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14 壊れてでも守りたいものがある

 私は再び鳥型アイスゴーレムを飛ばし、学園へと戻って来た。

 そこに目当ての人物がいるかどうかは賭けだったけど、どうやら私は賭けに勝ったらしい。


「ただいま戻りました、ノクス様」

「セレナ! いきなり飛び出して行って何があったん……っ!?」


 そこまで言ってから、ノクスは私の顔を見て顔を強張らせた。

 今の私は酷い顔をしている自覚がある。

 涙の跡は目立つだろうし、正直、心労で倒れそうなくらい精神は限界に近い。

 強行軍で体力も使ってしまったから、顔色は相当悪いだろう。

 有り余っているのは魔力だけだ。


 でも、そんな事は関係ない。

 事は一刻を争う。


「ノクス様、お願いがあります」

「……言ってみろ」

「先程、我が姉エミリアが亡くなりました」

「なっ……!? なんだとっ!?」

「つきましては、未だ後宮に取り残されている姉の娘、第四皇女ルナマリア様が心配です。

 母を亡くした以上、もう後宮にはいられないでしょう。

 私が後見人となって預かろうと思っているのですが、その旨を皇帝陛下に進言して頂きたいのです」

「わ、わかった」

「では、私はその為の手続きに取り掛かります。申し訳ありませんが、本日は生徒会を早退させて頂きます。それでは」

「待て!」

「……なんでしょうか?」


 ノクスに一礼して、手続きの為に城に行こうと思ったのに、引き留められてしまった。

 私は酷く冷めた目でノクスを見る。

 この急いでる時に、なんの用があると言うのだろうか。


「その手続きも私がやっておく。お前はもう休め」

「必要ありません」


 何を言うかと思えば、そんな事か。


「それに、ノクス様お一人よりも私と合わせて二人で動いた方が早い筈です」

「人手なら私の部下で充分だ。それにレグルスとプルートもいる。あの二人は仕事中だが、無理をすれば外せるだろう。

 そして、レグルスはともかく、プルートの事務仕事はお前よりも早い」

「それは……」


 それは、言われてみれば確かに。

 でも、私が動かないと。

 ルナの為に私が動かないと。


「それに、お前は今酷い顔をしている。心労と疲労が顔に出ている。

 そんな体調の者に仕事をさせてもロクな結果にはならん。休め」

「ですが……」

「上司としての命令だ。休め」


 うっ、強権を発動されたら私には逆らえない。

 ノクスの助力はルナを助ける為に必要不可欠なんだ。

 機嫌を損ねる訳にはいかない。


「………………わかりました。それでは、本日は休ませて頂きます」

「そうしろ」

「はい」


 そうして、私はとぼとぼと生徒会室を出る。


「すまなかった……!」


 背後から聞こえてきたノクスの声を、聞こえないふりをしながら。






 ◆◆◆






 その後、私は寮の自室へと戻り、メイドスリーに事の顛末を話した。

 三人とも最初は理解できない、理解したくないという顔をし、最後は泣きそうになるのを必死に堪えて私を慰めてくれた。

 誰一人として私を責めなかった。

 それが辛くて、そして嬉しかった。

 私にはまだ、こんなに優しくて頼りになる同志がいる。

 そう思えば、ほんの少しだけ気力が戻った。

 また涙が出てきた。


 そしたら、それを見てメイドスリーも堪えきれなくなったみたいで、4人して盛大に泣いた。

 ここがアパートだったら、近所から苦情が殺到するレベルの大声で泣いた。

 私達は悲しみを分かち合って、ほんの少しだけ救われたような気がする。


 そして、私は改めてメイドスリーに告げた。

 私と共に、姉様の忘れ形見であるルナを守ってほしいと。

 彼女達は一も二もなく、私と同種の決意と覚悟を秘めた顔で即答した。


 私達は何があろうとも、どんな事をしてでも、今度こそ大切な人を守る。

 それが叶わなかった時は、全ての仇を殺してから死ぬ。

 改めて、4人でその誓いを立てた。


 私はとても勇気づけられた。






 ◆◆◆






 そして、私は休めと言ったノクスの言葉を無視し、こっそりと学園を抜け出して、ある場所へとやって来た。

 休む前に済ませておかなきゃいけない事があるのだ。

 こればっかりは私にしかできない。


 私が向かった場所は、我が実家であるアメジスト伯爵家が帝都に構えている別邸。

 そこにいるのは、私とエミリア姉様に感謝する使用人ばかり。

 私の要求はあっさりと通り、地下の転移陣を使って領地の方の本邸へと戻って来た。

 そして、クソ親父のいる執務室へと向かう。


「どうも、お父様」

「……なんの用だ?」


 そこでクソ親父に命令する。

 ルナを迎え入れる準備をする為に。


「突然ですが、家族を全員集めてください。仕事の補佐をしている使用人と一緒に」


 さあ、大掃除を始めようか。

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