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第四十八話 新生・1

第四十八話 新生・1


 帝国軍の電撃的侵攻から一週間。ここ、グレイブ王国にも攻撃が開始されていた。


 しかし、あまり攻め気が無いのか、前線の各砦や防御陣地を散発的に攻撃する程度であった。そのため、グレイブ側も無理に反撃はせず、防御に専念することで無駄な損耗を押さえている。結果として大きな被害は無く、各地の砦ではひとまず安心、といった雰囲気が流れているという。





「先に連合を片付けるつもりなのよ、きっと」


 レフィオーネが大型の銃器を膝立ちにしゃがみながら構える。その砲身は自身の全長の半分以上あり、銃床まで含めると相当な長さになる。口径も従来のものよりかなり大きく、大型の弾倉がその弾丸の大きさを主張している。


「グレイブは放っておいても大丈夫ってこと?」


 ユウは双眼鏡を片手に、レフィオーネから少し離れた所にあるトーチカの中にいた。ここはグレイブ王国の兵器開発局が所有する野外実験場だ。ここでクレアはレフィオーネの新型装備の調整を行っているのだ。


「そうね、単純な戦力でいえば帝国とグレイブじゃあ大きな差があるわ。でも、いくら戦力差があるからって連合と同時に戦えるほど帝国に余裕がないって事だと思うの。それだけ戦力を分散するのは危険っていうことだから……ユウ、今から何発か撃つから気をつけてね」


 ユウは備え付けの机に置いてあった防音用のイヤーマフと安全眼鏡を身に着けて発砲に備える。理力甲冑用の銃火器は人間用のそれとは比較にならない程の火薬量なので、こうした対策なしでは非常に危険だ。


 数秒の後、空気が大きく震えた。イヤーマフをしていてもその轟音は容赦なくユウの鼓膜を刺激してくる。わずかに遅れて、発砲による衝撃がトーチカを小さく揺らしてきた。覗き窓からは砂ぼこりが風と共に吹き込んでくるのでユウの顔は砂まみれになってしまった。


「ゲホ! ゲホッ! ……ッペッッペッ! ……口の中がじゃりじゃりする」


 通常の火器とは比較にならない程の発砲音で耳が少々痛くなる。逃げる間もなく次の射撃が開始されると、その度に轟音と衝撃波、砂ぼこりがトーチカを襲う。


「ふう、調整はこんなもんかしら。やっぱりレフィオーネの重量じゃあ発射の時に少しブレちゃうみたいね。ユウ、そっちでも確認してちょうだい」


「え? あ、うん、確認?だね?」


 耳が遠くなってクレアの言っている事がよく聞き取れないが、ユウはなんとなく察する。安全眼鏡をはずし、ホコリまみれのまま双眼鏡を覗く。その先には銃撃用の的である分厚い鉄板が置かれているのだが……。


「全部、ほぼ中心……」


 ユウは感心を通り越して、半ば呆れていた。それもそのはず、クレアは合計五発を発射したのだが、その全てが標的(鉄板)の中心近くを貫通していたのである。この的は野外実験場の敷地ギリギリに置かれており、その距離は小銃用標的の約二倍の筈だった。いくら弾頭が重く直進性が高いからといって、この距離であれほどの正確な射撃はそう簡単には出来ない。ユウも他の操縦士に比べて銃撃の命中率はいくらか高いが、それでも彼女と比較すれば雲泥の差となる。相変わらずクレアの射撃の腕は確かなようだ。




 レフィオーネが持っているこの新型装備は先生が大雑把に図面を引き、それをグレイブの兵器開発局が設計し直したものである。従来よりも大きく重い弾薬を使用するそれは理力甲冑が持つにはギリギリの大きさになっており、これまでにないほどの火力と射程を有している。


 現在の理力甲冑用の銃器は、対理力甲冑戦に合わせて設計されている場合が多い。そのため、一部の大型の魔物に対しては火力不足が指摘されており、実際にそれが原因とされる魔物被害が年に何度か報告されている。以前、エンシェントオーガとの戦闘においても自前の小銃が全く通じない事を痛感したクレアは先生に相談し、ここに至ってようやく対魔物用の大型銃器が完成したのであった。


 その威力は凄まじく、着弾角度にもよるが距離およそ2000メートルで厚さ70ミリの鉄板を貫通するほどである。これは事実上、現行の全理力甲冑の装甲は貫通可能ということになり、対魔物戦においてもこれほどの貫通力と銃弾の運動エネルギーならば観測されている最大級の魔物相手でも遅れは取らない。(ただし、グラントルクの胸部装甲および、一部の大型盾は厚さが70ミリを超えるのでこの距離(2000m)以上ならば耐えられる計算となる)


 しかし、この大火力と引き換えに携帯性や装弾数、取り回しなどが犠牲になっているのも事実だ。もともと非力なレフィオーネでは構えるのがやっとで、ある程度の距離で動き回る敵には向かないだろう。それにこの装備を担いで戦闘空域を飛ぶのは重量バランスの問題から推奨されない。もっぱらの運用法はホワイトスワンや味方陣地からの支援射撃、または狙撃に集中され、弾薬が尽きた場合はその場に置いていくしかない。




「ちょっと取り扱いが難しいけど、これならどんな魔物も理力甲冑も一撃ね!」


 少しずつ聴力が戻ってきたユウはクレアの嬉しそうな声を聞き、すこし引き攣った顔で返答に困ってしまう。


(これはちょっと、いやかなり過剰な火力なんじゃないかなぁ……)


 しかし、やたらと喜ぶクレアの事を考えてとりあえず同意することにした。


「うん、凄いね……この何? 対物ライフル?っていうの?」


「先生は対魔物用だから()()()()()()()()って言っていたわ。らいふるって小銃の事でしょ? えーえむはどういう意味かしら」


 おそらくAM(アンチモンスター)ライフル、という事かとユウは予想する。先生のネーミングセンスは案外単純だったりするのだ。


「そのまんまだよ、きっと。対魔物用ライフル」


 無線機の向こうではクレアが何か唸っている。一体どうしたのだろうか。


「AMらいふる、じゃあちょっと味気ないと思わない? なんか、こう……」


 ユウはふむ、と腕を組みながら考える。その大型銃器は長大で、レフィオーネが運搬する時は背負わなければならない。それはまるで尻尾のようにも見えなくはない。


「それなら……ブルーテイルはどうかな? 青い鳥の名前から取ったんだけど」


「ブルーテイル……ね。いいじゃない! 決めたわ、この銃はブルーテイルよ!」


 レフィオーネが立ち上がり、対魔物用大型ライフル・ブルーテイルを再び構える。両足を大きめに開き、しっかりと脇を締めておかねば、まともに立つ事も難しい。


「……先生に言ってもう少し重量のバランスを見直してもらった方がいいわね」











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