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【完結済!】天涯のアルヴァリス~白鋼の機械騎士~  作者: すとらいふ
第二章 旅立 〜幻のオーガスレイヤー〜
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第二十六話 極光・1

第二十六話 極光・1


 すっかり荒廃した大地をアルヴァリスが走る。月明かりが雪と機体に反射してキラキラと輝く。


 焦る気持ちをユウはなんとか押さえる。少し前にクレアから緊急の無線が入り、トラブルが起きたとの報告を聞いた。あのクレアが焦って連絡をするくらいだ、スラスターの不調は深刻なのだろう。


 相変わらず進路を倒木が邪魔をしている。なかなか思うように走れず、苛立ちを覚える。


「……ッ!」


 前方に少し開けた場所が見えた。ユウはアルヴァリスの歩幅を広げ助走に入る。ある程度速度が乗ったところで地面に全重量を掛け、軸足の力を一気に解放させる。


 あまりの衝撃に雪や土砂を辺りに撒き散らしながらアルヴァリスは月夜へと大きく飛翔した。緩やかな放物線を描き、次第に高度を落としていく。こういう時にレフィオーネのような推進装置が欲しいと思ってしまう。


 機体の姿勢を制御しながら着地する。そのまま速度を殺さずに再び走りだし、再び跳躍する。


 何度目かの跳躍の後、遠くに大きな人影が2つ見えた。エンシェントオーガだ。その前を半分くらい小さな青い影がヒラヒラと舞っている。


 クレアのレフィオーネだ。


 アルヴァリスは姿勢をさらに前傾にして力の限り走る。レフィオーネのあの様子では回避するのに精一杯だろう。一秒でも早く合流しなくては。


 そう思った瞬間、レフィオーネがふわりと宙に浮き、手にした長銃を一体のエンシェントオーガに向けて発砲した。攻撃されたオーガは顔を押さえて悶えている。が、もう一体のオーガがレフィオーネのすぐ横にまで接近しているではないか。


 ユウは直感的にアルヴァリスを跳ねさせた。


 遠い。遠い。


 届かない。もっと速く。


 エンシェントオーガが左手を振りかぶる。レフィオーネは気づいていない。


 そのままオーガは拳を振り抜き、レフィオーネは遥か向こうに吹き飛ばされてしまった。


「クレアーッ!!」


 ユウは叫ぶと同時に夢中でアルヴァリスを水平に跳躍させた。空中で姿勢を変え、一直線にエンシェントオーガに飛び込んでいき、そのまま蹴り飛ばしてしまった。


「……ウ……あと…………わ……」


「クレア! 大丈夫?!」


 しかし無線は沈黙したままだ。ユウは全身の血が逆流したような気がした。


 不意の飛び蹴りにたたらを踏んでいるオーガに向かって飛び上がり、空中で剣を抜く。そしてその切っ先をエンシェントオーガの露出している分厚い胸板に突き立てた。


「ぐっ!」


 しかし、剣は刀身の一割ほどしか突き刺さらない。オーガ種の筋肉は非常に密度が高く、そう簡単には攻撃が通らない。ならばとばかりに、ユウは剣を縦に振り上げる。オーガの軽装鎧を足場にもう一度跳躍させると、今度は顔面を切りつけた。


「これなら!」


 顔に斜めの切り傷が入ったエンシェントオーガは低いうめき声を上げた。しかし、すぐにアルヴァリスを捕まえようと左手を伸ばしてくる。ユウはそれを器用に避けるように、顔面を蹴りつけて離脱した。


 ダラダラと顔から流血させながら咆哮する。機体がビリビリと震えるが今は知ったこっちゃない。ユウはアルヴァリスの左手にライフルを持たせ、再び突撃する。今度はライフルで顔の周辺を掃射しながらなので、思わずエンシェントオーガは左腕で頭部を守りながらこん棒を手当たり次第に振るう。


 エンシェントオーガの視界を一時的にふさいだユウはスライディングの要領で股下をくぐり抜ける。そして素早く立ち上がると同時に高く跳躍し、オーガの首筋を背後から切りつけた。またしても刃は深くまで届かなかったが、傷は確実に負わせている。アルヴァリスは落下する寸前にエンシェントオーガの後頭部を左腕に装着された盾の先で殴りつけた。


「まだだ!」


 そのまま背後に着地したアルヴァリスは弾倉が空になったライフルを後方に投げ捨て、両手で剣を水平に持つ。そして左の膝裏へと剣を力の限り突き立てた。


 ガツっと音がして剣は止まったが、アルヴァリスは自身の重量を乗せるように一歩を進める。エンシェントオーガは思わずその場に崩れそうになってしまい、ユウは機体を剣ごと左前方へと突き進めた。


 何か固いものを切断したような鈍い衝撃が機体を振動させ、剣を押しとどめていた抵抗が無くなる。投げ出されるような格好になったアルヴァリスは前転しながら距離を取った。振り向くと左膝から大量の血を流し、地面に両手両膝をつくエンシェントオーガの姿があった。右手に持っていたはずのこん棒は近くに転がっている。


 剣についた血のしずくがぼたりと落ちる。再度、構えたアルヴァリスは次にエンシェントオーガの右肘に剣を突き立てた。くぐもったうめき声が近くから聞こえるが、それがどうした。アルヴァリスは突き立てた剣をねじり込み、そのまま振り抜いた。もはや体を起こすこともままならないオーガは大地に突っ伏すしかない。


 アルヴァリスはうつ伏せになっているオーガの背中に乗り、重量を乗せて勢いよく剣を突き立てる。しかし、先ほどと同じく深くは刺さらない。そのことに苛立ったのか、ユウは何度も剣を突きさすがあまり効果はない。


 ふと視界の中に巨大なこん棒が映った。ユウは無言のままそれに近寄る。理力甲冑より遥かに大きいエンシェントオーガの振るうこん棒だ、生半可な大きさと重量ではない。そのこん棒の握りをアルヴァリスは両手で抱え、全身で持ち上げようとする。相当な重量だ、つま先が地面にめり込んでいくのが分かる。しかしユウはだからどうした、と心の中で叫ぶ。


 徐々に巨大なこん棒は持ち上がり、しまいにはエンシェントオーガがするように天高く振り上げてしまった。膝や腰回りの人工筋肉と骨格が悲鳴を上げるかのように軋みだす。しかし、今のユウにはそんなことを気にする余裕はない。


「うおおぉぉっ!!」


 怒りの気勢を上げたユウはこん棒を持ったままアルヴァリスを跳躍させる。踏み切った地面は凄まじい圧力に耐えられず深く陥没したかのようになってしまった。それでも普段に近いくらいの高さまで跳んだアルヴァリスは、落下速度とこん棒及び機体の重量を乗せた一撃を頭部に目掛けて振り下ろす。


 小さく地面が揺れ、エンシェントオーガは絶命した。かつて頭部があった場所には自分のこん棒が代わりに地面へとめり込んでいる。


 ユウは操縦席の中、肩で息をしてる。疲労はしていないはずだが、何故か息が荒くなっていた。そのまま、今しがた倒したエンシェントオーガの亡骸を前にただ立ち尽くしている。


「…………もう一体は?!」


 ユウはエンシェントオーガが一体だけではないことを思い出した。怒りのあまり、目の前の敵しか見えなかったことに憤りを覚えるが、とにかく探さなくては。


 その瞬間、ユウは背後から得体のしれない圧力のようなものを感じ、咄嗟に前方へと駆ける。


 しかし間に合わなかったのか、ゴウッという風切り音と共にアルヴァリスは背面から大きな衝撃を受けてしまい、地面に突っ込んでしまう。


「うう……」


 地面にぶつかった時にどこかで額を切ったらしく、ヌルリとした感触が顔を伝う。大丈夫だ、意識ははっきりしている。


 むち打ちをしたように全身が痛むが、まだ十分動く。機体の方は……まだいけそうだ。


 一瞬の判断で回避したことが功を奏し、背後からの一撃は芯を外れていたのだろう。いくらか損傷はしたようだが、戦闘に支障が出るほどではない。


 痛む体を気遣う暇もなくユウは機体を立て直す。目の前には左目から血を流すエンシェントオーガが立っていた。


 エンシェントオーガはアルヴァリスが立つのを待っていたかのように、攻撃を再開する。だらりと下げていた右腕に力を込め、こん棒を勢いよく振り上げた。それになんとか反応したユウは機体の左半身を前に向け、盾で受け止めようとする。


 大きな音を辺りに響かせながら盾はその衝撃を吸収した。しかし、エンシェントオーガはそのままこん棒を振り上げようとさらに力を込める。


 するとアルヴァリスはこん棒に引っかけられるようにして宙へと吹き飛ばされてしまった。ユウは慌てて空中で体勢を直そうとするが、上手くいかない。しかし、こん棒によるダメージこそ受けきったものの、この高さから落下するのは危険じゃないか?


 腹の底に奇妙な浮遊感を覚えた頃は相当な落下速度がついてしまっていた。どうにか着地出来る姿勢にしなければ。


 もがくようにして機体を立て直そうとしたユウは、エンシェントオーガの狙いが落下によるダメージではないことに気付く。いつの間にかオーガは機体の落下地点近くまで来ており、その両手はこん棒を握りしめていた。


 ユウは無駄かな? と一瞬思ったが、一か八かにかけて盾を構える。


 ユウは野球のトスバッティングをイメージした。もちろん、打者はエンシェントオーガで、ボールは自分だ。空中で移動する術を持たないアルヴァリスはただ、盾を構えるしかできない。


 一際大きな音と衝撃を感じた後、体のあちこちに急激な加速度がかかる。何がどうなったか分からない。


 一瞬、気を失っていたのかも知れない。おそらく、アルヴァリスはオーガのスイングで地面に叩きつけられたのだろう。機体は……まだバラバラにはなっていない。頑丈で良かった。


 口の中が鉄の味でいっぱいになる。全身が軋むように痛い。頭もぶつけたのか、少しぼんやりする。


 クレアを助けにきたはずなのに、このままじゃあ……。


 もともと無理があったのかな……この作戦。


 外の様子を映すディスプレイに大きな人影が見える。このままでは……。痛みをこらえて操縦桿へ右手をのばす。しかし、アルヴァリスは起き上がらない。


 なんとか力を込めるが、どうにも上手くいかない。そうしている間にもオーガは近づいてくる。


 ユウは操縦桿を必死に揺らすが事態は変わらない。エンシェントオーガがこん棒を振り上げる。


 すると一発の銃声が響いた。一体誰が……?


 どうやら銃撃は背後からだっらしく、オーガがその方向へと向きを変える。そこにいたのは……。


「まさか、クレア?!」


 淡い水色の機体が片手で銃を構えていた。全身はボロボロで左腕は肩から無くなっている。腰のスラスターもいくつか脱落しているようだ。


「クレア! 無事だったのか?! 何してるんだ、早く逃げろ!」


 かすれた声でとにかく叫ぶ。しかしレフィオーネは逃げようとせず、ぎこちない動きの片手で次弾を装填している。


 このままじゃあクレアも……!


 エンシェントオーガは狙いをレフィオーネに変えたらしく、ゆっくりと歩みを進める。


 もう一度銃声がする。しかしオーガは怯む素振りすらしない。


 動け動け! 動けよ! クレアを助けなくちゃ!


 悪鬼(エンシェントオーガ)がレフィオーネに止めを刺そうとこん棒を振り上げる。









「動け!!」










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