35 宿命の対立
外の大軍と中の突入部隊。
どっちを先に対処するか一瞬考えて、私は即座に結論を出した。
「やっぱり中が優先」
私は即座に砦へと戻る。
正直、難易度で言えば外の大軍を殲滅してから中に戻った方が楽だと思う。
どう考えても突入部隊は精鋭揃いだろうし。
革命軍が私を倒そうと思うなら、最精鋭部隊による接近戦での袋叩きしかない。
魔導兵器なんて魔術もどきで、私クラスの魔術師と撃ち合いして勝てる訳ないんだから。
だから、最速制圧を目指すなら外の大軍を先に相手するべき。
でも、それだと万が一が怖い。
万が一、私が大軍を仕留める前に砦が落ちたら任務失敗だ。
こっちだって曲がりなりにも精鋭揃いなんだからそう簡単には落ちないだろうけど、今砦には絶対に失う事のできない戦力がいるんだし、ここは安全策を取るべき。
それに、革命軍だって簡単に潰されるだろう大軍をそのままで突撃させる訳がない。
絶対に少しは粘る為の戦力なり作戦なり用意してる筈だ。
そう考えれば、ますます私が砦を離れる訳にはいかない。
でも、だからと言って大軍を放置するのもあれだ。
このまま砦の戦力とぶつかったら、本当に内と外からの挟み撃ちで潰されちゃう。
それは避けるべき。
なら、連中の足止め役がいる。
「これは一応、切り札の一つのつもりだったんだけどなぁ……」
砦の屋上に着地した私は、そこに待機させておいた一体のアイスゴーレムを起動させながら、ちょっと嘆くような気持ちで小さく呟いた。
他のアイスゴーレムと違って、私の鎧に近い作り込んだデザインをした女性用鎧。
右手には剣の代わりにランスを構え、左手には盾を、背中には翼を持った戦乙女のような姿をしたアイスゴーレム。
通称『ワルキューレ』
私の作る中では最高の戦闘能力を持った自律式アイスゴーレム。
他の量産品とは違い、作成に多大な魔力と時間と手間がかかる特別製。
まさか、こんな序盤からこれを使う事になるとは。
もっとも、今回のは短期間で準備する必要があったから、使い捨て前提で魔力も時間も手間もケチった不完全版だけどね。
起動してから一時間もしない内に自壊する不良品でしかない。
それでも、その短時間限定なら六鬼将にすら迫る活躍をしてくれるだろう。
ちなみに、私の城にはルナの護衛としてこれの完全版がダース単位で保管されてるというのは余談だ。
私はそんな不完全版ワルキューレを起動させ、命令を下した。
「殲滅せよ」
私の命令を認識した瞬間、ワルキューレの体が宙に浮かび上がる。
氷翼の効果。
そして、ワルキューレはそのまま革命軍へと突撃して行った。
まずは遠距離からの氷獄吹雪。
革命軍がなんの対策もしてないなら、これだけで終わる。
勿論、そんな訳はなかったけど。
ワルキューレの魔術をかき消すように、極太のレーザービームみたいな攻撃が革命軍から放たれた。
それが氷獄吹雪を相殺する。
完全には防げず、残った冷気がいくつもの氷像を作り出したけど、敵の数からすれば微々たる被害。
やっぱり対抗策を用意してたよ。
あれは多分、特級戦士バックの魔導兵器による攻撃かなー。
カスタマイズによって、ライフル、バズーカ、レーザービームなどなど様々な重火器として使える魔導兵器。
反動が大きすぎて、某ター◯ネーター役を務めた名俳優の如き体格でそれを支えられるバックにしか扱えない魔導兵器だったっけ?
加えて、滞空するワルキューレ目掛けて超速の矢が放たれた。
弓の魔導兵器を持つ特級戦士ミストかな。
ワルキューレなら避けられる攻撃だけど、かなり鬱陶しい。
妨害にはなってるから殲滅速度は確実に落ちるだろう。
なんにせよ、彼らが居た以上は、やっぱり私自身が向かわなくて正解だったと思う。
ああやって反撃されたら、壊滅させるまでにそれなりの時間がかかりそうだし。
あっちはおとなしくワルキューレに任せて、私は突入部隊を潰そう。
でも、その前に。
「あなた達はこの場に待機。反乱軍が近づいて来たら遠距離攻撃で迎撃してください」
「は、はい!」
ここにいる現場指揮官に迎撃命令を下しておく。
これでワルキューレが振り切られても大丈夫でしょう。
突入部隊さえ通さなければ。
「さて」
じゃあ、今度こそ行こうか。
私はさっき作った氷翼を展開したまま、砦の階下へ向けて飛翔した。
突入部隊がどこにいるのかはわかってる。
凄まじく慌ただしい轟音響かせながら戦ってるんだから、騒ぎの所に向かえば嫌でも会えるよ。
私は外からその場所の窓を突き破り、大立回りを演じる突入部隊の真ん中に降り立った。
そして見つけてしまった。
皇帝やノクスと同じ黒髪黒目をした、恐らくは私と同い年の少年の姿を。
その姿には嫌というほど覚えがある。
最後に見たのは15年前。
私がまだセレナじゃなかった頃、前世で画面越しに見たのが最後。
でも、この15年間、彼の事は一度も頭の片隅から離れなかった。
彼は、後に革命を成就させ、多くの民を救い、そして私達貴族を破滅に導く最高で最悪な存在。
『勇者』アルバ。
ゲーム『夜明けの勇者達』の主人公がそこにいた。
「ああ、やっぱり」
思わずそんな言葉が口から漏れる。
なんとなくそうじゃないかと思ってた。
ブライアンを殺したくらいで死なないんじゃないかと、いつか生きて私の前に現れるんじゃないかと、そう思ってた。
そして、もしそうなら今回の戦いで現れると半ば確信していた。
だから、やっぱりという感想しか出てこない。
アルバに向けて魔術を使う。
選んだのは簡単だから発動が早くて、おまけに高威力で使い勝手のいい氷砲弾。
巨大な氷の砲弾が目にも留まらぬ速度で生成され、射出される。
アルバはそれを避けられずに被弾し、窓を突き破って防壁に叩きつけられた。
「アルバ!?」
何やら聞き覚えのある声が焦ったように叫ぶ。
この声は、ヒロインのルルか。
革命開始の時期がゲームとズレてる筈だけど、普通に出会ってたのね。
よく見れば、この場には同じく主要キャラのデントの姿もあるし、特級戦士も勢揃いしてるし、主人公サイドのゲームとの差異はあんまりないと見ていいかな。
せいぜい、ブライアンがいなくなった程度だろう。
そんな考察をしつつ、私はアルバを吹き飛ばして空けた風穴から外へと飛び出し、ふらふらと起き上がったアルバと対峙した。
今の一撃を避けられなかったところを見ると、アルバはまだそんなに強くないんだと思う。
多分、そこら辺の一級騎士にすら劣るレベル。
そして、今この場には私とまだ雑魚いアルバの二人だけ。
他の奴らは砦の騎士達とアイスゴーレムが相手してくれる。
つまり、今は主人公殺害の絶好のチャンスという事だ。
「悪いけど、ここで死んでもらうから」
私はそう宣言し、杖の埋め込まれた腕をアルバへと向けた。
アルバもまた、剣を構えながら鋭い視線で私を睨む。
そうして、運命を変える為の戦いが始まった。