優しい記憶
2200年。
世界の人口が、遂に100億を越えた。
地球温暖化の影響で、深刻な食糧難。人間は一部を除いて、【飢え】の時代に突入する。でも一番問題だったのは、その世界に住む人間の倫理が、狂ってしまったこと。
この人口増加に歯止めをかけるため、世界は【人間の選別】をすることを決めた。
5歳になると俺たち全員、強制的に受けさせられるテスト。その合否によって、その子の未来………いや、生死が決まる。
「お兄ちゃん……。わたし……たぶん今度のテストで」
可愛い俺の妹。他の弟と違い、コイツだけは俺に懐いてくれた。
「大丈夫だよ、杏子。だから、そんなに心配するな」
「でも…………」
「大丈夫」
俺が、何とかする。ある闇医者に頼み込み、全財産を使い、手術に臨んだ。
「あんたさぁ、妹にデータを全部移したら、廃人になるよ。脳のデータ抽出は、一番リスクが高いし」
「試験まで、あと2日しかないんだ。金は、払った。文句は言わずにやってくれ」
「はいはい。じゃあ、やりますよ」
俺は、一度だけ横をチラッと見た。俺の可愛い妹が、今もスヤスヤ寝ている。弁護士になった俺を完璧に育て上げたと勘違いしている親。俺に憧れていると嘘をつき、いつも陰で俺の悪口を言っている弟たち。
でも、コイツは違う。
夏ーーーー。
この妹が、少ない小遣いで買ってきてくれた溶けかけの加工アイスの味を、俺は絶対に忘れない。
「お…にい……」
最後に優しい記憶をありがとう。




