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闘神将VS革命軍 2

修正しました。

 ルルがその一撃を避けられたのは半ば偶然だった。

 これまでの戦いで培われた危険察知能力が突然全力で警鐘を鳴らし始め、ルルの背筋に特大の悪寒を走らせたのだ。

 ルルは反射的にその感覚に従って攻撃を中断し、その場から飛び退く。

 結果として、その行動がルルの命を救った。


 直後、目の前にいたアルデバランの姿がかき消え、ルルがさっきまでいた場所を凄まじい勢いで通過して行った。


「なっ!?」


 目で追いきれない程の圧倒的な速度。

 しかも、移動によって発生した衝撃波がルルの身体を吹き飛ばす。

 かなり大きく飛び退いていたのにも関わらずだ。


 そして、その勢いのまま、アルデバランは他の戦士達に向かって突撃した。

 アルデバランと直接接触した者は即死し、近づいただけでも衝撃波で重傷を負う。

 まるで、嵐。

 移動するだけで全てを薙ぎ払う破壊の権現。

 アルデバランは今、ワールドトレントのような災害そのものと化した。


 そんなアルデバランが方向を転換し、再びルルを標的として突進してくる。


「くっ!?」


 アルデバランの動きは目で追えない。

 僅かに見える残像と、危険察知能力という名の勘に任せて避けるしかない。

 それですら、かなり大きく避けなければ衝撃波の暴風圏に捕まる上に、回避に成功しても余波で吹き飛ばされて体勢を崩してしまう。

 その状態で追撃をかわさなければならない。

 当然、迎撃や反撃などもってのほかだ。

 ルル一人の力では、回避に専念してギリギリ命を繋ぐ事しかできない。


 そう、ルル一人の力では。


「━━━━━━━━━━━━!!!」


 ルルが吹き飛ばされて距離が出来た瞬間、龍の姿をしたワールドトレントの一部が、地を這う蛇のように横からアルデバランに食らいついた。

 その龍はアルデバランの一閃で爆散するが、次から次へと龍達が絡みついていく。

 しかし、その全てをアルデバランは蹂躙した。

 アルデバランの身体がピンボールのように跳ね回り、その勢いに乗せて振るわれる剣が、纏った衝撃波が、龍の群れをズタズタに引き裂いて消滅させていく。

 だが、ワールドトレントがアルデバランを引き付けた事でルルへの攻撃は止み、またアルデバランの行動範囲を龍の密集地周辺に絞る事に成功した。


「オオオオオオッ!!!」

「『魔弓流星群』!」


 そこへバックが大型ガトリングに変形させた魔導兵器(マギア)を乱射し、ミストがまさに流星群のような大量の矢を放つ。


「『火球連弾(ファイアバレット)』!」

「『水散弾(スプラッシュ)』!」

「『雷撃雨(サンダーレイン)』!」

「『乱発風爆球(エアーボムラッシュ)』!」

「『大岩連弾(ロックブラスター)』!」


 加えて、エメラルド公爵騎士団による魔術の連打。

 高速で動くアルデバランに当てようとは思っていない。

 点ではなく面を狙った制圧攻撃だ。

 すなわち、下手な鉄砲数打ちゃ当たる戦法である。


「「「「━━━━━━━━━━━━!!!」」」」


 更に、アルデバランに向かって行かなかった龍達による擬似ブレスの一斉掃射が炸裂する。

 アルデバランを抑えている自分の身体ごと吹き飛ばすような攻撃。

 それが他の戦士達の魔術と合わさり、セレナの最大火力すら超えた、およそ個人を相手に使うとは思えないような超合体魔術がアルデバランを襲う。


 だが、それでも尚。


「『轟魔天動剣』!」


 この怪物にはまだ届かない。

 アルデバランは天を揺るがすかのような、今まで以上の特大の衝撃波を放ち、己に向かってくる全てを薙ぎ払う。

 さすがに僅かに鎧が砕け、ダメージを負ってはいるが、未だにかすり傷の範疇を出ない。

 正真正銘、次元の違う化け物の所業である。


「ハァ!」


 そして、アルデバランが動く。

 衝撃波移動で天を駆け、まずは近くにいる中で一番鬱陶しいバックを狙う。

 迎撃の魔術は全て盾で防がれた。

 誰もアルデバランを止められない。


「『天魔破砕突』!」

「ダーリンッ!」


 アルデバランが剣を突く。

 神速にして絶死の一撃。

 これを食らえば特級戦士最強の男とて一溜まりもない。

 隣にいたミストが夫の命の危機に悲鳴を上げた。


 だが、


「何ッ!?」

「ウォオオオオオオオオオオオオッ!!!」


 バックは、アルデバランの一撃を受け止めていた。

 魔導兵器(マギア)を腕を覆うアームのような形に変形させ、雄叫びを上げながらその拳でアルデバランの剣に対抗する。

 アームの各所からブースターのように魔力が噴出し、拳を加速させた。

 しかし、何よりもその一撃の威力を高めているのは、バックの鍛えに鍛えられた筋肉だ。


 バックはあらゆる面でアルデバランに劣っている。

 魔力量でも、戦闘技術でも遠く及ばない。

 身体強化を含めれば、自慢の筋力でも勝てないだろう。

 だが、この一瞬。

 筋肉が破裂しようとも負けぬという覚悟で放ったこの拳だけは、魔導兵器(マギア)による加速と相まって、━━アルデバランを押し返した。


「『筋鋼破砕拳(マッシブスマッシャー)』ッ!!」


 アルデバランの剣が弾かれ、予想外の事態にほんの一瞬アルデバランの動きが止まる。

 僅かな、されど怪物がやっと見せた確かな隙。

 ここにいる戦士達は、誰一人としてそれを見逃さなかった。


『アアアアアアアアッ!!!』


 戦士達が雄叫びを上げながら突撃を開始する。

 誰もがわかっていたのだ。

 この僅かな好機を逃せば、もう勝ち目はないと。

 相手は怪物。

 態勢を立て直す暇を与えれば確実に負ける。

 このまま押し切らなければならない。

 そう、誰もが理解していた。


 そんな彼らの気迫にアルデバランが気を取られた一瞬、戦士達を隠れ蓑にして、ある攻撃がアルデバランを襲う。

 それは、アルデバラン本人を狙った攻撃ではなかった。

 それは、鎖による攻撃だった。

 特級戦士リアンが放った鎖。

 それがアルデバランの剣に絡みつき、バックに弾かれた直後で握力が緩んだ瞬間を狙って、剣を奪おうとする。


「ッ!? 小賢しい!」


 アルデバランは咄嗟に剣を強く握り締め、逆に鎖を強く引っ張った。

 それによって、鎖の持ち主であるリアンがアルデバランの前に引き摺り出される。

 そして、そんな哀れな獲物を逃すアルデバランではない。


「破ァ!」

「リアンッ!?」


 アルデバランの剣がリアンの胴を真っ二つに切り裂く。

 確実に絶命に至る一撃。

 たとえ魔術師でも死を避けられないダメージ。

 それ故に、アルデバランは仕留めたリアンの存在を意識から外してしまった。

 それこそが、この戦いにおけるアルデバラン最大の悪手。


 ガチャリ


 そんな音がアルデバランの右腕から聞こえた。

 見れば、絶命間際のリアンが、鎖の付いた手錠をアルデバランの腕に付けている。


 そして次の瞬間、━━アルデバランが身に纏う魔力が大幅に消失した。


「なんだとッ!?」


 アルデバランはその現象に驚愕する。

 同時に、この現象がなんなのかを、その明晰な頭脳で理解した。

 魔術師の力を削ぐ鎖。

 そんな物は一つしか存在しない。


「魔封じの鎖か!?」

「特別製ですよ……!」


 身体を二つに割かれたリアンが壮絶な顔で笑う。

 それは、プロキオンから渡された切り札。

 鎖使い故に、最も有効に使えるだろうと判断されて与えられた物。

 今までは隙がなさすぎて切れなかったこの切り札。

 命と引き換えにそれを使い、この怪物にようやく大きな隙を作れた。

 この怪物を初めて焦らせた。

 その事に満足し、そしてこの大健闘を無駄にしない為に、志を後に繋ぐ為に、リアンは最期の瞬間、大声で叫んだ。


「皆さんッ! 今ですッ!」

『オオオオオオオッ!!!』


 戦士達がようやく訪れたチャンスに沸き立ち、アルデバラン目掛けて殺到する。

 それを見届け、リアンは息を引き取った。

 その死に顔は、とても穏やかだった。


「おのれ……!」


 アルデバランは激昂する。

 まさか、敵の主力でもなんでもない塵芥に足下を掬われるとは思わなかった。

 だが、そんな状況でもアルデバランは止まらない。

 アルデバランは経験を積み上げた歴戦の怪物だ。

 窮地に陥る事など初めてではない。

 だからこそ、この状況でも最善の行動を選択する事ができる。


 アルデバランは盾を手放し、空いた左手で拳を作り、右手の鎖を砕きにいった。

 この忌々しい鎖さえ砕いてしまえば全ては元通りだ。

 幸い、この鎖はアルデバランの力を完全に失わせる事はできていない。

 本来なら牢獄に仕込まれた細かい術式とセットである魔封じの鎖だ。

 無理矢理こんな使い方をしたところで、本来の性能は出せないのだろう。

 衝撃波の発動は阻害され、身体強化も弱くなっているが、まだ鎖を砕くには充分すぎる程のパワーは残っている。

 何も問題はない。


「『流星ノ矢』!」

「ぬぅ!?」


 だが、革命戦士達はその行動を許さない。

 至近距離から放たれたミストの矢が、寸分違わずアルデバランの左手に当たり、弾き飛ばした。

 速度重視だったのかダメージは軽い。

 しかし、腕を弾かれた事で鎖の破壊は失敗に終わる。


 そして、最後の特級戦士がその隙を狙い撃った。


「『風神の太刀』!」

「ぬっ!?」


 風を纏ったキリカの刀が、無防備な左側からアルデバランの首筋を狙う。

 咄嗟に身体を回転させ、右手の剣で受けたが、予想外に威力が高い。

 しかも、キリカの狙いは首の切断ではなかった。

 キリカが刀と剣のぶつかった衝撃を利用し、アルデバランの剣を弾きつつ身体を反転させる。

 そして……


「ウラァアアアアッ!!!」

「ぐっ!?」


 キリカの渾身の一撃が、ミストに弾かれ、無防備となっていたアルデバランの左腕を切断した。

 無敵の怪物と思われていた者の一部が地に落ち、無惨な姿を晒す。

 広がっていく。

 バックが作ったアルデバランの小さな綻びが、戦士達皆の手で広げられていく。


『ハァアアアアアアッ!!!』

「がっ!?」


 そして、遂にアルデバランの元へと到達した戦士達の一斉攻撃が、無防備なアルデバランに突き刺さった。

 何本もの剣が、槍が、アルデバランを貫いて串刺しにする。

 アルデバランの身体から大量の血が吹き出す。

 急所は外れているが、それでも致命傷一歩手前の重傷。

 遂に怪物をここまで追い詰めた。

 そして、最後の一太刀を加えるべく、残りの戦士達が各々の武器を振り上げる。


「まだだ……!」


 しかし、アルデバランは。

 この希代の怪物はまだ。


「まだだァアアアアッ!!!」


 諦めてなどいなかった。

 死を前に、脅威の集中力を引き出したアルデバランが、魔封じの鎖による拘束を振り切って衝撃波を放つ。

 本来の威力に比べれば大きく劣化した魔術。

 それでも、周囲の戦士たちを吹き飛ばすには充分だった。


「オオオオオオッ!!!」


 決死の咆哮を上げ、怪物が再び動き出す。

 体勢を整えて襲ってきた戦士達を、右手に持った剣一本で次々に斬り伏せていく。

 魔術などいらない。

 片腕などいらない。

 身体が動き、剣が残っている。

 それだけあれば充分だ。

 それさえあれば、


(我はまだ、陛下のお役に立てるッ!!)


 その一心で、アルデバランは暴れ回る。

 激痛を無視し、血反吐を吐き散らしながら、たった一人で戦い続ける。

 仲間はいない。

 共に戦う騎士達は、革命軍の雑兵と残りのワールドトレントに足止めされてここには来れない。

 それ以上に、アルデバランは仲間という存在を軽視して生きてきた。

 誰も彼もアルデバランに比べれば塵のように弱い。

 目をかけてやろうと思える者は殆どいなかった。

 僅かな例外は他の六鬼将くらいだが、アルデバランは彼らの心を慮った事などない。

 ただ事務的に、その能力だけを評価し、まるで駒のように動かしていただけだ。

 自分が主にそうしてもらったように。

 帝国貴族の殆どがそうしているように。


 アルデバランはそんなやり方しか知らない。

 だからこそ……誰も命を懸けてアルデバランを助けようとはしてくれなかった。

 こんな温もりの欠片もない関係で、夜の暗闇のように冷たい関係で、それでも恩義を抱いて命を張るような数奇な者はアルデバランくらいだ。

 彼は独りだった。

 幼少の頃からずっと、唯一無二の主を得ても尚、彼はずっと独りだった。

 隣に立てる者など誰一人としていない。


 それでも、彼は闘う。

 孤独の中で研ぎ澄ました刃を振るう。

 仲間などいらない。

 たった独り、群れを蹴散らす圧倒的な個であればいい。


 そんな彼を追い詰めるのは、信頼を、温もりを何よりも大事にした男。

 どうしてもアルデバランが受け入れられなかった男。

 リヒトの残した者達だった。


「『筋鋼爆砕拳(マッシブインパクト)』!」

「くっ!?」


 バックの拳による衝撃波がアルデバランを吹き飛ばす。

 いつもであれば何でもない一撃。

 それが酷く強く感じる。


「『破星ノ矢』!」

「ッ!?」


 続いて、ミストの放った矢がアルデバランの剣を直撃した。

 今度のは衝撃を纏った威力重視の矢。

 それが遂にアルデバランの剣を手元から弾き飛ばし、武器を奪った。

 そこにキリカが躍りかかる。


「『風魔刀』!」

「ぐぉおおおおおおッ!?」


 キリカの刃がアルデバランの首筋を捉えた。

 首の切断。

 それは、人間である限りどんな化け物でも即死を免れない致命傷だ。

 逃れられぬ死が今、アルデバランを捉えようとしていた。


 だが、


「ヌォオオオオオオオッ!!!」

「かはっ!?」


 アルデバランは凄まじい執念で拳を握り、刃が首筋を通過する前にキリカを殴り飛ばして、致命傷を逃れた。

 刃は動脈に至り、噴水のような血飛沫がアルデバランの首から溢れ出るが、膨大な魔力と生命力を持つアルデバランならばまだ死なない。

 アルデバランは魔封じの鎖によって制限された弱々しい回復魔術で血を止める。

 これでまだ、まだ……


「やぁああああッ!!!」

「ッ!?」


 出血で遠くなる意識を必死に繋ぎ止めたアルデバランの前に現れたのは、今最も忌々しく思っていた少女、ルルだった。

 アルデバランは戦慄する。

 ルルが現れたのは、あまりにもベストなタイミングだったからだ。

 大量出血で立ち眩みを起こした瞬間であり、回復魔術に意識を割かれた瞬間でもある。

 今この瞬間、アルデバランはルルの攻撃に対処できる余力を持ち合わせていなかった。

 何人もの戦士達が繋いできた勝利へのバトンが、ルルによってゴールへ運ばれようとしている。

 アルデバランはそんな幻影を見た。

 そして、幻影は現実のものとなる。


「『大魔列強刃』ッ!」

「アアアアアアアアッ!?」


 ルルのナイフが、キリカの付けた傷を寸分違わず正確に狙い、アルデバランの首を掻き切ろうとする。

 アルデバランは最後まで抵抗し、残った魔力を傷口に集中して防御力を上げた。

 しかし、全ての力を乗せたルルの渾身の一撃を止めるには至らず……


 遂に、帝国最強の騎士の首が、胴体を離れて宙を舞った。


「勝っ、た」


 万感の想いを込めてルルが呟く。

 それは、この怪物と戦った全ての戦士達が抱いた想いだった。

 首を切られて生きていられる人間はいない。

 どんな怪物でも、人間である限り、これで確実に死ぬ。

 終わった。

 誰もがそう思った。


 この男を除いて。


(ま、だだ……!)


 その男は、アルデバランは、まだ諦めない。

 首を切られ、魔力の大本である身体と意識が切り離され、数秒後には死を迎える身でありながら、最強の騎士は足掻く。

 死の運命を覆し、まだ主の役に立つ為に。


 アルデバランが魔術を発動する。

 頭部にある僅かな魔力で発動した弱々しい衝撃波。

 だが、そんな弱い魔術が全てを覆す。

 弱く、されどどこまでも洗練され、計算され尽くした衝撃波が、寸分違わずアルデバランの首を胴体との断面に運んだのだ。

 皮肉にも、首だけとなって魔封じの鎖から逃れたからこそ、このような精密な魔術の発動が可能となった。

 そして……


「フゥウウウ……!!」


 回復魔術によって、アルデバランの首が接合される。

 咄嗟にできたのは、生命維持に必要なギリギリ最低限の回復だけだったが、それで充分。

 命を繋いだアルデバランは、革命軍の誰もが勝利の瞬間に無意識に気を緩めてしまったのをいい事に、魔封じの鎖へと膝蹴りを叩き込む。

 この間、僅か一秒弱。

 そんな刹那の間に、戦況は再び逆転した。

 逆転してしまった。


「嘘、でしょ……」


 最初にそれに気づいて絶望したのは、最も近くにいたルルだ。

 だが、彼女は強かった。

 すぐに絶望を振り払い、疲労困憊の身体に鞭打って、すぐにもう一度ナイフを振るう。

 今度こそ確実に仕留める為に。


「『衝撃波』!」

「きゃ!?」


 しかし、そんな事を許すアルデバランではない。

 発動速度重視の衝撃波でルルを吹き飛ばし、まずは更なる回復を行う。

 回復魔術もまた、アルデバランの鍛え上げた無属性魔術の一つ。

 今まで何人もの命と引き換えに与えた傷が、みるみる内に治っていく。

 革命軍の努力が、無に帰っていく。


「奴を回復させるなッ!」


 バックが叫び、再度ガトリングへと変形させた魔導兵器(マギア)を乱射する。

 他の者達も正気に戻り、次々と魔術を発動して弾幕を作っていく。

 アルデバランの動きは、さすがに鈍い。

 まだ首が完全には繋がっていないのだから当然だ。

 この状態での迎撃は悪手と判断し、アルデバランは衝撃波移動で上空へと逃れる。

 避けて回復の時間を稼ぐ算段だ。


「「「「━━━━━━━━!!!」」」」


 そこへ、ワールドトレントの龍達が襲いかかった。

 しかし、アルデバランはそれすらもかわして上へ、もっと上へ、まるでセレナのように攻撃の届きにくい遥か上空へと逃れていく。

 ここまで来れば磐石。

 慎重に全ての攻撃を避け、応手を間違えなければ、完全に失った左腕以外のダメージは回復できる。

 そうすれば、満身創痍の革命軍にもはや勝ち目はない。

 アルデバランは冷静にそんな戦況判断を下し、そして戦士達もまた無意識にその未来を察してしまう。


「消えろ……!」


 そして、全快とは言えぬまでも、ある程度までの回復をし終えたアルデバランは、回避行動や回復魔術と平行して新たな魔術を発動した。

 突き出した右手の先に、セレナの氷隕石(アイスメテオ)にすら匹敵する巨大な魔力弾が生み出される。

 これが炸裂すれば、革命軍は甚大な被害を受け、逆にアルデバランは倒れ伏す革命軍の前で悠々と全回復するだろう。

 これにて王手。

 絶望が革命軍を襲った。


「『滅魔咆哮弾』!」


 終局へと繋がるアルデバランの一手が放たれる……その直前の事だった。


 突如として背後から(・・・・)二つの大魔術が飛来し、アルデバランを直撃する。


「!!?」


 アルデバランは驚愕する。

 それもその筈。

 何故なら、アルデバランの背後は帝都だ。

 今、アルデバランは帝都に背を向けて戦っている。

 そっちから攻撃が飛んで来るなどあり得ない筈なのだ。

 ましてや、魔封じの鎖を砕き、万全の身体強化を纏ったアルデバランに()()()()()()()大ダメージを与えられる大魔術など。

 そんな事ができる敵など、リヒトの息子くらいしか通した覚えがない。

 そいつとて、今は城の防衛に就いていたセレナが相手をしている筈。

 こちらを狙撃する余裕などある訳が……

 

「ま、さか……!?」


 だが、次の瞬間にアルデバランは気づく。

 今の魔術の正体に。

 激痛に紛れて気づくのが遅れたが、攻撃を受けた背中が酷く冷たい。

 これは氷の魔術を受けた感触。

 これはセレナの魔術だと、アルデバランの直感が叫んでいた。


 この攻撃の正体。

 それは、セレナとノクスがアルバに向けて放った『氷結光(フリージングブラスト)』と『漆黒閃光(ダークネスレイ)』の合体技だ。

 宙を舞うアルバの右半身を撃ち抜いた攻撃が、そのまま直進を続けて上空に陣取っていたアルデバランに当たった。

 それが、この攻撃の正体なのだ。


 つまりこれは……ただの流れ弾であり、フレンドリーファイア。

 戦場ではよくある、珍しくもない現象。

 対処できない方がマヌケなのだと、仲間を軽視しているアルデバランが常々思っていた事。

 とはいえ、アルデバランが殺した相手の妹が放った魔術が、意図していない事とはいえ姉の仇を殺す為の決定打になるなど、あまりにも皮肉な話。


「こんな、馬鹿な……!?」


 セレナ達の攻撃を受け、動きの止まったアルデバランを革命軍の一斉攻撃が襲った。

 一発食らえば動きが止まり、他の攻撃を避ける事ができなくなって連鎖的に全てを食らってしまう。

 

「撃てぇ! 撃って、撃って、撃ち続けろ!」


 降って沸いた最大の好機。

 それを前に、バックは叫ぶように指示を出す。

 ここで仕留めなければ今度こそ終わる。

 その思いが、その焦りが、彼らの攻撃をより一層過激にした。

 ワールドトレントの擬似ブレスが、バックのガトリングが、ミストの矢が、戦士達の魔術が、アルデバランの身体を滅多打ちにしていく。

 アルデバランは身体強化の出力を限界にまで上げて耐えたが、既に致命傷を負った身体ではとても耐え切れるものではない。

 アルデバランは終わらぬ攻撃に撃たれ続け、ボロ雑巾のようになりながら、天から落ちていく。


「こんな、こんな馬鹿なァアアアアッ!!?」


 そして、アルデバラン・クリスタルは。

 帝国最強の騎士は。

 夜空の上で汚い花火となって跡形も残らず爆散して消滅した。

 周囲に誰も、誰一人としていない孤独な最期。

 多くの者達から袋叩きにされて迎えた悲惨な死。

 それが、アルデバランという男の末路だった。


 こうして、一つの戦いがここに終結した。

 だが、この帝国と革命軍との最終決戦はまだ終わっていない。


「まだだ! 走れる者は俺と共にアルバの応援に向かえ! そうでない者は騎士団の足止めだ! 皇帝を倒すまで気を抜くな!」

『ハッ!』


 バックの一喝により、革命軍はボロボロの身体に鞭を打って、戦意を新たにする。

 そして、それぞれが自分のできる事に向かって走り出した。



 彼らが必死で戦っている間に、いつしか月は沈んでいた。

 夜を支えた星明かり達すらも弱々しく消えていき、最後に残ったのは漆黒の闇だけ。

 そして、その暗闇を晴らす為の最後の戦いが、いよいよ始まろうとしていた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] これまでの中で一番好きな回だ。 小学生低学年みたいなことしか言えないけど、文章まじやばい。作者様凄い。 アルデバランの背景描写がたまんない。体が前に傾くらいに のめり込ませる戦闘展開しゅご…
[一言] アルバ、皇帝と戦うより革命軍内での権力掌握を重視しなきゃ そうしないと勝利してもその後に排除されるよ(フランス革命後見てみたらわかる)
[良い点] 加筆修正、大変お疲れ様でした(私の感想も、大変に加筆修正w)。 剣術は爆発だ! を地で行く剛剣アルデバランさんのイメージも、前話からの壮絶な鉄壁防御力に上書きされたんですが、それを打ち破…
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