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27 革命開始

 主人公が生きていれば物語が始まったであろう春を通り過ぎ、現在の季節は初夏。

 ここ最近、帝国内の貴族が不審死する事件が何件か起こり、ああこれ革命軍の仕業かなー、主人公参加してんのかなー、と気を揉みながら仕事に精を出す今日この頃。

 ゲームの序盤であったんだよねー、この貴族狩りイベント。


 言ってみれば、これはチュートリアルな訳ですよ。

 某海賊漫画で言うところのイーストブルー編。

 某忍者漫画で言うところの波の国編。

 本格的に本編が始まる前の、言わば序章。

 もし主人公が生きてたら、この貴族狩りで実戦経験を積んで少しずつ強くなり、その中で頼れる仲間達に出会っていく訳だ。

 ヒロインのルルとか、後に親友になるライバルキャラのデントとかとね。

 

 ぶっちゃけ、主人公が生きてるなら、まだ強くないこのチュートリアル期間の内に殺しちゃいたい。

 時期はわからないけど襲撃される貴族の名前はいくつか知ってるから、上手くすれば序盤の街に四天王が現れるみたいな、あるいはイーストブルー編で四皇が襲来するみたいな詰み状態にできたかもしれない。

 でも、結局それはできなかった。

 原因は私の労働環境の過酷さだよ。


 六鬼将の仕事忙し過ぎる……。

 帝国どんだけ戦争大好きなんですかねぇ?

 戦っても戦っても敵が尽きないんですけど!

 どんなに早く仕事終わらせても休暇は一ヶ月に一度が限度だし!

 その休暇も、ルナの様子を見たり、ルナの護衛アイスゴーレムを増やしたり、ルナの呪い解除方法を調べたり、ノクスに連れられて強制的に社交したりしてる内に終わっちゃうし!

 ブラック企業だ!

 ブラック帝国だ!

 そんな状況で、いつ来るかもわからない主人公を出待ちなんてできるかボケェ!


 という訳で、私が序盤で降臨する事はできませんでした。

 勇者が強くなる前に四天王が襲って来ないのにもちゃんとした理由があったんだね。

 今まで悪役側の職務怠慢だとか思っててごめんなさい。

 むしろ、仕事熱心な奴ほど勇者襲撃してる暇なんてないんだと身を以て知ったよ。


 代わりに、私の進言により前の革命軍の末端暴走事件を重く受け止めたノクスによって、他国との戦争の数を減らして手の空いた騎士が各所に派遣されたから、それで我慢するしかない。

 その騎士の中には一級騎士もいる。

 あいつらだって六鬼将の一つ下の階級は伊達じゃないって事で、序盤の主人公なら確殺できるくらいには強い筈だ。

 他の貴族どもが革命軍を軽視しまくってる中でこれだけの対応をしてくれたんだから、これ以上を望むのはさすがに高望みが過ぎるってもんでしょ。


 そう。

 貴族どもは革命軍を軽視しまくってるんだよね。

 前に領地が一つ潰されてるって言うのに「男爵が一人やられたようだな」「だが、奴は貴族の中でも最弱」「平民ごときにやられるとは貴族の面汚しよ」って感じで、自分達までやられるとは微塵も思ってないらしく、まるで危機感がない。

 最近の貴族連続不審死事件も、どこぞの貴族が起こした派閥争いの一環だと思ってるみたいだ。

 そんなんだから、ゲームじゃ革命軍の噛ませみたいにあっさり狩られるんだよ!


 別にクソ貴族がいくら狩られようと構わないけどさー。

 それが帝国の戦力低下に繋がって、革命軍との戦いが負け戦化するのは困る。

 もっと危機感持てよぉ! と叫びたくなる状況で、他国との戦争を減らしてまで戦力を革命軍討伐に傾けてくれたノクスマジ名君。

 なのに、そんなノクスのおかげで戦争が減っても尚仕事が減らない六鬼将の社畜っぷりよ……。


 まあ、戦争って「やめよう!」「はいオッケー」で済むほど簡単なもんじゃないから仕方ないんだけども。

 停戦交渉は大変だし、それを少しでも早く楽に済ませる為に六鬼将が敵軍に大打撃与えて「これ以上やったら私らが全滅させちゃうよ?」「今やめるんならしばらくは攻めないでおいてあげるんだけどなー(チラッ)」って感じで脅してる訳だから、仕事が減らないのも仕方ないんだ。


「くっ、殺せ!」


 そんな脅し外交の為の戦争も、今回ので一区切りがつく。

 2年以上かけてやっと一区切り……長かった。

 今、私の目の前には、四肢を切断されて転がっている敵軍の指揮官だった人が。

 敗戦目前で一縷の望みをかけてこっちの砦に突貫し、見事返り討ちにされた哀れな人である。

 ちなみに、こんな台詞を吐いてるくせに、女騎士ではなくおっさんだ。

 レグルスがいたら苦情が殺到してたかもしれない。


「では、遠慮なく」


 私はくっ殺おじさんの首を氷刃(アイスエッジ)という魔術で斬り裂き、絶命させる。

 この人は敵国で英雄と呼ばれてた人みたいなので、この人の首があれば脅し外交もなんとか纏まるだろう。

 そして、この国と停戦協定が結べれば、ノクスが停戦を宣言した国との戦争は全て終わる。

 残ってるのは、向こうに引く気がないとか、どうしても引けない事情があるとか、そういう国だけだ。

 そっちは序列四位のミアさんが受け持つ事になってるので、他の六鬼将はノクス指揮の下、これから革命軍の炙り出しを行う予定。

 例外は皇帝を直接警護する近衛騎士団の団長をやってる序列一位の人だけだ。

 つまり、革命軍のスパイである序列二位の爺も参加する事になる。

 ……そこはかとなく嫌な予感がするけど、奴が本格的に裏切るのはゲーム終盤辺りの筈だから多分大丈夫……かなぁ?

 バタフライエフェクトが心配だ。

 警戒は怠らないようにしとこう。


 そんな事を考えながらくっ殺おじさんの首を氷漬けにし、敵国へのお土産を完成させた、その時。


「セレナ様! 帝都より伝令です! 帝国各地にて平民の一斉蜂起があったもよう! 手の空いている六鬼将は直ちに現場へと急行されたしとの事です!」

「……そうですか」


 部下の一人がまさかの報告を持ってきた。

 このタイミングで、まさかの革命開始である。

 詳しく描写されてなかったから確証はないけど、ゲームの時より随分早いんじゃない?

 しかも、これから六鬼将が集結して、いざ革命軍退治! の直前で一斉蜂起ってさすがにタイミング良すぎるよね。

 おまけに、今は私を含めた六鬼将の殆どが最後の脅し外交の為の戦争で出払ってる状態だから、マジでベストタイミング。

 間違いなく裏切り者の爺の指示だろうなー。

 向こうの準備が整ってるかは知らないけど、これ以上待ってたら不利になる一方だと悟って先制パンチを打ってきた感じだと思う。

 このファーストアタックのダメージをどれだけ抑えられるか。

 それが今後の戦いを大きく左右するだろうね。

 頑張らないと。


「襲撃を受けた領地はわかっていますか?」

「いえ、かなりの数の男爵領、子爵領が襲撃を受けているようで、正確な位置情報は把握できていないとの事です! ただし、伯爵領以上の領地には今のところ敵影なしと!」

「なるほど。わかりました」


 そこら辺はゲームで解説されてなかったから知らなかったけど、まあ、予想通りってとこかな。

 伯爵領以上の領地には転移陣があるから、そこから六鬼将とかが送られてくるのを警戒したんだろうね。

 伯爵以上を襲うとすれば、革命軍の中でも最強の特級戦士がスパイのように忍び込んで領主を暗殺って形になると思う。

 それに関しては現地の騎士と帝都からの援軍に任せよう。

 ノクスの指示で護衛騎士が増員されてる以上、そう簡単には落ちない筈だ。

 となると、私がするべきなのは……


「私は先行して少し遠くの領地にいる敵を殲滅します。

 あなた達は少数精鋭の部隊をいくつか結成し、ここから最も近い領地のいくつかへと派遣しなさい」

『ハッ!』


 部下達が敬礼し、私の指示に従って動き出す。

 帝国騎士という事で性根の腐った奴が多いとはいえ、こいつらだって戦争を何度も経験してる強兵には違いないんだ。

 少しは役に立つだろう。


「では、作戦開始!」


 言うが早いか、私は氷翼(アイスウィング)を展開し、目的地へ向けて飛び立った。

 さあ、戦争開始だ。

 首を洗って待ってろ革命軍。

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