28 開幕戦被害状況
まるでアイ◯ンマンの如く、鎧一つで音速飛行しながら革命軍を殲滅していく。
やってる事は、なるべく帝国軍を巻き込まないようにしながら、氷結世界で革命軍の大部分を氷漬けにするだけだ。
これだと、身体強化の効果を持った魔導兵器を支給されてる革命軍の上級戦士以上は倒せないかもしれないけど、それは仕方ない。
だって、音速飛行したまま、しかも遥か上空から狙った部分だけをピンポイントで攻撃するのって凄い大変なんだもん!
マッハで飛んでる戦闘機を操縦しながらゴルフボールを投げて、ゴルフ場にあるゴルフカップの中にホールインワンさせるくらい難しい。
ノクス達から馬鹿みたいな精密コントロールとお墨付きを貰ってる私の魔術でも、さすがにそれは無理。
なら、狙いが大雑把である程度は誤魔化しが利く範囲攻撃であり、非殺傷魔術だから多少は味方を巻き込んでも安心な氷結世界をぶっ放つのが一番だと判断しました。
これならゴルフ場ごと凍らせるくらいに難易度が下がるし。
狩り残しは出ちゃうけど、それくらいなら現地の戦力で潰せるでしょ。
何?
そんな事するくらいなら、素直に高度とスピード落とせって?
そうしたら回れる領地の数が減るやん。
今回の目的はファーストアタックのダメージを少しでも抑える事なんだから、それはできんのですよ。
そんな感じでアイ◯ンマンをやる事、数時間。
それくらい経つと、革命軍が一斉に退却を開始した。
敵の被害状況も味方の被害状況もガン無視で撤退だ。
ゲームで見た時から思ってたけど、思い切りが良すぎる。
勝利目前とか、勝利した後とかでも撤退するんだもん。
でも、その戦略は非常に正しい。
たとえ領主を討ち取って勝利したとしても、調子に乗ってその場に留まってたら、六鬼将とかが援軍に来て狩られちゃうからね。
前に暴走した末端の人達みたいに。
今の革命軍に、いくつもの領地を奪って拠点として制圧し続ける程の力はないのだ。
多分。
だから、革命軍の今回の目的は領地という拠点の奪取ではなく、一人でも多くの騎士や貴族を減らして帝国の戦力を削ぐ事。
それが成功したかどうかは、これから聞く被害状況次第で判断するよ。
まあ、私の反撃で数万人は氷漬けにしたし、一方的な完全敗北って事はないと思うけどね。
そうして戦闘を終え、砦に戻って戦後処理を進めておく。
革命軍が現れても私の仕事は減らなぁい。
おのれ、ブラック帝国。
そんな感じで呪詛を吐きながら仕事をし、革命軍の一斉蜂起から数日が経った頃。
「セレナ様。帝都より召集命令が届いております」
「わかりました」
ようやく呼び出しがかかった。
遅いとは言うまい。
戦争中に起こった突然のトラブルだった事を考えれば早いくらいだ。
その呼び出しに応じて、砦に設置されている転移陣で帝都へと戻る。
そして、久しぶりに謁見の間へ行き、殺したくて殺したくて仕方がない奴と顔を合わせた。
「セレナ・アメジスト、ただいま参上いたしました」
「うむ」
玉座に座りながら鷹揚に頷くのは、ぶち殺したい奴筆頭である皇帝。
でも、さすがに恨みの根幹である姉様の死から3年も経てば少しは冷静に対応できるようになった。
内心のマグマのように煮えたぎる憎悪は変わらないけど、少なくとも表面上は。
そして、皇帝以外でこの場にいるのは、前と同じようにノクスと六鬼将の面々。
ただし、いない奴と余計な奴がいる。
余計な奴は、どことなくプルートに似てる気がする頭脳労働担当って感じの奴が数人。
顔見た事あるわ。
確か、序列一位の人の直属の部下だったっけ?
序列一位の人は軍部の頂点なので、あの人達はさしずめ軍部の頭脳ってところかな。
多分、報告係か何かだと思う。
逆に、いない奴は序列二位の裏切り爺。
六鬼将は全員召集されてるって話なので、爺は遅れてるっぽい。
撤退した革命軍に指示する為の早馬でも手配してるんだろうかね。
と思ってたら、私のすぐ後に再び謁見の間の扉が開き、裏切り爺がやって来た。
「おっと、儂が最後か。遅れて申し訳ない。プロキオン・エメラルド、ただいま参上いたしましてございます」
いけしゃあしゃあとよく言うなぁ。
でも、これで役者は揃った。
会議が始まる。
「では、今回発生した平民の一斉蜂起について、我々から状況を報告させて頂きます」
そうして話し出したのは、私の予想通り序列一位の部下の人。
手に資料だか報告書だかを持って進行役を務める。
「現在判明している限りですと、襲撃を受けた領地の数は41。内、男爵領29、子爵領12。伯爵領以上への襲撃は確認されておりません」
『!』
「なんと」
六鬼将の面々が驚愕の表情になり、皇帝ですら少しだけ顔色を変え、爺が白々しく「なんと」とか抜かした。
しかし、41か。
今の帝国には80前後の領地(しょっちゅう統廃合で数が変わるけど)があるから、約半分の領地が襲撃を受けた事になる。
革命軍頑張ったなー。
そこまで根回しするのに、いったい何年かけたんだろう。
まあ、それはともかく、
「それで、落ちた領地はどれくらいですか?」
私は一番聞きたかった事を直球で聞いた。
それによって今後の難易度が変わってくるんだから、焦らさずにさっさと話してほしい。
「はい。陥落が確認されたのは男爵領7、子爵領2、合計9の領地が敵の手に落ちました。
もっとも、敵軍は領土を占領する事なく撤退したとの事なので、この言い方は適切ではないかもしれませんが」
「マジで!?」
「クソッ! そんなにかよ!?」
「敵国との戦争で僕達が動けなかったのが痛いですね……」
ミアさん、レグルス、プルートがそれぞれ嘆きの声を上げる。
ノクスも頭痛が痛いみたいな顔してるし、序列一位の人は眉間に皺寄せて怒髪天って感じだ。
皇帝は呆れるを通り越して感心したみたいな顔してる。
裏切り爺は表面上深刻そうな顔してた。
私?
私は氷の無表情しながら内心でホッとしてるよ。
だって、一桁の被害で済んだんだよ?
ゲームでは国が傾きかねない程の被害が出てた事を考えると、これは大勝利と言っても過言ではないんでない?
ちっこい領地がちょっと減ったくらいなら、他の領地に吸収合併するなりしていくらでも取り返しがつく。
まあ、あくまでも完全にやられた領地が9ってだけで、大打撃受けた領地とか含めたら結構な被害なんだろうけど。
それでも想定してたより遥かに傷は浅い。
私が飛び回って反撃したのと、戦争を減らしてその分の戦力を各地に配置したのが大きいと見た。
やったね!
「そして、細かい被害状況ですが━━」
その後、会議は正確な被害状況の報告が行われ、今後の私達の動き方が決まったところで解散となった。
裏切り爺が真っ先に去って行き、他の面子も続々と去って行く。
そんな中、私はノクス、レグルス、プルートの三人にこっそりと声をかけた。
「ノクス様、レグルスさん、プルートさん。この後、少しお時間よろしいでしょうか?」
「お? なんだ逆ナンか? 今のお前なら歓迎するぞ」
「レグルス」
「寝言は寝て言いなさい」
「わかってるよ。ちょっとした冗談だっての。っておいセレナ!? なんだその汚物を見るような目は!? マジで傷付くからやめろ!」
「失礼しました。一瞬、レグルスさんがゴミに見えてしまったもので」
「……お前、最近遠慮がなくなってきたよな。いや、いい事なんだけどよ」
まあ、かれこれもう5年くらいの付き合いになるからね。
そりゃ遠慮なんてなくなってくるよ。
だからこそ、つい思った事が顔に出てしまった。
私の貞操は姉様のものなので、冗談でも私をそういう対象として見ないでほしい。
本当に必要なら身体を売る覚悟もあるけど、できればあの世で姉様と再会するまで清い身体でいたいんだよ!
「では、レグルスさんの戯れ言は置いておくとして」
「戯れ言て……」
「真面目な話があるので、この後お時間よろしいでしょうか?」
あえて言い直した私の言葉に、三人は神妙な顔をして頷いた。