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#2 異世界転生?

 風が頬を撫でる。辺りからは草が揺れる音が響く。

 心地いい風だ。

 私はゆっくりと目を開け、身体を起こす。

 眼に光が入ってくる。

 徐々に像を結び、視界に景色が映る。


 ……は?


 目の前には、辺り一面に緑の草原が広がっていた。

 どこまでも続く緑色の平原。辺りには何もない。

 何気に、生まれて初めて地平線を見たかもしれない。

 いや、ここどこ。

 さっきまでは通学路にいたと思うんだけど。

 取り敢えず目を閉じて大きく深呼吸。

 吸って、吐いて。吸って、吐いて。また吸って、吐いて。

 …よし、落ち着いたかな。

 もう一度、目を開ける。

 相変わらず、辺りには緑が広がっていた。

 やっぱり、目を閉じたら元に戻る、なんてことはなかったね、うん。

 夢かもしれないと思い、頬をつねってみるも、ばっちり痛みは健在。

 夢じゃないらしい。困った。

 「とりあえず、呟いとこ」

 こういう訳が分からない状況に陥った時は、とりあえず写真を撮ってSNSに投稿するのに限る。

 しかし、スマホを取り出すが、画面がバッキバキに割れていた。

 電源ボタンを押しても、ウンともスンとも言わない。

 「マジかー…」

 文明の利器を失われた私は、途端に何とも言えない不安を覚える。

 スマホ依存になっている。よくないな。

 仕方がないので、何か無いかと辺りを見回す。

 しかし、どこを見ても緑の草が広がっている。何にもない。

 見上げると、嫌になるくらい、綺麗な青空が広がっていた。雲一つない。

 どこまでも広がる緑の草原に、青い空。コントラストが美しい。

 「草生やしてんじゃねえぞ」

 私のしょうもない呟きは、ただ虚しく虚空に消え去った。


 気を取り直して一度、状況を確認してみることにする。

 まず持ち物。リュックサック、スマホ、スケジュール帳、生徒手帳、財布、筆記用具、数学ⅡB、物理基礎の教科書とノート数冊。

 教科書は基本学校に置いて帰るのであんまり持ち歩かない。

 この3科目は試験前にせめて教科書だけでも読んでおこうと持って帰ってきたものだ。

 それからハンドタオル、リップクリーム、ハンドクリーム、コンパクトミラー、コーム。

 この辺は欠かせない。毎日持ち歩いている。

 現状、役に立ちそうなものはない。

 取り敢えず心を落ち着けるためにハンドクリームをつけてみる。

 甘ったるい香りが鼻腔をくすぐる。

 夏場だから、手はあまり乾燥していないけれど。

 次に服装。夏服、クルーソックスにローファー。

 ブラウス、サマーセーターにプリーツスカートという典型的な女子高校生の格好だ。

 周囲に関しては先程の通り。

 これらを適当なノートにメモする。

 後でもしかしたら役に立つかもしれない。

 それから今日の出来事を順番に思い出していく。

 もしかしたら何かきっかけとか、手掛かりみたいなものがあるかもしれない。

 確か今日は、何時も通り母親に起こされて、普通に学校に行って、6時間目まで授業を受けた。それから…。


 ……。


 …ああ、そうか。

 私はおそらく事故に遭ったんだ。

 スマホに集中していたから、よく分からなかったけど、交差点を渡っている時に横から何かがぶつかって来た。

 そして、気が付けばここに倒れていた。

 「…これって、もしかして異世界転生ってやつ?」

 弟がその手の小説や漫画をたくさん読んでいたな。

 交通事故。気付けば見慣れない場所。

 条件はあう。きっとそうに違いない。知らんけど。

 「じゃあ何か特別な力でも使えるのかな?」

 小説では、「特典」と呼ばれる特別な能力が手に入って、それを駆使してハーレムを作ったり、無双していたりした。

 もし、この状況が異世界転生なら、何かしらの能力が使えるに違いない。

 「でも特に変わったところはないし…」

 取り敢えず、現在位置でも分からないかとうんうん唸りながら念じてみる。


 ……。


 駄目だ、何にも起きない。

 「あれかな、バトルの時にしか使えないのかな」

 小説ではそう言った能力が多い、気がする。マトモに読んだことないからよく分からないけど。

 でもバトルかー。争うのかー。面倒事は出来れば避けたいな。

 いや、そもそもこの状況が異世界転生とは限らない。

 異世界という確証もない。

 もしかしたら日本のどこか、という可能性もある。

 なんらかの理由でここに来たけど、ここに至るまでの経緯とかもろもろの記憶が抜け落ちて…みたいな?

 実は夢、なんてオチもあるのかもしれない。

 あれ、でも仮に夢だったとしてもある意味異世界なのでは?


 ……。


 うーん。

 よく分からないけど、とりあえず安易に決めつけるにはよくない。情報が圧倒的に少なすぎる。

 確実なのは、今ここでぼんやりしていてもどうしようもない、ということだ。

 考え込んでいてもしょうがない。

 答えは自分の足で探しに行くものだ、なんて誰かが言っていた。気がする。

 「…とりあえず、歩いてみよう」

 何か見つかるかもだし。

 そして、私は取り敢えず太陽の方向に向かって歩き出した。


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