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【完結済!】天涯のアルヴァリス~白鋼の機械騎士~  作者: すとらいふ
第二章 旅立 〜幻のオーガスレイヤー〜
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第十五話 黒騎士・1

第十五話 黒騎士・1


「ユウ一人で大丈夫かしら……」


 クレアのステッドランドは森のなかを走っている。先程までいた小高い丘からではユウの援護が出来ないうえ、木が邪魔をしてどんな状況かも分からない。なので、こうして直接確かめに行っているのだ。

 クレアのいた地点からユウがいる場所は南南西の方だが、森の木が密集していて理力甲冑ではそのまま真っすぐ進むことは出来なかった。なので通れる場所を探しながら少し遠回りをする羽目になってしまった。早く合流しなくては、いくらユウとアルヴァリスといえど単独での戦闘は危険だ。幸い、戦闘音のような大きな音はまだ聞こえない。ステッドランドは目の前を遮る枝を手で避ける。


「……それにしても敵はともかく、味方はどこにいるのよ」


 ホワイトスワンの様子を確認するため無線で連絡したところ、この森に理力甲冑が訓練のために訪れているという連絡を受けたらしい。しかも一機だけなので早急に見つけるように言われてしまった。この広く見通しの悪い森の中で一機の理力甲冑を探すというのはなかなか骨が折れる。だたちにその友軍と合流せよ、と言われたはいいものの、その相手がどこにいるかも分からないのではどうしようもない。まずはユウと合流してから考えよう。


 もうそろそろユウのいる場所の筈だが……あの開けた場所だろうか。クレアは歩く速度を緩め、銃を構えながら周囲を警戒しつつ進む。すると、見覚えのある白い機体が広場のほうにいるのが見えた。アルヴァリスだ。しかし、様子がおかしい。剣を構え、ゆっくりと移動している。尋常ではない雰囲気だ。


(戦闘中?! 敵は……!)


 クレアはアルヴァリスの向こうに黒い重装の理力甲冑を見つけた。あの機体は知らないが、肩に描かれている紋章は……。






 アルヴァリスは今まさに絶体絶命の危機に瀕していた。理力甲冑の動きを封じるために周囲の残骸を利用したのだが、敵の操縦士はむしろその残骸を蹴りあげることによって思いもよらない反撃の機会を作り出したのだ。


 黒い重騎士は蹴り上げた足を重量に任せて大地に踏み下ろす。しっかりと両足を踏ん張り、腰、胸、肩、腕を連携させた無駄がなく、とても滑らかな動きで上半身を捻る。そして右手が限界まで力を蓄えたところでピタリと止まり、前方へ向かって狙いを定める。恐ろしく迅く、まさに一撃必殺とも言える突きはアルヴァリスの胸部へと走る。その瞬間、槍の穂先はきらめく流星のごとく輝くように見えた。


 ユウは蹴り上げられた残骸をまともに食らってしまい、怯んでしまっている。予想外の反撃にアルヴァリスの体勢は崩れてしまい、いまからでは防御が間に合わない。左腕には盾を装備していない。どうする――――


 今まさに全てを貫くような鋭い槍の一撃がアルヴァリスの胸部を穿とうとしたその瞬間、一発の銃声が響いて黒い理力甲冑の足元の土が跳ねた。そのお陰で操縦士は突然の攻撃を警戒しなくてはならず、結果として槍の鋭さは削がれた。ユウはアルヴァリスの上半身を捻りなんとか回避することが出来た。


「誰だ、テメェ……!」


 邪魔をされたからか、激しい怒気を発する。どうやら、黒い理力甲冑はアルヴァリスの後ろを見ている。ユウが振り返ると、そこには銃口から硝煙が流れる長銃を構えたステッドランドがいた。クレアが来てくれたのか。


「何やってんのよ、アンタ達。味方同士でケンカしてんの?」


 味方? 一体どういうことだろうか。


「そこの黒い理力甲冑に乗ってるアンタ、私たちは連合の操縦士よ。その槍を下ろして。じゃないと次は操縦席を狙うわよ」


 クレアのステッドランドは自身の肩を見せた。そこには連合とアルトスの紋章が描かれている。剣と盾、そして鳥の翼がデザインされたこの紋章は連合に属する都市国家の自衛と自由の意味が込められている。この紋章があるという事は連合所属の部隊という証だ。もちろんアルヴァリスにも、そして黒い理力甲冑の肩にも同様に連合の紋章が描かれている。味方同士という事が分かったのか、しばらくしてから構えを解いて、くるりとその長い槍を回すと石突を地面に突き刺した。


「お前ら、どこの所属だ?」


 黒い理力甲冑の操縦士は尋ねる。それに答えるため、クレアは操縦席のハッチを開けて顔を見せる。


「私たちはアルトス所属の理力甲冑部隊よ。私はこの部隊の隊長クレア・ランバート。本部にはホワイトスワン隊で通じるわ。そういうあなたはクレメンテの街の所属?」


 すると黒い機体の胸部が上下に開き、中から若い男性が現れる。男性にしては長い髪をさらさらと風に揺らしながら理力甲冑から飛び降りる。クレアとユウも同様に理力甲冑を降り、男のもとへ近づく。近くで見ると無精ひげを生やしており、精悍な顔つきだった。背はユウよりも高く、操縦士が着る専用スーツの上からでも分かるほどに鍛えられた筋肉が盛り上がっている。端的に言ってゴツイ体つきだ。


「ああ、そうだ。俺はクレメンテ所属の第三部隊、シン・サクマだ。……おい、あの白いのに乗っていた奴、お前、名前は?」


「……ユウ。ユウ・ナカムラ。白い理力甲冑はアルヴァリスです。」


「やっぱりな! お前もニッポン人か! するとやっぱりお前も召喚されて()()()に来たクチだろ?」


 シンと名乗った男性はそれまでの険しい顔を崩してにっかりと笑う。粗暴に感じた様子もなくなり、温和な声色で話す。戦闘中と普段とでは性格が変わるタイプの人物なのだろうか。いや、それよりもこの名前といい、この言動といい、もしかしてこの男もユウと同じ境遇の……?


「いやぁ、さっきは済まなかったな! あんまりお前が強そうなもんだからな、ついついやり過ぎちまった。悪かった、ユウ」


 シンは右手を差し出す。仲直りの握手なのだろう、ユウは握手に応じる。シンの手は大きく、がっちりと握りあった。


「あの、シンさん。あなたも召喚されてこのルナシスに来たんですか? 実は僕もそうなんです。」


「ああ、もう一ヶ月……いや、二ヶ月くらい前かな。家にいるとき突然、な。いきなり真夜中の森のなかに出たと思ったら、変な奴らに囲まれてよ。あれよあれよという間に連合に連れてかれて、このグラントルクの操縦士にされちまったんだ」


 そう言ってシンは背後の黒い理力甲冑、グラントルクを見る。操縦士であるシンと同じように精悍な顔の造形、見るからに厚そうな重装甲、簡素ながら所々に彫られた紋様、そして長大な槍。近接戦に特化した理力甲冑のようだ。先ほどユウが直に体験したシンの実力と相まって強力な機体のようだ。


「このグラントルクはどうしたんですか? ステッドランドやスピオールとも全然ちがうし、帝国にもこんな理力甲冑は無いんじゃ?」


「俺も詳しくは知らんが、連合で作っている新型理力甲冑の試作機の一つだそうだ。なんでもコイツは重装甲と重装備を重視して試作されたんだが、あんまりにも機体が重すぎて誰も扱えなかったそうだ。この俺以外は」


 シンはニカっと笑って見せる。なるほど、ユウと同じくこの世界に召喚されたシンも理力が並外れて強いのだろう、それでほかの操縦士が扱えない機体を与えられたというわけだ。もとい、押し付けられたわけだ。


「どうも俺達はよ、この理力甲冑の操縦士に適しているらしいな。まさか別の世界に来てこんなロボットに乗ろうなんてよ、人生何が起きるか分かったもんじゃねぇな!」


「さっき戦ってみてよく分かったんですけど、シンさんとグラントルクは相当の強さでした。あの、失礼ですが、何か武術を身に着けているんですか? 槍術とか」


 今まで愛想の良かったシンの顔が少し曇る。何かマズいことを聞いてしまったかとユウは不思議になる。


「あー、すまんな。その辺の話はおいおい、な」


 理由は分からないが話したくない事情があるのだろう、ユウはそれ以上は聞かないことにした。すると、いい加減クレアがもう良い? という顔をしながら割り込む。


「そろそろいいかしら? シン、少し聞きたいことがあるんだけど。ここらに散らばっている理力甲冑の成れの果てはアンタの仕業?」


「おお、そうだぜ。この広場は槍を振るうのにちょうど良くてな。街から離れているし誰もそうそう立ち寄らんから、よくここで修練していたんだ。すると無線で帝国の奴らがこの近くまで来ているっていうじゃねえか。たまには実戦も悪くないって考えてたところに、こいつらがノコノコ現れたもんだから思い切りやってやった」


 シンは手ぶり身ぶりで豪快に話してみせる。やはりこの理力甲冑の残骸は報告にあった敵の部隊の物か。しかしたった一機で多数を相手取ったにしてはグラントルクは傷はおろか、汚れの一つもない。戦闘の詳細は分からないが、よっぽど一方的な戦いだったのだろう。召喚された人間が操る理力甲冑とはこうまで強力なのか。クレアは改めてユウとシンの実力を思い知らされる。


「そう、それはお疲れ様。でも敵の部隊に遭遇したら連絡の一つはあってもいいんじゃない? それにうちのユウと本気で戦っていたみたいだけど、何かあったの?」


 クレアが少しトゲのある言い方をしたからか、問答無用でユウに襲い掛かってきたことを申し訳なく思っているからか、シンはすまなさそうに言う。クレアにはそんなつもりはないのだが、先ほどまでユウと戦闘をしていたシンに対して無意識のうちにきつい言い方をしてしまった。


「いや、本当に悪い。ちょうど、敵をなぎ倒した直後にこの白い機体が現れたもんでよ。増援が来たのかと思ったんだよ。自慢の槍が振るい足りなかったんだ。それに一目見て分かったぜ。コイツは強いってな。だから、報告も忘れてつい調子に乗っちまった」


 シンはユウに再びスマン、と手を合わせて謝る。何度も謝られてユウは困ってしまっている。


「まあ、いいわ。結果的に敵は倒してこっちはみんな無事だったし。それじゃ早く帰りましょ」


「おう、そうだ。俺のいる街まで来いよ。詫びといっちゃなんだが、飯でも奢るぜ?」


 クレアは少し何か考えてから尋ねる。


「アンタのいる街ってクレメンテよね? それならちょうどいいわ。次に立ち寄る街がクレメンテだったの」


「じゃあクレア、一度スワンまで戻ろう。シンさんもついてきて下さい」


 ユウは無線でホワイトスワンを呼び出してから現在の状況を報告し、合流地点を設定した。


「噂には聞いてるぜ。でっかい理力甲冑用の母艦なんだってな。早く乗ってみてーな!」







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