#1 スマホ歩き ダメ、絶対
7月某所。天気、晴れ。雲一つもない青空が広がっていた。
ようやく最後の授業が鳴り、ホームルームやら掃除やらもろもろが終わって解放される。
校門から制服姿の男女が大勢吐き出され、私も、その流れに乗って歩いていた。
外は相変わらずの暑さで、汗がすぐに流れ出す。時刻は夕方になるかならないかくらいで、一番暑い時間帯ではないけど、まだまだ暑い。おまけに、周りに人が大勢密集しているから余計にだ。
わたしと同じ様な格好をした男女が、死んだような顔をして歩いている。
ただでさえ6時間も机の前に座って、死ぬほど興味もない話を頭の中に詰め込んでいたというのに、暑さがさらに追い打ちをかけてくる。
解放されてはしゃぐ元気もない。
毎日30度を超える気温で、もはや慣れたけど、それでもこの暑さは何とかしてほしい。とにかく暑い。
しかしまあ、文句言ったところで何も変わらないので、ここはなるべく早く帰って冷房の効いた部屋に逃げ込むのに限る。
制服のポケットからスマートホンを取り出し、イヤホンを耳に嵌めて適当に操作する。
一呼吸おいて、お気に入りの一つである曲のイントロが、耳に流れ込んできた。
少し前にやっていたドラマの主題歌だ。
女性歌手が、恋についてふわふわと歌っている。
桜の季節の歌のようだ。今の時期にはちょっと、いやかなり季節はずれな曲だ。
あのドラマは話はそこまでも面白くなかったけど、主演の俳優が良かった。
今日のドラマにも、その俳優が出ている。好きな俳優さんだから、楽しみだ。
歩きつつ、スマホの画面を眺める。
SNSで、同じ学校の人が試験について呟いている。
話したどころか同じクラスにすらなったことのない人だ。
そう言えば、中間試験がそろそろ近づいている。というか、来週だ。
ぼちぼち教科書でも見返しておくか。
どうせ勉強したところで点なんて取れないんだから、真面目にやったってしたってしょうがない。わたしに関しては、時間の無駄だ。
SNSには特にこれと言った投稿はない。
相変わらず何でもない呟きばかりだ。
ああ、平和だなあ。
試験はちっとも平和じゃないけど。
そんな風に、ぼんやりと、画面を眺めながら歩いていた。
だから気付かなかった。
信号の色が赤であることに。
鳴り響くクラクションに。
耳を劈くブレーキの音。
不意に全身に走る衝撃。
ゆっくりと反転する視界。
空が、嫌に青い。
誰かが、何かを叫んでいる。
その声は、イヤホンに遮られて届かない。
耳元で鳴る音楽が妙にうるさい。
何もかもがスローモーションのように、間延びして感じる。
そのせいでどこか現実味がない。
―――え?
気が付けば私は無様にアスファルトと口づけを躱していた。
全ての物が正常に戻ったところで、私の意識は途絶えた。
―――ブラック・アウト。