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30 裏切り者は誰だ

「まあ、そうだろうな」

「でしょうね」

「え、マジでか?」

「レグルス、あなた脳筋も大概にしてください。平民などという劣等種だけでここまでの事ができる訳ないでしょう」

「なにおう!」


 ああ、やっぱり予想してたんだ。

 脳筋レグルス以外の二人は驚かない。

 まあ、魔導兵器(マギア)なんて貴族の力がなければ作れる訳ないし、今回の一斉蜂起のタイミングとかは六鬼将が不在な事を事前に知ってないと考案できない。

 そもそも、ロクな教育も受けてない平民だけで、あれだけの規模の軍隊を組織、運営できる筈がない。

 ちょっと考えれば誰だってわかる。

 今までは余計な波風立てないようにあえて口に出さなかっただけで、裏切り者の存在は誰もが確信してた。

 レグルスみたいな脳筋と、革命軍の事を軽視しまくってた連中以外は。


「ですが、一応他国の策略という事も考えられるのでは?」


 荒ぶるレグルスを適当にあしらいながら、プルートがもっともな事を言ってきた。

 確かに、その可能性もある。

 私はゲーム知識のおかげで裏切り者が誰なのか知ってるけど、そうじゃないなら他国の策略っていうのは充分に考慮すべき可能性だろう。

 それに、バタフライエフェクト発生しまくりな状況だと、本当に革命軍が他国の傀儡になっててもおかしくない。


 でもだ。


「ないとは言い切れませんが、その可能性は低いと考えます」

「……一応、あなたの見解を聞いておきましょうか」

「はい。まず危険地帯である国境を越えるのは普通に困難を極めます。

 あんな場所を経由していては、あれ程の数の魔導兵器(マギア)を持ち込む事も、平民達をタイミング良く動かす事もできないでしょう。

 加えて、これだけの事をする余裕のある国にも心当たりがありません。

 隣国は帝国との不利な戦争続きで悉く弱ってますから。

 もし、その後ろにある国が関わっているのだとしても、そこまで遠くてはやはり大した干渉はできない。

 よって、他国が介入しているとしても、せいぜい裏切り者と繋がって支援しているか、反乱軍と同盟でも結んでいるか、その程度だと思われます」

「ふむ……まあ、合格点ですね」

「ありがとうございます」


 プルートから合格を貰えた。

 やったね。

 ゲーム知識に頼らない私の考察も大したもんだ。


 だが、ここまでは前座。

 ここからが本題だ。


「それで、肝心の裏切り者が誰なのかですが……」


 そこで私は一度言葉を切った。

 そして息を吸い込み、凄まじく重々しい声で告げる。


「━━『旧第二皇子派』。彼らが最も怪しいと私は考えています」


 室内の空気が緊張する。

 旧第二皇子派。

 それは、約15年前に終結した帝位継承争いにおいて、当代皇帝アビスの弟であり、当時の帝国第二皇子だったリヒト・フォン・ブラックダイヤに付き従った派閥の事だ。

 そして、リヒトの性格はウチの姉様のような聖人だったらしい。

 民を憂い、醜い貴族どもを嘆き、国が腐りきった現状を悲しんでいた。

 もしもリヒトが皇帝になっていれば、国は変わり、私が姉様を失う事もなかったかもしれない。


 でも、それは所詮もしもの可能性。

 とっくの昔に潰えた希望に過ぎない。

 そんな事より問題は今。

 革命軍についてだ。


 革命軍の志は、かつてリヒトが掲げた理想と酷似している。

 即ち、国を変え、腐敗を正し、民の為の新しい国を作るという事。

 リヒトは己が皇帝となる事でその理想を実現しようとした。

 革命軍は帝国を打倒する事でその志を叶えようとしている。

 なら、そこにリヒトに同調していた旧第二皇子派が関わってると思うのは当然の事でしょう。


 ただし、それをハッキリと口にするっていうのは別の意味を持つ。

 当然だ。

 私はあなた達が革命軍に繋がってる裏切り者の反逆者だと思ってますなんて素直に言ったら「喧嘩売っとんのかワレェ!」ってなるに決まってる。

 だから公の場では言えない。

 言ったが最後、本格的な派閥争いが起こって国が荒れかねないから。

 こういうのは水面下でやる。

 それが貴族社会。


 だからこそ、その水面下であるこの場で言った。

 それでも重大な意味を持つ発言には変わりない。

 だって、事実上の敵対宣言だもん、これ。

 私は旧第二皇子派と敵対しますって、ノクス達に向かって宣言したに等しいのよ。


「……思い切りましたね、セレナ。まだ証拠が何もない状態でそんな事を口にするとは」

「証拠が出てくるまで待っていては遅いと思ったので」


 そんな事してたら、獅子身中の虫に腹を食い破られる。

 ゲームで帝国が負けた理由の四割くらいは、連中の対処が遅れまくった事にあると思ってるからね私は。

 幸い、ファーストアタックのダメージを最小限に抑えられた今なら、連中に対処する余裕がある筈だ。


「旧第二皇子派と繋がりのある人間は辺境へ左遷……では反乱軍に吸収される恐れがありますね。

 ガルシア獣王国辺りとの戦争にでも投入して、反乱軍関連の出来事から遠ざける事を具申いたします」

「難しい事を軽く言ってくれるな……だが、旧第二皇子派はほぼ壊滅状態だぞ。そこまでする必要があるか?」

「油断大敵ですよ、ノクス様。派閥が壊滅状態ではあっても、個人としてなら残っている者もいるじゃないですか」


 確かにノクスの言う通り、旧第二皇子派は現在ほぼ完全に壊滅状態だ。

 リヒトが皇帝との直接対決で死亡し、帝位継承争いに負けた後は、皇帝による大粛清で主要人物の殆どが処刑され、末端の奴も同じく粛清されたり、閑職に追いやられたりした。

 割と最近知った事だけど、私の母親の実家も旧第二皇子派の末端だったらしく、それで力を落としてたらしい。

 だから私の扱いがあんなに悪かった訳だ。

 妙に納得すると同時に、そんな状況でも輝いてた姉様すげぇと思った。

 あと、結局全部皇帝のせいじゃねぇかとも思って殺意が増した。


 それはともかく。

 その大粛清のせいで、現在の旧第二皇子派はほぼ壊滅状態であり、影響力は皆無に等しい訳だ。

 でも、残る所には残ってる。

 帝国は実力主義だから、旧第二皇子派というビハインドを覆せるくらい優秀なら出世する事も不可能じゃないからね。

 母方の実家が旧第二皇子派なのに皇帝の側室にされてしまった姉様みたいに。

 あと、六鬼将になってる私も一応それに該当するのか。

 そう思うとムカムカしてくるけど、その感情は無理矢理脇に置いておく。


 で、序列二位の裏切り爺とかは、その最たる例な訳だよ。

 あの爺は帝位継承争いの決着寸前で皇帝に寝返ったらしいけど、直前まで敵方だったくせに六鬼将の序列二位やってる訳だから。

 まあ、ゲーム知識によると、それはリヒトの指示だったらしいけどね。

 敗北と自分の死を悟ったリヒトが、最も信頼する部下の一人だった爺に希望と生まれてくる我が子を託すべく、寝返らせて生き残らせたっていうのが真相らしい。


 まあ、つまり何が言いたいのかというと。


「私が最も疑い最も警戒しているのは、元は旧第二皇子派の重鎮であり、現在でも相当の力を残している人物。

 六鬼将序列二位『賢人将』プロキオン・エメラルド様です。

 もしも本当にプロキオン様が帝国を裏切っており、反乱軍の裏にいるのならば大変な事になるでしょう。

 あの方自身をどうこうする事は無理でも、万一を考えれば、あの方の手駒になりうる旧第二皇子派の人間だけでも一掃しておいた方がいいと思います。

 最低でも、反乱軍を完全に鎮圧するまでは遠ざけるべきかと」


 私はハッキリとそう言った。

 歯に布なんて一切着せない。

 言いにくい事でもズバッと言って、革命成功の可能性はとことん摘み取る。

 その為ならば、


「当然、お疑いであれば私の事もしばらく遠ざけて頂いて結構です。

 一応は私も旧第二皇子派と関わりのある身ですから」


 私自身が革命軍から遠ざかる事も辞さない。

 私がいなくても、裏切り爺を欠いた革命軍なら他の六鬼将で確殺できる筈だ。

 なら、なんの問題もない。


 そんな私の意見に対する反応は、


「え、お前旧第二皇子派と繋がりあったのか?」


 という、レグルスの呆けた顔だった。

 ガクッとずっこけて力が抜けた。


「レグルス……あなた、身内の血縁関係くらい把握しておきなさい。

 セレナの生母は旧第二皇子派の末端だったシリカ男爵家出身です。

 それに、旧第二皇子派と似た考えを持っていたエミリア様の妹でもある。

 客観的に見れば怪しく見えなくもないんですよ。客観的に見ればね」


 プルートの言い方は凄い含みがあった。

 私が裏切る訳ないと確信してるように見える。

 はて?

 その心はなんだろう?


「つっても、セレナが裏切るとは思えねぇなぁ」

「でしょうね」

「なんでそこまで断言できるんですか……」


 私はそんな疑問を思わず口に出してしまった。

 そしたら「は?」と言わんばかりの顔で全員に見られた。

 え?

 何?

 思わず首をかしげると、三人を代表するかのように、ノクスが呆れたような顔で聞いてきた。


「セレナ、お前は反乱軍をどう思っている?」


 いきなりなんだと思ったけど、上司に聞かれたなら素直に答える。


「ルナを危険にさらすかもしれない危険な連中です」

「言うと思った。そして、それが答えだ。お前が裏切らないと思える根拠のな」

「……なるほど」


 私がルナを危険にさらすような真似なんかする訳ないと確信を持たれてるのね。

 正解だよ。

 さすが長い付き合いと言うべきか。


「とにかく、セレナの提案については考えておこう。

 だが、旧第二皇子派やプロキオンが犯人と決まった訳ではなく、セレナの予想が外れている可能性もある。

 よって、これからの動きはそれらも考慮に入れた上で決定する。

 異議はあるか?」

「いえ、ありません」

「俺もねぇな」

「同じく」


 ふぅ。

 これで一安心、とまでは言えないけど、最低限次の局面の先手は打てたかな。

 ノクスは考えると言えば考えてくれるし、数日以内には結論を出してくれるだろう。

 その結論がどうであれ、最低でも裏切り爺に疑いの目が向けば充分だ。

 ノクスに牽制されれば、さぞ動きにくかろう。

 それだけでも結構な効果がある。

 今日、話をした意味はあった。


 そうして少し気を抜いた瞬間、私の探索魔術が高速でこの部屋に接近してくる存在を感知した。

 こ、この気配と魔力反応は!?


「では、今日はこれにて解散……ん?」


 どうやらノクス達も気づいたらしい。

 三人とも部屋の外に意識を向けてる。

 ヤバイ!

 と思っても動く暇はなく、高速接近反応が扉をバーンと勢いよく開いて襲来してしまった。


「おねえさま!」

「ルナ!」


 そうして現れた小さな人影、ルナは他の面子を無視して私の胸にダイブしてきた。

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