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【完結済!】天涯のアルヴァリス~白鋼の機械騎士~  作者: すとらいふ
第二章 旅立 〜幻のオーガスレイヤー〜
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第二十四話 羅刹・3

第二十四話 羅刹・3


 今夜は満月だ。ユウの知っている月よりもこの異世界(ルナシス)の月は大きく見える。その月が一番高くなった頃、ユウはアルヴァリスで出撃する。交代の四時間がそろそろ来るのだ。


「クレア、そろそろ時間だよ。今どの辺にいる?」


 ユウが無線で呼びかけると、少ししてからクレアの声が聞こえた。若干、疲労している為か、息が切れ気味だ。


「やっと時間? 追いかけっこは疲れるわね。今奴らのいる場所は……」


 ユウはクレアから教えてもらった地点を目指して静かに走る。辺りは先日の吹雪で積もった雪が残っており、理力甲冑の足音をいくらか消してくれている。


 しかし、アルヴァリスにはレフィオーネのようにスラスターが無いため、足跡が残っていしまう。そこで適度な大きさの木を切り倒し、それを腰に括り付けた。こうすることで雪に残る足跡は引きずられる枝葉がかき消すのだ。多少は重いが、急いで逃げるときなどの緊急時には簡単に切り離せるようにしてある。


 アルヴァリスはいつもの専用ライフルを携え、左腕にはオニムカデから作られた特注の専用中型盾を装備している。そして盾の裏には直前まで先生が作っていた特製アイテムが取り付けられていた。


「まだ必要ないかもしれないデスけど、もし奴らが追跡を諦めて眠りそうになったら、コレのピンを抜いて投げつけるデス。ピンを抜いてからすぐに投げてくださいよ?」


 先生によると物凄い音がするらしいが、どうみてもただの一斗缶をいくつか束ねた物に小さな機械が付いただけの代物だ。中には何も入っていないのか、ユウが両手で抱えて運べるほどだ。いったい何なんだろうか。


 目標地点に近づくと、ユウは慎重に周囲を確認しながら進む。すると、右前方に薄い水色の機体がちらりと見えた。クレアのレフィオーネだ。無線で連絡しながらアルヴァリスは近くまで歩く。


「クレア、お待たせ。奴らは?」


「遅いわよ、ユウ。これからもう一発撃つからその方向にいるわ。距離は大分あるから、向こうの丘にでも隠れて様子を見て。足は遅いみたいだから、万が一の時は全力で走って逃げればいいわ。……奴ら、賢いからだんだん狙撃のパターン読まれてきた」


 レフィオーネが長銃を握りなおすと、本日もう何度目かの狙撃を行った。そして長銃を肩に担ぐと、アルヴァリスが元来た方向へと走り出した。


「じゃ、気を付けてねユウ。その銃の射程は短いけど、アルヴァリスは足が速いから大丈夫よ。でも、決して接近戦はしないでね」


 そう言い残してクレアとレフィオーネは走り去る。ユウも丘に向かってアルヴァリスを走らせた。木の影に機体を隠してしばらく待つと。


「デカい……な……」


 ユウは初めて見るエンシェントオーガの巨大さに圧倒される。これはクレアの言う通り、接近しての殴り合いなど、理力甲冑では簡単に打ち負けてしまう。クレメンテにいるシンが操る専用の重理力甲冑、グラントルクでも敵わないだろう。


 それと人型をしているというのに、人類とは異なる生物なのだと思い知らされる異様さが目に付く。ユウにはそういった知識はないが、恐らく骨格や筋肉などは人間のそれとは決定的に違うと分かる。人間よりも腕が太く長く、代わりに足は短めだ。頭もやや大きく、鋭い牙が口から覗いている。軽装の鎧から見える肌は朱色をしており、大きなこん棒を持った姿はまるでおとぎ話に出てくる鬼のようだ。


「それじゃ、60時間耐久鬼ごっこの始まりかな?」


 そう言ってユウはライフルを構えさせる。三発ほど連射したのちにすぐさま反対方向へと走り出す。遥か後方では何かの雄たけびが聞こえる。もう何時間もおちょくられているのだ、生半可な怒りではなさそうだ。走りながらちらりと後ろを見ると、どうやらエンシェントオーガ達は進路上の木々をなぎ倒しながら追ってきている。


「いいぞ、もっと怒れ。休む間もないくらいにな」


 先ほどまでの襲撃者とは異なる攻撃パターンになったためか、エンシェントオーガは真っすぐアルヴァリスを追わずに少しジグザグに進み始めた。狙撃ではなくライフルを警戒しているのか、あちこちにこん棒を振り回しながら進む様子はまさに暴風だ。いったいどんな巨木から削り出したのかというようなこん棒は周囲の木々を蝋細工か何かのようになぎ倒す。


 ユウは走りながらチラチラと後方を確認する。エンシェントオーガが着いてきているの確認した瞬間、空中に何かが舞っているのが見えた。月明かりの下でもよく見えない。それにだんだんとこちらに近づいている……?


「……まさか?!」


 ユウは飛んでくる何かに気付き、アルヴァリスを思い切り跳躍させる。その直後、元いた場所に大木が空から降ってきたのだ。


「一体どんなバカ力してんだ!」


 彼らは闇雲に周囲の木をなぎ倒してはいなかった。クレアの時よりも敵が近い場所にいると分かって、木を投げ槍のように投擲しだしたのだ。


「うわっ!」


 しかも狙いは正確で、気を抜いたら飛来する大木に押し潰される。今もアルヴァリスのすぐ真横に落ちてきて、地面が大きくえぐれた。


「でもこれなら、こっちから攻撃しなくてもいいかな、今は回避と距離に注意! すれば!」


 急いで腰に括り付けた足跡消しの木を切り離して、再びアルヴァリスは跳躍する。エンシェントオーガと行われる命がけの鬼ごっこにより、辺りの森は段々と切り開かれていく。彼らは力任せにこん棒を振り、理力甲冑ほどもある大木を根こそぎ引っこ抜き、それを敵に向かって投げつける。倒れていたり地面にめり込んだ木があちこちに並び、これでは森林破壊もいいところだ。


 辺りが段々と夜の深い黒から澄んだ藍色に変わり、やがて白み始めた頃、エンシェントオーガ達は不意に追跡を止めてしまった。二体とも肩で息をしており、かなりの疲労が蓄積されてきたとみえる。大きな咆哮を一つ上げた後、どこかに向かって歩き出した。ユウは大きく息をつき、気付かれないように後をついていくが、奴らがこれまでになぎ倒した木が邪魔をしてなかなか進めない。


「なるほど、ここがオーガの夜営地ってわけか」


 二体のエンシェントオーガは疲れ果てたのか、すっかり燃え尽きて炭になった小山の横にドスンと横たわった。これは先生の特製アイテムの出番かな?


 ユウは夜営地から少し離れ、アルヴァリスの盾の裏側に取り付けられた一斗缶の塊を手に取る。丁度、機体の手にすっぽり収まる大きさで投げるのに問題はなさそうだ。方向を確認したあと、先生に言われた通りピンを抜き、思い切り投げつけた。









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