80 最後の戦い
「『氷翼』!」
正真正銘の最後の戦い。
私が選んだ戦術は、氷翼による飛翔だった。
バトルステージである今の謁見の間は、ワールドトレントのせいで天井が吹き飛んでる。
だから、近距離戦はアルバ達に任せて、私は上空からひたすら遠距離攻撃でチクチクやるのも戦術としては間違ってない。
でも、今の私ならもっと上手く飛べる気がした。
従来の氷翼なら、戦闘機みたいな直線的な飛行しかできない。
アルバみたいな立体機動なんて到底無理で、とても近距離戦で使える魔術じゃなかった。
だけど、今の私は雪女の因子を取り込んだ氷の化身。
今なら自分の身体すら、これまで散々精密操作を続けてきた氷と同じように動かせる。
冷えてクリアになった頭は、より繊細なコントロールを可能とした。
できる。
そんな確信があった。
私は氷の翼をはためかせ、皇帝に向けて一直線に飛翔する。
「愚かな!」
正面から突っ込んだ私を、皇帝は剣を振るって出した闇の斬撃で迎え撃った。
斬撃と言っても、形を保ててない不定形の闇の塊みたいな攻撃だ。
精密さの消えた稚拙な魔術。
体内に打ち込まれた光の魔力のせいで、自分の魔力をかき乱されて、ロクな魔術が使えなくなってるんだろう。
だけど、精密さはなくても、威力と大きさはさっきより上がってる。
多分、攻撃に過剰な魔力を使って、無理矢理火力を上げてるんだ。
私達を倒すのに精密な魔術など必要ないと言わんばかりのゴリ押し戦法。
私はそれを、翼を細かく操って身体を右回転させ、戦闘機のバレルロールのように斜め前へと捻り曲がる事で回避した。
アルバ達も散開して今の攻撃を避ける。
そして、私は皇帝から見て左斜め上の位置を取った。
皇帝は攻撃の直後。
この隙を突く!
「その程度、読んでいたぞ!」
しかし、皇帝は既に私に向けて剣から離した左手を向けていた。
そこに不安定な闇の魔力が収束していく。
漆黒閃光だ。
ノクスも得意としてた、私の氷結光の闇属性版。
さっきワールドトレントを跡形もなく消し飛ばした魔術。
精度が落ちてるとはいえ、直撃したら普通に死ねるだろう。
でも……
「遅い」
今の私の目には、その発動が酷く遅く見えた。
私は空中で腕を突き出し、その手の平の先に後出しで魔術を構築していく。
氷の魔術がとてつもなく身体に馴染む。
前まではあんなに苦労して発動してたこの技ですら、まるで息をするように発動できてしまう程に。
「『氷神光』!」
「ぬ!?」
かつてレグルスとプルートの力を借りて発動し、ワールドトレントを芯まで凍らせて、真っ二つに引き裂いた技。
それが皇帝に向けて直進し、左手に集まっていた闇の魔力を貫通して、そのまま左腕を凍りつかせた。
遠距離に逃げず、距離を詰めてたから、皇帝が魔術を完成させる前に届いたんだ。
闇の魔力が盾になったせいでそれくらいのダメージしか与えられなかったけど、序盤でこれだけ削れれば充分。
そして……
「『氷葬』!」
「なん、だと……!?」
氷ごと皇帝の左腕を木っ端微塵に砕く。
これでもう、あの左腕は回復魔術を使っても永遠に治らない。
確実にこの後の戦闘に影響するだろう。
悪くない、どころか最高に近い出だしだ。
「うぉおおおおおお!!」
腕を失った皇帝にアルバが向かって行く。
中・遠距離は私に任せて、剣による近接戦闘を仕掛けるつもりか。
さっきは革命軍と一緒に束になってかかって、かすり傷一つしか付けられないレベルで手玉に取られてたけど、今なら多少は通用する筈。
特に、剣での戦いなら無くなった左腕の影響が大きい筈だ。
他のメンバーはアルバとは別行動する事を選んだみたい。
多分、私の広範囲攻撃を邪魔しない為だと思う。
アルバ一人なら光の翼でいつでも回避できるし、予想以上に冷静な判断だ。
指示したのはバックだな。
なんにせよ、ありがたい。
これで、あんまり周りを気にせず戦える。
それに、ここぞという時の為に、虎視眈々と皇帝の隙を伺ってくれてるのも頼もしい。
こういうのは、いてくれるだけでも敵に結構なプレッシャーを与えられるんだ。
そんな革命軍と私に背中を任せたアルバが、皇帝に向かって剣を振り下ろす。
「舐めるな! 『破滅の手』!」
しかし、皇帝はアルバの光の義手と同じように、即座に闇の義手を作り出して応戦した。
闇の義手は安定せず、形を作れなかった魔力が黒いモヤのように漏れ出してるけど、一応義手として機能はしそう。
元の腕とは比べ物にならないだろうし、光の義手に慣れてるアルバにも劣るだろうけど、それでも多少なりとも近接戦の戦力が底上げされた。
光を纏った剣と、闇を纏った剣がぶつかる。
威力は……ここまで来て、まだ皇帝の方が上。
アルバが弾き飛ばされ、皇帝が追撃に剣を振るう。
だけど、アルバは弾かれた勢いまで利用して、光の翼と衝撃波移動による超速機動を使い、私達を相手にした時みたいに四方八方から剣撃の嵐を皇帝に浴びせた。
皇帝はそれを余裕で捌いていく。
剣術スキルに差があり過ぎるんだ。
あのまま押し切る事はできない。
なら!
「『浮遊氷剣』!」
私はアルバを援護するべく、さっきの戦いで砕けた氷剣の代わりをこの場で作成した。
ただの氷剣じゃない。
そこら辺に倒れてる革命軍の人達が持ってた光の魔導兵器を、私が氷で修復して操作を可能にした、即席の対皇帝用兵器だ。
数は十本ちょい。
……さすがに、これじゃ足りないか。
私は更に追加で千本近い氷剣を作成した。
これらには光の魔力がないけど、サポートくらいにはなる筈。
そんな大量の氷剣を、私は皇帝に向かって突撃させた。
「『浮遊千氷剣』!」
飛び回るアルバの邪魔をしないように、隙間を縫うようなイメージで千の氷剣を操る。
でも、私には剣の心得なんてない。
千本も剣を用意しても、その力を十全に引き出す事はできないだろう。
現に、皇帝は凄まじい剣技で次々と氷剣を砕いてる。
だけど、これでいい。
この魔術の目的は、あくまでもアルバのサポートなのだから。
「『光騎剣』!」
「ぬぅ……!」
光の剣身を伸ばしての斬撃。
それを手始めに、アルバは次々と攻撃を仕掛け続ける。
周囲を飛び回る氷剣なんて完全に無視して、自分の攻めを繰り出し続ける。
……完全に私に背中を預けきってるな。
心情的にも、実力的にも、完全に私の事を信頼してる動きだ。
事故でも故意でも、私に刺される事なんてこれっぽっちも考えてなさそう。
そうしないと絶対に勝てないとはいえ、凄い胆力というか、なんというか……。
大物だ。
叶う事なら、最初から味方として会いたかった。
そう思ってしまう程のアルバの強さ、頼もしさ。
仲間を信じられるという、皇帝にはない力。
その信頼には応えてあげるよ。
皮肉なもんだけど、今まで敵として全力でぶつかってきたからこそ、その強さは誰よりも信頼できる。
最初で最後の協力プレイ。
最初で最後の味方としての戦い。
必ず勝とうじゃないか!
「『氷人形創造』!」
私は即席で数体のアイスゴーレムを作り出し、彼らに光を纏った氷剣を握らせた。
ただのアイスゴーレムじゃない。
一体一体がワルキューレを上回る性能であり、その姿は私がこれまで見てきた近接戦の達人の姿を模している。
ノクス、レグルス、ミアさん、マルジェラ、グレン、そしてアルバ。
味方として、敵として出会ってきた、その動きが私の目に焼き付いている達人達。
彼らの動きをイメージによって再現し、アイスゴーレムを操る。
「ッ!」
ノクスの剣が皇帝の剣を封じ込め、レグルスの大剣が肩にめり込み、ミアさんの槍が足を抉り。
マルジェラは囮となって粉砕され、それを目眩ましにグレンの刀が脇腹の傷を広げ、最後に氷アルバの斬撃が皇帝の左眼を斬り裂いた。
「うぇ!?」
いきなり現れた自分の偽物やその他諸々に、本物のアルバがすっとんきょうな声を上げる。
一方、皇帝は憤怒の眼差しでアイスゴーレム達を睨み付けていた。
「人形風情がぁあああ!!」
怒りを爆発させ、皇帝は大きく剣を振り抜く。
今まで以上に強烈な闇を纏った一撃。
たったそれだけでアルバを吹き飛ばし、アイスゴーレム達を一体残さず消滅させてみせた。
……所詮は本物ではなく、私のイメージとアイスゴーレムの身体で動きを再現しただけの偽物。
怒れる皇帝の一撃を耐えられはしなかった。
でも、その活躍は決して無駄ではない。
「ぬ!?」
突如、皇帝の剣を目掛けて二つの遠距離攻撃が炸裂した。
ミストの矢と、バックのスナイパーライフルによる狙撃。
それが激昂して大振りした後の剣に当たり、弾き飛ばす。
あの剣は魔剣。
魔術の威力を向上させ、またその発動をサポートする、杖と同じ効果を持った剣だ。
普段なら無くても大した問題にはならないだろうけど、今の魔力が乱れきった皇帝にとっては、足腰の弱った老人が持つ歩行補助の杖並みに必要なアイテムだろう。
あれを失えば皇帝は更に弱体化する。
そんな事態を避ける為に、皇帝は反射的に弾き飛ばされた剣に手を伸ばそうとし、結果として隙が生じた。
「『光騎剣』!」
アルバが吹き飛ばされた状態のまま身体を捻って、光の斬撃を飛ばす。
宙を舞う剣に伸ばされた皇帝の腕を叩き切るような斬撃。
それを避ける為に、皇帝はやむなく手を引っ込めて剣から離れた。
「『氷結光』!」
この隙を逃しはしない。
私は即座に皇帝と剣の二方向へ同時に冷凍ビームを放つ。
皇帝には避けられたけど、皇帝の手から離れて魔力的な頑強さを失った剣は確実に破壊した。
これでいい。
削れる所から確実に削る。
「おのれ……ッ!?」
皇帝が砕かれる剣に気を取られた次の瞬間、その顔が驚愕に染まった。
背後からいつの間にか忍び寄っていたキリカが、皇帝に刀を振るったのだ。
魔力を持たない者は、魔術師に比べて気配が薄い。
魔力感知に引っ掛からないのは当然として、気配その物も生命力の塊みたいな魔術師に比べると酷く希薄だ。
それこそ、私とアルバという超級の魔術師の側にいれば紛れてしまう程に。
キリカはそれを利用した。
魔導兵器の機能をオフにして、身体強化を切り、それと引き換えに、気配を革命軍の特級戦士から、ただの平民に戻したのだ。
例えるなら、嵐の海で救命胴衣を脱ぎ捨てるような危険すぎる賭け。
キリカはそんな賭けに勝ち、皇帝の意識が他に向いて完全に自分から外れたタイミングで奇襲を掛けた。
攻撃が当たる直前に魔導兵器の機能を再びオンにし、皇帝に無視できないダメージを与えた。
キリカの刀は、私が最初に光の氷剣で貫き、さっき氷グレンが更に抉った脇腹の傷口を狙って寸分違わず振り抜かれていた。
あそこは今、皇帝の身体の中で最も脆い。
キリカの攻撃力でも致命傷になり得る。
それは、皇帝が不要と判断して切り捨てた弱者が突き立てた、反逆の牙だった。
「『光嵐の太刀』!」
「ぐぉおおおおおお!?」
キリカの刃が皇帝の臓物を抉り、絶叫を上げさせた。
あれは痛い。
何せ、散々弱らせた急所を狙ったフルスイングだ。
多分、金的より遥かに痛い。
でも、さすがはラスボスというべきか、皇帝はそれで倒れる男ではなかった。
「この、雑魚がぁああああ!!」
「がはっ!?」
「キリカさん!」
皇帝が身体を反転させ、裏拳によって背後にいたキリカを殴り飛ばした。
キリカは刀でガードしたけど、その刀は一発でへし折られ、本人も吹き飛んで凄い勢いで城の壁に衝突する。
けど、キリカ渾身の一撃で皇帝の魔力が更に乱れてたおかげで、死んではいないっぽい。
遠距離からの攻撃に徹していたミストが即座に助けに行った。
あれは多分、助かる。
「ハァ……ハァ……ぐっ!」
一方、皇帝はかなり痛そうな顔で脇腹を抑えていた。
大チャンスだ。
私はすぐに攻撃態勢に入り、アルバもキリカを心配しつつ攻撃の手は緩めなかった。
今、私達に追撃されたら相当ヤバイ筈だ。
皇帝は当然の判断として、私達への迎撃を最優先とする。
だからこそ、皇帝はまたしても弱者の存在を見逃してしまった。
「やぁあああ!」
「ッ!?」
キリカと同じ方法で気配を隠して近づいたルルが、皇帝の右肩を狙ってナイフを振るった。
一番の急所である脇腹は狙わない。
そこを狙っていたら、さすがに察知されて迎撃されてただろう。
故に、ルルが狙ったのはもう一つの急所だ。
ルルのナイフが当たった右肩は、さっき氷レグルスの大剣がめり込んだ場所。
キリカの攻撃で魔力が乱れ、防御力が落ちた今なら、ナイフという軽量武器による攻撃でも充分以上のダメージを与えられる。
多分、というか間違いなく、皇帝は魔力を持たない平民とこんなにガチの殺し合いをした事なんてなかったんだろう。
皇帝にとって、平民なんて取るに足らない存在。
見向きもしない虫ケラだ。
もし戦った事があったとしても、それは蹂躙を通り越してただの駆除作業でしかない。
皇帝は平民を警戒できない。
だから、二度も続けて同じ攻撃を受けた。
今まで皇帝は平民を散々見下しに見下し、軽んじに軽んじ、虐げに虐げてきた。
その結果が……こうだ。
「『魔光騎刃』!」
「がっ!?」
ルルの一閃が皇帝の右腕を斬り飛ばす。
これにて、皇帝は両腕を失った。
目をつけ続け、望まない地位と、それに伴う悲劇を与えてきた者に奪われた左腕。
見向きもせず、道具以下の存在として虐げ続けてきた者に奪われた右腕。
そう考えると、とんだ皮肉だ。
今どんな気持ちだクソ野郎とでも言ってやりたい。
けど、そんな事を言ってる暇があるなら、少しでも多くの攻撃をする事に使う。
一刻も早くぶっ殺して、地獄に叩き落としてやる!
「ふざ、けるなぁあああああ!!」
全員が追撃をかけようとした瞬間、皇帝が吠えた。
同時に、闇を纏った漆黒の衝撃波が皇帝を中心に吹き荒れる。
その影響を最も強く受けるのは、最も皇帝に近い位置にいたルルだ。
「ルル!」
アルバが叫び、ルルを助ける為に光の翼で飛翔する。
そのままルルを抱き締め、彼女を庇いながら一緒に飛ばされていった。
「魔力も持たない劣等種どもが! 全てにおいて魔術師に大きく劣る猿どもが! この私にここまでの傷をつけるだと!? 認めぬ! 認めぬ認めぬ認めぬ認めぬ! 認めぬッ!」
「知るか!」
「はぁ!?」
アイデンティティーが崩壊しかけて大いに心を乱し、大いに隙を晒してる皇帝に対して、私は「知るか」と一蹴しながら魔術を発動した。
一瞬にして作り出される氷の鉄球。
そこから伸びる鎖。
かつて、革命軍本部を一撃で消し飛ばした、私の物理最強技。
アルバ達が皇帝の一撃で吹き飛んでくれたのはラッキーだった。
おかげで、遠慮なくぶっ放せる。
「『氷隕石』!」
「がっ!?」
あの時とは違い、皇帝の頭上一帯を覆い尽くす程度の大きさに抑えた氷の隕石を、魔力による射出と、鎖を引く腕力で思いっきり皇帝に叩きつける。
前よりも小さいとはいえ、魔力も腕力も比べ物にならないくらい向上した状態で放った氷隕石は、今までの激闘で元々限界だった城の床を遂に破壊し、城全体を崩壊させながら、皇帝を地面へと叩きつけ、叩き潰した。
足場を失った事で、飛べるアルバと、そのアルバに抱えられてるルル以外の三人が落下していく。
身体強化があれば死なないと思うけど、アルバがその三人も回収したので尚更心配いらない。
心置きなく追撃ができる。
「『氷葬』!」
落下の衝撃で砕けた氷隕石の残骸を更に勢いよく砕き、その衝撃波を潰された皇帝にぶつける。
更に!
「『氷神光』! 『氷神光』! 『氷神光』!」
しぶとい台所の黒い悪魔にゴ◯ジェットを連射するように最強魔術を連打し、息の根を止めにかかる。
何度も撃った。
何度も、何度も。
何度も、何度も、何度も、何度も、何度も。
そうして疲労を覚えるくらいに撃ち尽くした後には、帝国の象徴だった巨大な城が完全に破壊され、辺り一面は氷に覆われた銀世界と化していた。
「お、終わったのか……?」
他の四人を安全な場所に降ろしたアルバがポツリと呟く。
普通に考えれば、確かにこれで終わりだろう。
今のは完全にオーバーキルだし、もう皇帝の気配も魔力反応も感じない。
アルバが終わったと思うのもわかる。
でも、私にはまだ終わってないという確信に近い思いがあった。
アルバがフラグっぽい事を言ったからとか、そういう理由じゃない。
経験則というやつだ。
ガルシア獣王国での戦いの時、ワールドトレントはこれに近い状態から復活してみせた。
だったら、そのワールドトレントよりも強い皇帝が、この程度で死ぬ筈がない。
「いえ、まだ終わっていません」
私がアルバにそう忠告した瞬間、タイミングよく最も被害が大きい銀世界の中心部が弾け飛んだ。
そこから、両腕を失い、全身に傷を負い、身体中を凍りつかせた皇帝が飛び出してくる。
無事とは言いがたい姿。
それでも、皇帝はその両足でしっかりと地面に立っている。
気配と魔力反応が感じられなかったのは、一瞬でもコールドスリープに近い状態にでもなったからか。
なんにせよ、まだ終わっていない。
「……城が崩れたか」
皇帝がポツリと呟いた。
冷却されて頭が冷えたのか、さっきまでの激情は感じられない。
……いや、違う。
これは嵐の前の静けさだ。
「この城は相当頑丈に作られていたのだがな。何せ、多くの重要拠点への転移陣をはじめ、帝国を支えてきたあらゆる仕掛けを持ち、有事の際は最後の砦となる帝国の中心だ。それが崩れるとは、革命というものも存外馬鹿にできん」
そこまで言った後、皇帝は俯き、肩を震わせ始めた。
怒ってるのか、屈辱に震えてるのか。
いや、どっちでもない。
皇帝が浮かべた表情は……狂ったような笑みだ。
「ククク、クハハハハハ、フハハハハハハッ!」
皇帝が笑う。
あまりにも不気味な笑い声。
アルバ達は気圧されたように息を飲んだ。
「帝国の最重要拠点が崩れた。おまけに、私が気遣うべき人材もいない。これがどういう事かわかるか? つまり、━━もはや、周りに気を使う必要は欠片もないという事だ!」
「「「ッ!?」」」
皇帝から闇の魔力が噴き出す。
今までよりも更に強く、制御を完全に放棄したような破壊の力が。
「全て壊してやろう! 壊れ行く世界と共に死ぬがよい! 『暗黒夜嵐』ッ!!」
そして、全てを壊す漆黒の嵐が吹き荒れ、辺り一面を飲み込んだ。