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勇者の目覚め 3

 連れて行かれたのは、やけに豪華な寝室みたいな部屋だった。

 バカみたいに大きくて、なんか屋根みたいな物が付いてるベッドがある。

 そして、そのベッドの上に俺が探していた人がいた。


「看板娘さん!」

「え……お、お客さん!?」


 痛む身体を無理矢理動かして駆け寄ろうとしたが、鎧の人達に押さえつけられて動けず、ただ痛みに呻く事しかできなかった。

 そんな俺を見て嘲笑う男がベッドの上にいる。

 看板娘さんを連れ去ったデップリと太った男だ。

 村を襲った貴族にどこまでも似た男だ。


「グフフ。やはり、お前の目当てはこの娘であったか。

 連れて来たその日の内に追って来るとは、余程大事な女なのであろうなぁ」

「ひっ!? いや……!」

「やめろぉ!」


 男が看板娘さんを嫌な手つきで撫で回す。

 それを見ても、さっき女の子のパンツを見た時みたいな劣情は欠片も感じない。

 そんな考えを浮かべる余裕がない。

 ただ、嫌がる女の子を無理矢理襲う奴への怒りと、それをやられた看板娘さんへの心配だけが頭を埋め尽くした。


「こ、こいつ!?」


 もっと力を込めて抵抗する。

 身体が悲鳴を上げるが、知った事じゃない。

 今、看板娘さんを助けられるのは俺しかいないんだ。

 どんなに弱くて無力でも、俺しかこの場にいないんだ。

 だったら、俺が助けなきゃ!


「おとなしくしろ!」

「ぐはっ!?」

「お客さん!」


 鎧の人の一人に腹を殴られ、その痛みで身体が硬直してしまった。

 その隙に、他の鎧の人達によって更に強く押さえつけられる。

 またしても、俺の抵抗は無駄に終わった。


「こいつ……なんて馬鹿力だ」


 鎧の人達がそんな事を呟いていたが、俺にそれを聞く余裕はなかった。


「グフフ。お前には何もできんよ。愛する女がワシの物になるのを絶望しながら見ているがいい。そして、その絶望の中で殺してやろう。いい余興じゃ!」

「あぐっ!?」

「看板娘さん!」


 男が看板娘さんの服を引き裂き、ベッドの上に押し倒した。

 このままじゃ!

 このままじゃ看板娘さんが!


「ああああああああ!」

「なっ!?」


 俺は最後の力を振り絞って抵抗した。

 強くなりたい。

 強くなりたい。

 強くなりたい!

 看板娘さんを助けられるくらい強く!

 強く、動け、俺の身体!


「ば、馬鹿なっ!?」

「何っ!?」


 外れた!

 外せた!

 鎧の人達の拘束! 

 身体に力が漲る。

 今ならいける!


「その人から離れろぉ!」

「グフッ!?」


 俺は男に駆け寄り、思いっきりその顔面を殴り飛ばした。

 村を襲った奴を倒した時と同じように。

 俺の拳を食らった男は、まるでボールのように跳ねて部屋の壁にめり込んだ。


「い、痛いぃいいいい!? ワ、ワシの身体強化を貫くじゃとぉ!? 何者じゃ貴様ぁ!?」

「俺はただの平民だ! お前らの事が許せないただの平民なんだよ!」


 俺は感情のままに叫びながら、看板娘さんを後ろに庇う。

 力が漲っても、身体中が痛いのは変わらない。

 気を抜いたらすぐにでも倒れそうだ。

 でも、倒れない。

 この人を無事に家に帰すまでは、絶対に倒れない!


「殺せ! こやつを殺せぇ!」

『ハッ!』


 男が狂乱しながら叫び、鎧の人達が剣を脱いた。

 そして、それで斬りかかってくる事なく、剣の切っ先を俺に向ける。

 あの動きは知ってる。

 捕まる時にさんざん見た。

 あの剣の先からは、村を襲った奴が使ってた火の球みたいなのが飛び出してくる。

 でも、避けたりここを動いたりしたら看板娘さんが危ない。

 受け止めるしかない!


「『火球(ファイアボール)』!」

「『風球(ウィンドボール)』!」

「『土弾(アースボール)』!」

「ぐぉおおおおおお!」

「お客さん!?」


 耐える。

 耐える。

 耐えるしかない。

 持ってくれ俺の身体!

 なんとか逆転のチャンスを見つけるまで!


「まだ倒れないだと!?」

「信じられん!」

「化け物かこいつは!?」

「危険だ……! なんとしてでもここで殺すぞ!」

『ハッ!』


 鎧の人達が顔色を変えて、攻撃がより苛烈になった。

 俺を生かしておけないと、なんとしてでも殺すという強い意志が伝わってくるみたいだ。

 それを耐えて、耐えて、耐えて。

 もう痛みすら感じなくなってきた頃……唐突に攻撃が止んだ。

 

「ふぅん。ただの変態じゃないみたいね」

「がっ……!?」


 そして、そんな声が聞こえてきた。

 掠れてきた目を凝らして、なんとか前を見ると、そこにはさっきの女の子がいた。

 ボロボロの服を着た女の子が、手に大振りのナイフを持って、鎧の人達に突き刺している。


「白パンツの……」

「誰が白パンツよ!」

「ギャアアアアアアア!?」


 咄嗟にそう言ってしまうと、女の子は顔を真っ赤にして怒りながらナイフを引き抜き、その引き抜いたナイフで別の鎧の人を斬った。

 そして、華麗な動きで次々に鎧の人達を殺していく。

 俺が手も足も出なかった人達が、こんな簡単に……。


「ひ、ひぃいいい!? き、貴様何者じゃぁ!?」


 最後に残った男が叫ぶ。

 叫びながら、どこからか取り出した小さな杖を女の子に向けている。

 それを見て、女の子が駆けた。

 鋭い殺意の籠った目を男に向けて。


「ふぁ、『火球(ファイアボール)』!」


 男の構えた杖の先から、巨大な火の球が飛び出した。

 村を襲った奴や、さっきの鎧の人達より遥かに大きくて熱い。

 それを前に、女の子は欠片も怯まなかった。


「『魔力刃』!」


 女の子の持ったナイフから薄い光の塊のような刃が伸び、それが火の球を真っ二つに切り裂いた。

 女の子はそのまま凄いスピードで一直線に走り抜き、男の首筋をナイフで一閃する。

 鮮血が舞った。


「がっ……!?」

「冥土の土産に教えてあげるわ。あたしは革命軍のルル。あんたらみたいな外道を地獄に落とす女よ。

 よく覚えて死になさい、このクソ野郎」


 男が倒れ、ピクリとも動かなくなった。

 そして、ルルと名乗った女の子は、優しい顔をして俺に近づいて来る。


「よく頑張ったわね。あんたは変態だけど、体張って女の子守ったのは評価に値するわ。

 もう大丈夫。あたしが纏めて助けてあげるから」


 そう言うルルは凄くカッコよくて、俺はこういう強くてカッコいい奴になりたいと、心からそう思った。






 ◆◆◆






 その後、ルルは捕まっていた女の人達を全員解放し、事前に仕掛けていたという爆弾で屋敷のあちこちに火を付けて、全てを有耶無耶にした。

 でも、これは……


「やり過ぎじゃ……」

「はぁ? あんた何言ってんのよ。

 あんなクズに情けも容赦も無用だし、それにこのくらいしないと他の貴族に色々とバレるのよ。

 あの娘達だって、ここに居た痕跡を完全に消さないと、貴族の屋敷から逃げ出した罪で殺されるわよ」

「なっ!?」


 そんな事になるのか!?

 俺の脳裏に、涙目で「ありがとうございます……!」と連呼する看板娘さんの顔が過った。

 あの人がまた理不尽な目に合うというのなら、確かに容赦なんてしちゃいけない。

 でも……


「心配しなくても、下働きとか罪のない人達のいる場所に爆弾は仕掛けてないわよ。革命軍はクソ貴族どもとは違うんだから」

「そ、そうなのか?」


 それを聞いて少し安心した。

 無関係の人達が巻き込まれていないのなら、納得できる。


「……まあ、それでもどうしようもない時は巻き込んじゃうかもしれないけどね。

 あんたもその覚悟は決めておきなさいよ。

 これから革命軍に入るんだから」

「それは…………え?」


 なんか今、予想外の事を言われたような気がする。

 え?

 俺が?

 革命軍に?


「何よ、嫌なの? あんた、聞けば会って一日もしないあの娘を命懸けで助けようとするくらいには正義感も行動力もあるんでしょ?

 才能もあるみたいだし、それを革命軍で活かしてみないかって言ってんのよ」

「……できるのかな、俺に」


 こんな弱くて無力な俺に、革命なんて大それた事ができるんだろうか。


「できるできないじゃなくてやる。弱かろうがなんだろうが、命懸けで戦って、死ぬ気で戦って、この腐った国を変える。

 その覚悟があれば加入資格は充分よ。

 で、どうするの? やる?」


 そうして差し出された手に、俺は少し迷った。

 でも、少しだけだった。

 俺は理不尽が許せない。

 俺と同じように理不尽に泣く人達がいて、その悲劇を生み出している連中が許せない。

 革命軍の目的がそんな奴らを倒す事なら、この理不尽な世界を変える事なら、俺は喜んで協力する。

 例え微力でも、死ぬ気で力になる。


 俺は差し出された手を、強く握った。


「そう。覚悟はあるみたいね。これからよろしく、変態」

「変態じゃない。その節は本当にごめんと思ってるけど変態呼びはやめてほしい。俺はアルバだ」

「そ。じゃあ、よろしく、アルバ。あたしはルルよ」

「ああ。よろしく、ルル」


 そうして、俺は革命軍に入った。

 この決断が少しでも人々の役に立てばいいと、そう願って。


 父さん。

 俺、頑張ってみるよ。

 危ない事するなって父さんは怒りそうだけど、ごめん。

 これが俺のやりたい事で、これが俺の決めた命の使い方なんだ。

 だから、だからどうか、天国から見守っていてください。


 俺は形見のペンダントを握り締めながら、父さんがいるかもしれない空を見上げた。

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