうしてグレンの攻撃を避け、魔術の発動妨害をされたもんだからカウンターの魔術を放つ事もできずに距離を取る。
その瞬間、私目掛けて何発もの魔術が飛んできた。
自動防御の氷の盾が全てが防ぐ。
今の魔術、見た目的には量産型魔導師に組み込まれてる雑魚魔術こと魔弾だ。
だけど、受け止めた氷の盾が若干とはいえ傷付いてるのを見ると、ただの魔弾じゃない。
そして、そんな攻撃をしてくる奴には心当たりがあった。
即座に魔弾が飛んできた方向を見れば、案の定、ご自慢の二丁拳銃を私に向けた特級戦士テンガロンの姿が。
他の特級戦士も続々と足止め要員を蹴散らし、私に対峙するようにこのステージへと降りてくる。
しかも、ルルをはじめとした何人かが倒れたアルバを回収し、応急措置を済ませてしまった。
トドメ刺すタイミング逃した!
「おい。一応確認するが、お前が『氷月将』セレナ・アメジストだな?」
兜の下でぐぬぬと唸っていると、特級戦士を代表するようにグレンが話しかけてきた。
ここで私一般人ですとか言ったら見逃してくれるのかしら?
いや、無理だな。
既に実力は見せちゃったし、それ以前に情報として私の容姿くらい知ってるだろう。
逃がしてくれる訳がない。
というか、初めから逃げる気もない。
こうなる事は想定内だ。
だから私は、グレンの質問に肯定を持って答えた。
「ええ、そうですよ。はじめまして反乱軍の皆さん。
私は帝国中央騎士団所属、六鬼将序列三位『氷月将』セレナ・アメジストです。
任務につき、この砦を襲撃したあなた達を撃退します」
「ハッ! そうかい」
グレンは嘲笑するように鼻を鳴らした後、今度は敵意と殺意に満ちた目で私を睨んできた。
「俺達は革命軍! 腐りきったテメェら貴族をぶっ殺す存在だ! よぉく心に刻んで地獄に堕ちやがれ!」
グレンが貴族への、帝国への憎悪を吐き出すように大声で叫ぶ。
それはもう咆哮と呼んで差し支えない程の、怒りと憎しみに満ちた声だった。
それを合図とするように、この場に集った全ての革命戦士が私に武器を向ける。
グレンが炎刀を突き付け、キリカが風刀を構え、オックスが斧を肩に担いだ。
リアンが鎖を振り回し、シールが盾を握り締め、テンガロンが銃口を私に向け、ステロが籠手に包まれた拳を打ち合わせる。
デントが槍を、ルルはアルバを気にかけながらもナイフを構え、アルバも重症患者のくせして倒れる事だけはしない。
ゲームでは頼れる仲間だった連中が、今は揃いも揃って敵として私の前に立ち塞がっていた。
「そうですか。では、死んでください」
彼らは国を変えるという志の為に。
私はルナの平穏の為に。
互いに譲れないものの為に、私達は殺し合いを開始した。